福岡で弁護士をお探しの飲食業の方へ

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1 飲食業の特徴について

 飲食業は、レストラン、カフェ、居酒屋など、多様な形態で存在しており、提供するサービスも様々なものがあります。多数のお客様が出入りし、雇用形態の異なる多数の従業員を雇用しています。また、店舗のほとんどは、賃貸借契約により入居しています。

 そのため、飲食業では、お客様からのクレーム対応、従業員の労働問題、家賃値上げ問題などが多く発生しています。

 

2 飲食業において発生しやすい法的トラブル

 飲食業では、特に以下のトラブルが多く発生しています。

① お客様からのクレーム対応(異物混入・食中毒など)
② 従業員の労務問題
③ 家賃値上げ問題

 

3 クレーム対応(異物混入・食中毒など)

(1) 飲食店がクレーム対応を放置したらどうなる?

 飲食店におけるクレームの対応は、その店の信頼性や評価に大きく影響します。特に、異物混入や食中毒、腹痛といった重大な問題についてのクレーム、無視するとその後の法的な問題を引き起こす可能性があります。

 クレームを放置すると、消費者が損害賠償請求をする可能性があります。これは、裁判所に訴訟を起こされる可能性があることを意味します。さらには、SNSやメディアを通じて店の評判が広く知られる可能性があり、その結果、集客に影響を及ぼす可能性もあります。

(2) 飲食店のクレーム対応における3つのポイント

ア 迅速な対応

 まず何より、クレームが起きた場合は迅速に対応することが重要です。クレーム対応の遅れは、店に対する信頼を失わせ、さらに深刻な問題を引き起こす可能性があります。

 

イ 綿密なやりとり

 顧客とのコミュニケーションを重視し、謝罪に意を示すことが重要です。また、事実をしっかりと把握し、必要な措置をとることも求められます。

 特に、飲食店の場合は、食事等を提供したその現場でクレームが発生することもありますので、現場での丁寧な対応が必要になります。

 

ウ 記録の整備

 クレーム内容や対応結果、改善策などを記録として残すことで、同様の問題が再発した場合の対応をスムーズにすることができます。また、これらの記載は、法的な問題が発生した場合の証拠にもなります。

(3) 異物混入・食中毒などのよくあるトラブル事例

 飲食店には多様なトラブルがありますが、ここでは異物混入、食中毒など、特に重大なものについて触れていきます。

 

ア 異物混入

 飲食店では、調理過程で異物が料理に混入する可能性があります。これは、食事を楽しむ客に対する深刻な危害となるため、十分な注意が必要です。

 健康被害が生じるものでなければ、謝罪し、料理の交換、代金をいただかないなどの丁寧な対応をすれば問題となる可能性は少ないと思われます。

 しかし、例えばプラスチック片などが混入していて口内を損傷する等のけがをしてしまった場合は、治療費のお支払いなどの必要が生じます。

 

イ 食中毒等の体調不良

 食材の取扱や調理過程での衛生管理が不十分な場合、食中毒を引き起こす可能性があります。これは、店の衛生管理体制の見直しを必要とします。

 食物アレルギーや体質によるもの等、飲食後に腹痛を訴える顧客がいる場合は、原因が特定できない場合でも、可能な限りのケアと対応が求められます。

 体調不良の場合、原因の特定が重要です。そのため、来店日時、食べた料理の内容、症状や診断書の内容など、具体的な事情を顧客から聞き取り、対応を検討する必要があります。

 原因が飲食店側にある場合、治療費の支払いをする必要があります。また、顧客が仕事を休むなどの損害が生じてしまった際には、休業損害や慰謝料などの賠償をする必要があります。

(4) 弁護士によるクレーム対応サポート

ア クレーム対応への助言

 弁護士が、「どのような対応をすべきか」「休業損害や慰謝料はどのくらい支払わなければならないか。」といったお悩みに対し、法的なアドバイスをいたします。

 顧客から聞くべき情報など、飲食店として対応していくために必要な法的アドバイスを提供します。

 クレームの相手に手紙などの文書を送る場合に、適切な内容になっているかどうかのリーガルチェックをします。

 理由のないクレームには要求に応じられないことをはっきりと示すべきですが、そのような場合にクレーマーに送付する法的な文書もチェックいたします。

 弁護士からのアドバイスを基にクレームに対して丁寧な対応をすることで、多くの場合は問題が沈静化します。

 

イ 弁護士がクレーム対応を代行

 クレームの対応には、相手方とのやり取りや解決案の提案など、相当程度の労力を要します。

 経営者ご本人や従業員の方々が本来の業務以外にクレームの対応をすることにより本来するべき業務が疎かになってしまうと、経営効率が大きく落ちてしまいます。

 また、相手方に休業損害や慰謝料を支払う必要がある場合、そのための情報収集や法的な相場などの知識や経験が必要になります。

 そのような場合、交渉の専門家である弁護士が、飲食店側の代理人としてクレーム対応を代行することが可能です。

 弁護士がクレームの相手方と直接交渉し、解決を図ることになります。

 

4 飲食業の労務問題

(1) 飲食業は、レストラン、カフェ、居酒屋など、多様な形態で存在し、多くの従業員を雇用しています。

 しかし、厳しい労働環境や労働時間の長さ、賃金の低さなどが問題となり、労働基準法違反が起きやすい業種としても知られています。飲食業における労務問題には、労働時間の違法な延長や休日手当の不払い、労働条件の不適切さ、労働者の健康や安全を軽視した労働環境の整備不足などが含まれます。

(2) 飲食業特有の労務問題について

 飲食業には特有の労務問題も存在します。

 例えば、労働時間の管理が難しいという点が挙げられます。店舗の営業時間に合わせて、従業員のシフトを組む必要がありますが、急な予約キャンセルや混雑状況によっては、従業員の出勤や退勤時間を臨機応変に調整することが求められます。しかし、これによって労働時間が違法に延長されるケースがあります。

 また、飲食業は季節性や需要の変動が大きいため、売上が不安定になることがあります。売上の低下によって賃金の遅配や賃金の減額などが行われると、労働基準法に違反する可能性があります。さらに、飲食業は食品衛生法や労働安全衛生法などの厳しい法律や規制にも準拠しなければならず、これらの遵守も労務管理の重要な課題となります。

(3) 残業代トラブルの対応

 飲食業では、労働時間の管理が適正になされていないと残業代の問題が生じることがあります。残業代が生じないような管理体制も重要ですが、もし残業代をめぐるトラブルが起こってしまったら、弁護士がアドバイスしたり、代理人として従業員側と交渉したりして解決を図るサポートをいたします。

(4) 問題社員に対する指導や懲戒処分の対応

 複数の社員を抱えることの多い飲食業では、無断欠勤や協調性を欠く行動など、問題を起こす社員がいる場合も多いですが、問題社員に対して適切な指導や手続を踏まえて処分しないと違法の問題が生じることがあります。また、問題社員を解雇する際のプロセスによっては解雇が無効とされる可能性があります。

 問題社員に対する対応について、弁護士が適切な助言などのサポートをいたします。

(5) 飲食店で整備すべき雇用契約書

ア 雇用契約書の作成義務について

 労働基準法に基づき、雇用に関しては「契約の内容を文書で明示し、労働者に交付する」ことが義務付けられています(労働基準法15条)。雇用契約書は、雇用の条件や双方の義務を明記した重要な文書です。飲食店に限らず、すべての業種において雇用契約書の作成は不可欠です。

 

イ 飲食店の雇用契約書におけるポイント

 飲食店における雇用契約書では、特に次の点を明記することが重要です。

 

① 雇用形態

 正社員、パート、アルバイト等、雇用形態を明確に記載することが重要です。

 勤務時間と休憩時間:飲食店は営業時間が特殊であることが多く、しっかりと勤務時間を定めることが重要です。

 

② 給与

 基本給だけでなく、残業代、深夜手当などを明記しましょう。

 

③ 休日・休暇

 定休日、有給休暇、休業日等、休日についての取り決めを明記します。

 これらの点を明確にすることで、労働者との間での誤解やトラブルを避けることができます。

 そして、明記する際には、その内容が法的トラブルを予防するものでなくてはなりません。

 例えば、「基本給○○万円(月給に固定残業代を含む)」と記載した雇用契約書の場合、固定残業代の金額とそれに対する残業時間が記載されていないため、適切ではありません。

 

ウ トラブルを防ぐための雇用契約書のポイント

 飲食店経営者がトラブルを防ぐためには、以下の様な観点も雇用契約書に盛り込むことが必要です。

 

① 就業規則

 就業規則の存在と、それを確認できる場所を明記する必要があります。

 

② 退職に関する取り決め

 退職予告期間、退職金の有無など、退職時の取り決めを明記します。

 

③ 秘密保持義務

 店の秘密や顧客情報の取扱についての取り決めを設けます。

 これらの点を契約書に明記することで、事業主と労働者双方の権利と義務が明確になり、トラブルを未然に防ぐことが可能となります。

(6) 雇用契約書については弁護士にご相談ください。

 雇用契約書を独自の観点から作成すると法的な問題を引き起こす可能性があります。そのため、雇用契約書の作成や見直しを検討している経営者の方は、一度弁護士までご相談いただくことをお勧めします。また、既存の雇用契約書に関しましても、問題がないか定期的に確認することも重要です。

 弁護士は、法的な観点から雇用契約書をチェックし、労働法に適合した内容にするための助言を提供します。また、トラブル発生時には、経営者をサポートし、法的な問題を解決するための助力を提供します。

 雇用契約書は、飲食店経営における重要な基盤です。適切な雇用契約書を整備することで、労働者との良好な関係を築き、事業の安定的な運営を実現できます。

 

5 家賃値上げ問題

(1) 飲食店を経営する上で、家賃を支払うことは避けられない経費の一つです。

 しかし、大家から突然家賃の値上げを告げられることがあります。そこで、家賃値上げに関する法的な知識を身につけ、適切な対処方法を取ることが重要です。

(2) 家賃を値上げできる条件とは?-正当な理由とは-

 家賃の決め方は原則として当事者の話し合いによります。賃貸借は長期間継続することが多く、いったん決めた金額がその後の経済状況の変動などで不相当になったときは、家賃の増額や減額が可能です。

 借地借家法32条には、以下の記載があります。

 「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済的事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。」と規定されています。これを「賃料増額請求権」といいます。 

 すなわち、

① 土地建物の税金の増減
② 土地建物の不動産価格の上昇・低下や経済事情の変動
③ 近隣の同種の建物との比較

 を判断要素として、家賃が不相当となった場合には家賃の増減が可能になります。

(3) 賃貸借契約書の記載とは?

 家賃の値上げに関して契約書に明記されていることがあります。例えば、「一定期間は賃料を増額しない。」という特約がある場合には、その特約が優先します。

(4) 定期賃貸借契約とは?

 定期賃貸借契約の場合は、賃料の増額請求が認められておらず、契約期間中に家賃を値上げすることはできません。ただし、契約期間が終了した後に、新しい契約を結ぶ場合には、家賃の値上げ交渉ができます。

(5) 賃料増額請求への対応-手続の流れや注意点について

 賃料の値上げに対して、テナント側経営者はどう対応すべきでしょうか。

 まず、値上げの理由について疑問がある場合は、家賃値上げ請求書に記載された理由を確認することが必要です。もし理由が明示されていない場合や、不適切な理由である場合は、テナント側が値上げに同意する必要はありません。しかし、家賃値上げ請求書に記載された理由が正当である場合は、テナント側が値上げに応じることを検討する必要があるかもしれません。

 大家側とテナント側が話し合っても解決がつかない場合には、最終的には裁判所に増額の可否を判断してもらうことになります。

 具体的には、まず、大家側が家賃増額の調停を裁判所に申し立てます。調停では、裁判官と調停委員によって構成される調停委員会が、当事者の意見聴取や事実調査の上、当事者の合意による実情に即した解決を図るように促し、結果として合意に至れば解決となります。

 もし、調停でも当事者が合意できない場合は、訴訟手続で裁判所が金額を判断することになります。

 なお、家賃の値上げの請求を受けても、テナント側は裁判で正当とされる金額が確定するまでの間、相当と認められる金額の家賃を支払うことで一応は支払義務を履行したことになります。しかし、後日、裁判で相当とされる額が確定された場合、支払った家賃に不足額があればその不足額に年1割の利息を付けて支払わなければなりません。

 以上の手続の流れを念頭に、テナント側としては適切な対応をとる必要があります。

 もしも、家賃値上げ問題でトラブルに直面した場合、弁護士に相談することが重要です。弁護士は、契約書や法律に基づき、適切なアドバイスを行うことが可能です。また、交渉や訴訟において、弁護士が代理人として活躍することができます。弁護士に相談することで、トラブル解決に向けたスピーディーな対応が期待できます。

(6) 定期賃貸借契約とは

 定期賃貸借契約とは、土地や建物を一定期間、借りる契約のことを指します。賃貸借契約期間が明確に決まっており、原則として期間中は解約できない特徴があります。飲食店が物件を借りる際、この契約形態になっていることがあります。

 一般の賃貸物件に比べて、敷金・礼金・賃料が低く設定されている場合が多いです。

(7) 定期賃貸借契約の特徴

 定期賃貸借契約は、一般的な賃貸借契約とは異なり、賃貸期間が明確に定められており、原則として期間中の解約が不可能な点が特徴です。そのため、契約書には「定期賃貸借契約書」と明記されているはずです。また、契約期間の開始日と終了日もはっきりと記されています。

 定期賃貸借契約には有効に成立する要件があります。一つは、契約が書面でなされていることです(借地借家法38条1項)。もう一つは、定期借家契約を締結する際に、賃貸人が賃借人に、「当該契約について更新がなく、期間の満了によって終了すること」をその旨を記載した書面を交付して事前に説明しなければなりません(借地借家法38条3項)。

 また、定期借家契約では、期間満了に備えて賃借人が代わりの物件を探したり、再契約の交渉をしたりする必要があるため、契約終了には貸主から借主への事前通知をする必要があります。貸主が事前通知しないと、借り主は契約期間経過後も物件を利用でき、貸主は契約の終了を主張できなくなります(借地借家法38条4項)。

(8) 気をつけるべきこと

ア 経営状況の悪化による契約期間中の解約

 定期借家契約は、原則として、契約期間中に中途解約することができません。

 経営状況が悪化して売上が大きく減少したからといって、契約を解約することはできません。

 居住用建物の場合は一定の条件で中途解約可能ですが、飲食店舗のような事業用建物の場合は、中途解約を可能にするためには、中途解約に関する特約を設けておかなければなりません。中途解約の場合の違約金が定められているケースもよくあります。

 契約を結ぶ前に、以上の点を確認する必要があります。

 

イ 更新時の賃料上昇

 定期借家契約には更新がないため、契約期間が終了すればそれ以上は物件を使用することができなくなります。

 しかし、貸主と借り主の双方が合意していれば再契約は可能です。その際には、更新時の経済状況や、飲食店側が店舗を継続使用する必要性などを踏まえ、更新の条件が交渉されることになります。

 大家側からは、敷金、礼金、保証金の追加支払いや賃料の増額などが条件として提示されることがあります。借りている飲食店側としても、更新時にこのような条件交渉があり得ることを覚悟しておく必要があります。

 

6 弁護士に依頼するメリット

 飲食業における法律問題は、法律や規制が複雑であり、解決が難しい場合があります。また、労務問題が放置されると、法的なリスクや労働紛争の可能性が高まるため、早期の対応が求められます。事前に適切な対策を講じることで問題の発生を未然に防ぐことができます。

 飲食店経営者の皆様には、弁護士との連携を図りながら、法的トラブルに対処することをお勧めいたします。弁護士が契約書をリーガルチェックして問題のある契約条項を防ぐことで、不当な契約を結んでしまうことなく、経営に専念していただくことができます。

Last Updated on 5月 24, 2024 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

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