不動産を巡るトラブルについて弁護士が解説

不動産を巡るトラブルについて弁護士が解説

1 不動産売買を巡るトラブルについて

「不動産の購入を検討しているが、注意すべき契約のポイントがわからない」
「購入してすぐに欠陥が見つかってしまった」
「想像していた物件と実際の物件とに大きな違いがあり、困っている」

 このような相談が多く寄せられています。

 不動産の売買は取引額が高額であるため、慎重に契約を結ぶ必要があります。

 不動産の取引の場合、契約書を作成するのが一般的ですが、契約書を作成するといっても、ポイントがわからないというのが普通ではないでしょうか。

 法的な専門知識がなければ、事前に確認しておかなくてはならないポイントがわからず、後々大きな不利益を被ってしまうおそれがあります。一度契約を結んでしまうと、解約するのが難しくなります。

 以下では、不動産の売買契約のポイントを解説します。

(1) 代金の支払・物件の引渡・移転登記の時期

 売買代金は期限まで遅れずに支払わなければなりません。そのため、支払い時期を明確にしておく必要があります。

 契約締結後、決済日に代金支払と不動産引渡・移転登記の手続を行うことが一般的です。代金の支払日となる決済日までに資金を準備することになります。

(2) 手付金について

 不動産の売買では、契約締結の際、手付金として売買代金の一部を支払うことがあります。一般的には、売買代金の10%程度です。

 手付金には、売買契約が成立した証拠としての役割があります。また、それだけではなく、買主が手付金を放棄するか、他方、売主が手付金の2倍の額を支払うことで売買契約を解除できるという解約手付の役割もあります(民法557条)。

 もっとも、いつまでも解除できるわけではなく、契約条項では「相手方が本契約の履行に着手する前」までに手付解除ができると記載されていることが一般的です。

(3) 境界の明示

 土地の売買では、通常、売主が引渡しまでに、買主に対して土地の境界を明示する必要があります。

 そこで、売主としては、隣地の所有者との間で、土地の正確な面積を測量するとともに、隣地との境界を確認する作業を行います。

 また、境界について隣地との間で争いがある場合など、境界の明示ができないのであれば、不動産業者と買主にその事情を説明し、取引内容について協議する必要があります。

(4) 土地面積と売買代金の関係

 土地の売買代金を決める際に、公簿売買と実測売買とがあります。

ア 公簿売買とは

 「土地登記簿の表示面積によって売買代金を確定する」というものです。一般的に、山林や農地のような広大な土地の売買は、公簿売買によって行われています。また住宅地でも公簿売買を行うケースが多い地域もあります。

 公簿売買の場合は、登記記録の面積と実測面積が食い違う可能性があるので、食い違う場合の代金の差額をどのように清算するか(または清算しないか)を契約書に記載する必要があります。

イ 実測売買とは

 「土地の測量を実際に行って正確な面積を出し、その面積(実測面積)によって代金を確定する」ものです。個人間の住宅地の売買を中心に実測売買を行うケースが増えています。

 なお、実測売買の一種として、暫定的に登記簿の面積による代金で契約しても、後に実測面積との差額を精算する方式をとることもあります。

(5) 契約不適合責任

 不動産を引き渡した後、地面の下にコンクリートのがれきや杭などが埋設されていた、建物に雨漏りがあったなど、売買時に分からなかった欠陥が見つかることがあります。

 このような場合、買主は、売主に対し、その内容に応じて、欠陥を修繕してもらう(追完請求、民法562条)、代金を減額してもらう(代金減額請求、民法563条)、損害賠償の請求、契約の解除ができます(民法564条)。この売主の責任を「契約不適合責任」といいます。以前は「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものが変更されました。

 「契約不適合責任」は売主にとって重い責任なので、契約不適合責任の範囲を限定する特約がなされることがあります。

 売主も買主も、契約の際、売主が負担する契約不適合責任の範囲を理解して契約する必要があります。

 なお、宅建業者が売主として業者以外の買主に売却する場合は、民法の規定よりも買主に不利な特約をすることはできず、そのような特約を定めたとしても無効になります(宅地建物取引業法40条)。

(6) 固定資産税等の取り決め

 固定資産税・都市計画税は、毎年1月1日時点の所有者に納税義務がありますので、売主は、売買を行った年度も税金を納付します。

 もっとも、決済日以降に相当する税額は買主が負担することが公平ですので、決済日以降の税額相当分を計算して、買主が売主にその分を決済日に支払うことが多いです。

 契約の際、特に売主は固定資産税等の清算の取り決めを忘れずに行う必要があります。

(7) ローンの特約

 例えば、買主が住宅ローンを利用して物件を購入する場合は、金融機関から融資が受けられなかった場合には資金調達できなくなります。そこで、その場合の処理の取り決めが必要です。

 金融機関から融資が受けられなかった場合は、契約を解除・失効し白紙に戻した上で、売主が受け取った手付金は無利息で買主に返還する、との特約がなされることが通常です。

 

2 弁護士による不動産売買を巡るトラブルへの対処法

 特に契約不適合責任が問題となります。

(1) 契約不適合責任と瑕疵担保責任

ア 契約不適合責任とは?瑕疵担保責任との違いについて

 契約不適合責任とは?

 契約不適合責任とは、売主が買主に対して、売買契約に従った商品を提供する責任を指します。売主が提供する商品が契約に基づく状態にない場合(例えば、欠陥がある、約束された機能を果たさない等)、売主はその不適合を負います。

 売主は、商品が契約通りの状態にないことを知らなかった場合でも、この責任を問われることがあります。商品が契約に適合しているか否かの判断は、商品が買主に引き渡された時点で行われます。

 

イ 契約不適合責任と瑕疵担保責任の違いについて

 瑕疵担保責任では、売主に責任を問えるのは「隠れた瑕疵(欠陥)」とされていました。契約不適合責任では、欠陥が隠れていたかどうかは関係なく、「契約内容に適合しているかどうか」が問題にされます。

 

ウ 契約不適合責任についての対処法

 契約不適合責任を問う場合、以下の選択肢が一般的に考えられます。

 

① 履行の追完請求

 買主は売主に対し、商品の修補を請求することができます。また、代替履行(代わりになる同等の商品を提供する)を請求することもできます。

 

② 代金減額請求

 買主が売主に対し、相当の期間を定めて履行の追完を催告し、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます。

 なお、追完が不能の場合など、一定の場合には催告なしで直ちに代金減額請求が可能です。

 

③ 損害賠償請求

 契約不適合がある場合、買主は履行の追完請求や代金減額請求が可能ですが、それによって債務不履行による損害賠償請求をすることは妨げられません。

 

④ 契約の解除

 契約不適合がある場合、買主は債務不履行による契約の解除を請求することも可能です。この場合は解除の要件を満たす必要があるので、例えば、催告解除の場合は不適合が軽微であるときは解除ができないなどの制限があります。

 これらの選択肢は、商品の性質や不適合の度合い、そして売買の状況により異なる結果をもたらします。具体的な対応は、専門家に相談することをお勧めします。

 

⑤ 契約不適合責任が請求できる期間

 売主が契約不適合の商品を買主に引き渡した場合でも、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、契約不適合責任を追及できなくなります(民法566条)。

 なお、取引が事業者や会社などの商人間で行われるときは、買主は遅滞なく検査しなければなりません。そして、検査で不適合であることを知ったら直ちに通知しないと、責任追及ができなくなります。さらに、商人間では検査で直ちに発見できない不適合でも、買主が納品後6か月以内に発見し、不適合について直ちに通知しないと、責任追及ができなくなります。(商法526条)

 このような期間制限には注意が必要です。

(2) 契約不適合責任に関する契約書での注意点

 契約不適合責任については、取引の実情に合わせて、当事者間で協議して契約書で規定することが重要です。以下、弁護士が推奨する契約書作成での注意点をいくつか挙げてみます。

 

ア 商品の詳細

 契約書には商品の詳細な情報を記載することが必要です。これにより、売主と買主が互いの期待を明確にし、後に不適合が生じる可能性を減らすことができます。

 

イ 保証条項

 商品の品質や性能についての保証を明示的に記載し、どのような状況で保証が適用されるかを明確にすることが重要です。

 

ウ 責任の範囲

 不適合責任が生じた場合の対処法(修補、代替履行、契約解除、代金減額等)と、それに伴う費用の負担者を明確に定める必要があります。契約不適合責任に関する条項が契約書に記載されていない場合には、法律の規定通りの処理になりますが、契約書上で責任の内容を明記しておくと、取引当事者の理解を高め、トラブルの可能性が減少するでしょう。

 

エ 紛争解決手段

 不適合による紛争が生じた場合の解決手段を記載することも重要です。訴訟、調停、または仲裁等の紛争解決手段を明記し、事前に合意を形成することが推奨されます。

(3) まずは弁護士にご相談ください。

 契約不適合責任は、契約における重要なポイントであり、適切な理解と対応が求められます。それぞれの責任がどのように発生し、どのように対処すべきかという点は、商品の性質や具体的な状況により大きく変わるため、専門的なアドバイスが必要です。

 契約書作成の際や、契約不適合責任について問題が生じた場合は、早めに弁護士に相談することをお勧めします。

 

3 不動産賃貸借を巡るトラブルについて

(1) 家賃滞納・賃料滞納への対処方法

ア 家賃滞納、滞納賃料回収の手続の流れ

 家賃滞納は、賃借人が約定した日までに家賃を支払わないことを指します。一度、家賃滞納が発生してしまうと、その後も滞納が継続することが多く、放置してしまうと回収は非常に難しくなります。家賃において、滞納が発生した場合、賃貸人はまず賃借人に対し家賃の支払いを催促します。催促を行ったにもかかわらず家賃が支払われない場合、賃貸人は賃貸借契約を解除することが可能です。

 

イ 家賃滞納、滞納賃料回収への対処方法について

 家賃滞納の対処方法としては、まず催促状を送ることが考えられます。催促状を送付した後、賃貸人が家賃を受け取ることができない場合、賃貸借契約を解除する旨を通知する解除通知を送ることになります。さらに、その後も家賃が支払われない場合、貸主は滞納金の支払いを求める訴訟を提起することも可能です。

 

ウ 預金や給与を差し押さえる場合について

 訴訟を提起し、裁判所から滞納金支払いを命じる判決が出れば、賃貸人は滞納金の回収のために賃借人の財産を差し押さえることができます。差押えの対象となるのは、賃借人の預金や給与などの賃借人の財産です。差押えの際にも手続や必要事項があります。

 

エ 家賃滞納、滞納賃料回収トラブルを未然に防ぐ方法

 家賃滞納問題を未然に防ぐには、以下のような対策を取ることが重要です。

 まず、賃貸借契約締結時には、賃借人の信用情報を確認し、安定した収入があるかを検証することが重要です。次に、契約書には滞納時の対処方法を明記することで、賃借人に家賃滞納のリスクを理解させ、家賃滞納を防ぐための適切な理解を促すことができます。

 家賃滞納が発生した場合、回収については労力がかかりますし、コストが発生する場合があります。予め、トラブルになった際のことを想定し契約書を作成しておくことが重要です。

(2) 弁護士による家賃滞納、滞納賃料回収トラブルへの対処法

ア 支払の催告を書面で行う

 滞納家賃を期限までに支払うよう、書面で賃借人に請求します。このとき、支払われない場合に賃貸借契約解除を行うため、内容証明郵便で通知することもあります。

 また、賃借人に連帯保証人がいる場合は、その連帯保証人にも通知します。

 

イ 支払がない場合に訴訟提起する

 書面で請求しても支払がなされない場合には、裁判所に訴訟を提起して、裁判の手続で賃借人に支払を求めます。滞納する賃借人に対して建物明渡まで求めたいのであれば、未払賃料の支払を求めるのと同時に、賃貸借契約の解除と建物明渡まで求めます。

 裁判所が明渡を認めればその旨の判決(債務名義)を取得できますので、これをもって強制執行手続に移り、強制的に退去させることが可能となります。

 

ウ 回収手続を行う

 裁判所の判決がなされても賃借人から滞納賃料が支払われない場合には、判決に基づき、賃借人の財産を差し押さえることで回収をすることになります。

 差押えの対象は、一般的に、賃借人が勤務している勤務先から受け取る給料や、賃借人名義の銀行預金などがあります。

 

エ 家賃滞納については、多くの法的な問題が含まれています。

 賃借人が家賃を滞納した場合、その対応方法は状況により異なるため、専門家の意見を求めることが重要です。例えば、弁護士は適切な法的手段を提案し、最適な解決策を見つけるためのアドバイスを提供します。不動産トラブルに遭遇した場合は、必ず専門家に相談するようにしてください。

 

4 弁護士に依頼するメリット

 以上は、不動産売買と不動産賃貸借におけるポイントをご説明しましたが、これ以外にも、個別の契約の際にはケースごとに異なるポイントがあります。

 不動産は取引額が大きく、不十分な契約を締結してしまうと多大な不利益が生じますので、弁護士に相談することをお勧めします。

Last Updated on 5月 24, 2024 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

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