1 依頼者の概要
業種 住宅プランニング、設計、加工
地区 福岡市
従業員数 5名
2 事案
依頼者Xは、相手方Yが木造2階建ての建物を焼肉店に改装して営業を開始するにあたり、Yとの間で、工事代金を約980万円とする工事請負契約を締結しました。
工事代金については、工事の進捗に応じて3回に分けて支払う旨を合意していました。
Xは、完成予定日までに工事を完成させ、Yに建物を引き渡しました。引渡し後も、Yから補修を求められたり、工事の不具合を指摘されたりすることはありませんでした。
Yは、建物の引渡しを受けた後、焼肉店の営業を開始し、客足も順調でした。
ところが、Yは、工事代金の一部を支払ったのみで、残代金約600万円を支払いませんでした。Yは、Xに対して「振り込みます」「口座を教えてください」などと述べながら、実際には支払いをしないという状況が続きました。
3 経過
(1) 最終支払期限から1年が経過しても、Yが残代金約600万円を支払わなかったため、Xは、やむなく工事代金の支払いを求める訴訟を提起しました。
(2) 訴訟において、Yは、それまでXに対して工事の不具合を具体的に指摘していなかったにもかかわらず、「Xの施工には不備がある」「2階の床が揺れるため、客を2階に上げることができない」「天井から木片が落ちてきた」などと主張し、残代金の支払いを拒否しました。
(3) そこで、開業後の焼肉店で約6か月間、店長として勤務していたAさんから詳しく事情を聴取しました。その結果、2階の床が揺れるようなことはなかったこと、実際に2階にも客を案内して営業していたこと、その他、店舗の使用に支障を来すような工事上の不具合はなかったことなどが確認できました。
そこで、Aさんから聴取した具体的な事実関係を陳述書にまとめ、裁判所に提出しました。
(4) さらに、契約当時の設計図や施工前後の写真等の資料を精査するとともに、建築士の協力を得て、専門的な見地から意見書を作成し、裁判所に提出しました。
これにより、Yが主張するような建物の強度上の問題が認められないことなどを、客観的かつ具体的に立証しました。
(5) その結果、裁判所はXの請求を全面的に認容し、Yに対して残代金約600万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。
4 担当弁護士のコメント
本件は、Yが正当な理由なく工事代金の支払いを怠っていた事案です。
Yは、Xに対して「支払う」と述べながら、実際には支払いをせず、時間だけが経過していました。このような場合、相手方の言葉を信じて待ち続けていると、未払いの状態が長期化するだけでなく、時間の経過によって関係者の記憶が薄れたり、重要な資料が失われたりするおそれもあります。そのため、本件では、残代金の支払いが期待できないと判断した段階で、速やかに訴訟を提起しました。
訴訟では、Yから、それまで具体的に指摘されていなかった工事の不備が主張されました。
このような場合、相手方の主張に対して単に「工事に問題はなかった」と反論するだけでは十分ではありません。どのような工事を行ったのか、完成後の建物が実際にどのように使用されていたのか、相手方が主張する不具合が客観的に存在するのかといった点について、具体的な証拠を提出することが重要です。
本件では、依頼者Xから詳細に事情を聴取するとともに、実際に店舗で店長として勤務していたAさんから、営業当時の店舗の状況について具体的な事情を聴取することができました。また、設計図や施工前後の写真等の資料を整理したうえで、建築士の協力を得て専門的な意見書を提出することができました。これらの証拠を組み合わせて提出したことが、Xの主張を裏付けるうえで大きな意味を持ったと考えています。
工事代金請求では、工事が完成し、相手方が建物や店舗を使用しているにもかかわらず、代金請求を受けた段階になって、突然、施工上の不備や不具合を主張されることがあります。
そのような場合でも、契約書、見積書、設計図、施工中・施工後の写真、メールやメッセージのやり取りなどの資料を精査するとともに、工事後の建物の状況を知る関係者から事情を聴取し、必要に応じて建築士等の専門家の意見を求めることで、相手方の主張に対して具体的に反論・立証することが可能です。
工事代金の未払いが続いている場合には、相手方からの支払いの約束を漫然と待つのではなく、できるだけ早い段階で証拠を整理し、適切な法的手続を検討することが重要です。

