
1 2026年義務化対応で求められるカスハラ対応マニュアル
Q 2026年の法改正により、企業にはどのようなカスハラ対策が求められますか。
A 令和8年(2026年)10月1日から、企業規模を問わず、すべての事業主にカスハラ防止措置が義務付けられます。事業主には、カスハラを許さない方針の明確化と周知、相談窓口や社内報告ルートの整備、迅速な事実確認、被害職員への配慮、行為者への対応、再発防止等が求められます。また、相談者のプライバシーを保護し、相談や調査への協力を理由とする不利益な取扱いをしてはなりません。施行前に対応マニュアルを策定し、録音・記録方法、警察・弁護士との連携、従業員研修等を含む組織的な対応体制を整えることが重要です。
Q カスハラ対応マニュアルを作成しない場合、どのようなリスクがありますか。
A 改正法は「マニュアル」という名称の文書の作成まで直接義務付けるものではありません。しかし、対応基準、報告手順、対応の打切りや警察通報の基準等が定められず、カスハラ対応を職員個人に委ねていた場合、必要な防止措置を講じていないと評価される可能性があります。特に、被害を予測できたのに放置し、職員が精神疾患、休職又は退職に至ったときは、安全配慮義務違反として治療費、休業損害、慰謝料等を請求されるおそれがあります。マニュアルの策定と研修・見直しは、職員を守るとともに、会社が適切な措置を講じたことを示すうえでも重要です。
(1) 労働施策総合推進法の改正による措置義務化
令和7年6月、労働施策総合推進法が改正され、令和8年(2026年)10月1日から、企業にカスタマーハラスメント対策が義務付けられます。対象は企業規模を問わず、すべての事業主です。
改正法にいうカスタマーハラスメントとは、顧客、取引先、施設利用者その他の事業に関係する者の言動であって、労働者が従事する業務の性質等に照らして社会通念上許容される範囲を超え、その就業環境を害するものをいいます。
正当な苦情や合理的な要望まで一律に排除するものではありません。要求内容の妥当性に加え、暴言、脅迫、長時間の拘束、土下座の要求、執拗な電話、無断撮影、SNSへの投稿等の手段や態様を踏まえて判断する必要があります。
事業主には、カスハラを行ってはならない旨の方針を明確にして労働者に周知・啓発すること、相談窓口を整備して適切に対応できる体制を構築すること、相談があった場合に事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者への配慮、行為者への対応及び再発防止措置を講じることなどが求められます。
また、相談者のプライバシーを保護し、相談したことや調査に協力したことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしてはなりません。
企業としては、施行前に、カスハラ対応方針・マニュアルの策定、相談窓口と社内報告ルートの整備、録音・記録方法の明確化、警察・弁護士等との連携、現場責任者を含む従業員研修を進める必要があります。顧客対応を担当者個人に抱え込ませず、組織として従業員の安全と就業環境を守る体制を整えることが重要です。
(2) マニュアル作成を怠ることによる安全配慮義務違反のリスク
令和8年(2026年)10月1日施行の改正労働施策総合推進法により、すべての事業主にカスタマーハラスメント防止措置が義務付けられます。
もっとも、同法が「カスハラ対応マニュアル」という名称の文書を一律に作成することまで直接義務付けているわけではありません。しかし、事業主には、基本方針の明確化・周知、相談窓口の整備、事実関係の迅速な確認、被害を受けた労働者への配慮、行為者への適切な対応、再発防止などが求められます。
そのため、これらの対応手順をマニュアルとして具体化していない場合、必要な防止措置を実質的に講じていなかったと評価されるリスクがあります。
また、使用者は、労働契約法第5条に基づき、労働者が生命・身体等の安全を確保しながら働けるよう必要な配慮をする義務を負います。過去に同じ顧客から暴言や脅迫があった場合や、介護、医療、小売、運送などカスハラが生じやすい業務であるにもかかわらず、対応基準、上司への報告方法、顧客対応の打切り基準、警察への通報基準、録音・記録方法などを定めず、従業員個人に対応を委ねていた場合には、会社が被害を予見しながら必要な措置を怠ったとして、安全配慮義務違反が認定される可能性があります。
その結果、従業員が精神疾患や休職・退職に至れば、会社は治療費、休業損害、逸失利益、慰謝料等の賠償を請求されるおそれがあります。マニュアルは、それだけで責任を免れさせるものではありませんが、会社が具体的な防止措置を講じ、適切に対応したことを示す重要な証拠となります。作成後も、従業員研修、事例共有、定期的な見直しを行い、実際に運用できる体制を整えることが重要です。
2 公的マニュアルの限界と自社で作成する難しさ
Q 厚生労働省などの汎用マニュアルを、そのまま利用することはできますか。
A 公的マニュアルは、基本方針、相談窓口、事実確認、被害職員への配慮等の基本を理解するうえで有用ですが、そのままでは十分に機能しないことがあります。カスハラの態様は、小売、介護・医療、運送、ITなど業種によって異なるためです。また、対応の打切り、報告、録音、退去要求、警察通報等の基準が抽象的では、現場職員が判断できません。自社の事例、組織体制及び権限分担を反映し、業種・職種別の具体例や報告ルートを定め、研修や事例検証を通じて更新する必要があります。
Q 自社特有の具体例を盛り込み、正当なクレームと区別するにはどうすればよいですか。
A 過去の相談記録、事故報告、アンケート等から、自社で起こりやすい要求や言動を洗い出して類型化します。線引きは、「要求内容に合理的な理由があるか」と「要求の手段・態様が社会通念上相当か」という二つの観点から行います。要求に理由があっても、暴言、脅迫、土下座の強要、長時間の拘束、執拗な電話等を伴えばカスハラとなり得ます。マニュアルでは、「正当なクレーム」「注意を要する行為」「直ちに対応を中止する行為」の三段階に分け、判断者と対応方法を明示することが重要です。
Q 現場従業員の決定権限と裁量は、どのように定めればよいですか。
A 通常の説明や謝罪、商品の交換、一定額までの返金など、現場従業員が判断できる事項と上限を具体的に定めます。他方、金銭補償、契約解除、職員の処分等は管理職や本部の決裁事項とし、現場で確約しないことを明示します。暴言や脅迫等が続く場合は、職員の判断で警告や対応中止、退避ができ、危険が切迫している場合は上司の許可を待たずに110番通報できる体制が必要です。対応時間、警告回数、引継基準、緊急連絡先を定め、権限内の対応中止を理由に不利益な評価をしないことも周知します。
(1) 厚生労働省などの汎用マニュアルが現場で機能しない理由
厚生労働省などが公表するカスタマーハラスメント対策のマニュアルは、基本方針の策定、相談窓口の設置、事実確認、被害者への配慮、行為者への対応、再発防止といった基本的な枠組みを理解するうえで有用です。しかし、その内容をほぼそのまま社内マニュアルとして採用しても、実際の現場では十分に機能しないことがあります。
第一に、カスハラの態様は業種によって大きく異なります。小売業では店頭での暴言や土下座の要求、介護・医療現場では利用者や家族による威圧的言動、運送業では遅配を理由とする長時間の拘束、IT企業では仕様や障害対応をめぐる過大要求などが問題となります。汎用マニュアルには、こうした業種特有の場面や取引慣行までは反映されていません。
第二に、抽象的な基準だけでは、担当者が「どの時点で対応を打ち切るのか」「誰に報告するのか」「退去を求めるのか」「録音や警察への通報を行うのか」をその場で判断できません。特に、正当な苦情とカスハラとの境界が曖昧なままでは、従業員が顧客対応を抱え込み、管理職への報告が遅れるおそれがあります。
第三に、会社の組織体制や権限分担との整合性が問題となります。相談窓口を定めても、夜間や休日に責任者が不在であったり、現場責任者に対応を中止する権限がなかったりすれば、緊急時には役立ちません。また、「顧客第一」という企業風土が強すぎる場合には、従業員がマニュアルどおりに対応することをためらう可能性もあります。
したがって、国のマニュアルは出発点として利用しつつ、自社で実際に発生した事例を洗い出し、業種・店舗・職種別の具体例、対応の段階、報告ルート、権限者、録音・退去要請・警察通報の基準を明確にする必要があります。さらに、ロールプレイ研修や事例検証を重ね、現場で迷わず使える内容に更新することが重要です。
(2) 自社ならではの具体例と正当なクレームとの線引き
実効性のあるカスタマーハラスメント対策を行うには、一般的な暴言や脅迫の例を示すだけでなく、自社の業種、顧客層、サービス内容、取引慣行等を踏まえた具体例をマニュアルに盛り込む必要があります。
例えば、介護施設であれば家族による頻繁な呼出しや担当職員の交代要求、医療機関であれば診療結果への執拗な説明要求、運送業であれば遅配を理由とする長時間の拘束、建設業であれば契約範囲を超える無償工事の要求など、現場で実際に起こり得る場面を整理します。過去の相談記録、事故報告、アンケート等を基に、自社で発生しやすい言動を類型化することが有効です。
もっとも、顧客からの苦情や要望が不快又は厳しいというだけで、直ちにカスハラになるわけではありません。
商品に欠陥がある、説明が不十分である、職員の対応に問題があるなど、企業側に原因がある場合の謝罪、交換、返金、再説明等の要求は、原則として正当なクレームです。線引きに当たっては、「要求内容に合理的な理由があるか」と「要求を実現するための手段・態様が社会通念上相当か」という二つの観点から判断します。
要求内容に理由があっても、人格を否定する暴言、脅迫、差別的・性的言動、土下座の強要、長時間の居座り、同じ説明を受けた後の執拗な電話、従業員個人への処分要求、SNSでの拡散を示唆した過大な金銭要求などは、手段・態様の点でカスハラとなり得ます。
反対に、要求が受け入れられない場合でも、冷静な説明や通常の再検討を求める行為は尊重しなければなりません。
マニュアルでは、「正当なクレーム」「注意を要する行為」「直ちに対応を中止すべき行為」の三段階に分け、自社の具体例、判断者、対応方法を示すことが重要です。最終的な判断を現場担当者だけに委ねず、迷った場合に管理職や本部へ速やかに引き継げる仕組みも整備する必要があります。
(3) 現場従業員の決定権限と裁量の明示
カスタマーハラスメントへの対応を現場で機能させるためには、従業員が「何を自分で決定でき、どの段階で上司に引き継ぐべきか」を明確にする必要があります。
対応方針や相談窓口を設けても、現場従業員に権限が与えられていなければ、顧客の要求を断ることができず、長時間の対応や過度な謝罪を続けることになります。一方、裁量の範囲が広すぎれば、正当なクレームまで拒絶し、顧客との紛争を拡大させるおそれがあります。
そこで、マニュアルでは、通常の説明、謝罪、商品の交換、一定額までの返金など、現場従業員が自ら判断できる事項と、その上限を具体的に定めます。そのうえで、金銭補償、契約解除、従業員の処分、特別扱い等の要求については、管理職や本部の決裁事項とし、現場で確約してはならないことを明示します。「検討します」「責任者から回答します」など、即答を避けるための応答例も準備しておくと有効です。
また、暴言、脅迫、差別的・性的言動、身体への接触、無断撮影、長時間の拘束などがある場合には、従業員自身の判断で警告を発し、改善されなければ対応を中止し、その場を離れることができる旨を明確にすべきです。生命・身体に危険が及ぶ可能性がある場合には、上司の許可を待たず、退避、警備員への連絡、110番通報を行える権限も必要です。
さらに、対応時間の上限、警告の回数、録音・録画を開始する条件、複数名対応へ切り替える基準、退去を求める者、警察や弁護士へ相談する責任者を具体的に定めます。判断に迷う場合の緊急連絡先と代行順位も欠かせません。
会社は、従業員が定められた権限の範囲内で対応を中止したことを理由に、不利益な評価や処分を行わないことも周知する必要があります。権限と裁量を明示することは、従業員を守るだけでなく、対応のばらつきを抑え、企業として一貫した顧客対応を実現するためにも重要です。
3 カスハラ対応マニュアルに記載すべき基本項目
Q 職員を守るための基本方針には、何を定めるべきですか。
A 基本方針には、正当な苦情には誠実に対応する一方、職員の人格や安全を害する言動まで受忍させず、カスハラには組織として対応することを明記します。暴言、脅迫、長時間の拘束、土下座の強要、無断撮影等の許容しない行為と、警告、対応中止、退去要求、警察通報等の措置を例示します。また、職員が自ら対応を中止して退避できること、相談者等を不利益に扱わないことも定めます。方針は経営者名で社内に周知し、ウェブサイトや店頭掲示等により顧客や取引先へ公表することが有効です。
Q 正当なクレームとカスタマーハラスメントは、どのように区別しますか。
A クレームとは、商品・サービスや職員の応対等への不満を伝え、説明、謝罪、改善、交換等を求める行為です。要求に合理的な理由があり、手段・態様が社会通念上相当であれば、厳しい内容でも誠実に対応します。これに対し、事業関係者の言動が社会通念上許容される範囲を超え、職員の就業環境を害する場合はカスハラに当たり得ます。線引きでは、要求内容の妥当性と手段・態様の相当性を総合的に検討し、言動の内容、回数、時間、心身への影響等を記録したうえで、管理職を含む複数名で判断します。
Q 初期対応から上司等への引継ぎまでは、どのように進めますか。
A 初期段階では相手方の話を聴き、申出内容と要求を確認しますが、事実確認前に金銭の支払や職員の処分等を約束してはいけません。暴言等があれば中止を求め、続く場合は対応を終了すると警告します。可能な限り複数名で対応し、要求、発言及び経過を記録します。長時間の対応、要求の反復、過大な補償要求、無断撮影等があれば、上司や本部へ引き継ぎます。暴行、脅迫、退去拒否等により危険がある場合は、通常の手順を省略して職員を退避させ、直ちに警察へ通報します。
Q 要求や行為に応じた対応例は、どのように定めるべきですか。
A 商品交換、返金、再施工等の要求は、契約内容と事実を確認し、会社に責任があれば相当な範囲で対応します。根拠のない高額賠償、無償サービス、職員の処分等の要求にはその場で応じず、管理職へ引き継ぎます。暴言には中止を警告し、大声や威圧行為には複数名で対応して、改善されなければ退去を求めます。暴行や具体的な脅迫には退避と警察通報を行います。長時間又は反復する連絡には、時間制限や窓口の一本化、書面対応への切替えを行い、すべての経過を客観的に記録します。
(1) 職員を守る姿勢を示す基本方針の策定
カスタマーハラスメント対応マニュアルを策定するに当たっては、最初に、会社が職員の安全と尊厳を守るという基本方針を明確に示すことが重要です。
単に「お客様からの迷惑行為には適切に対応します」と記載するだけでは、職員は会社がどこまで自分を守ってくれるのか判断できません。「正当な苦情には誠実に対応する一方、職員の人格や安全を害する言動まで受忍させることはない」「カスハラには組織として対応し、職員一人に責任を負わせない」と明記する必要があります。
基本方針では、暴言、脅迫、人格否定、差別的・性的言動、暴行、長時間の拘束、土下座の強要、執拗な連絡、不当な金銭・無償サービスの要求、無断撮影、SNSへの投稿を示唆した威迫など、会社として許容しない行為を例示します。
そのうえで、これらの行為に対しては、警告、対応の中止、退去要求、以後の取引・サービス提供の制限、警察への通報、弁護士への相談等を行う場合があることを示します。
また、職員がカスハラを受けた場合には、上司や相談窓口へ直ちに報告できること、危険を感じたときは自らの判断で対応を中止して退避できることを定めます。相談・報告をした職員や事実確認に協力した職員に対し、人事評価の引下げその他の不利益な取扱いを行わないことも明記すべきです。精神的な負担が生じた場合には、配置や勤務への配慮、産業医への相談等の支援を行うことも重要です。
基本方針は、経営者名で社内に周知し、研修等を通じて繰り返し伝える必要があります。さらに、顧客や取引先に対しても、店頭掲示、ウェブサイト、契約書等により方針を公表することが有効です。基本方針は単なる理念ではなく、現場の判断と会社の対応を支える基準です。経営者が職員を守る姿勢を明確に示し、方針に沿った対応を実際に行うことによって、マニュアルへの信頼と実効性が確保されます。
(2) クレームとカスタマーハラスメントの定義
クレームとは、顧客や取引先等が、商品・サービスの内容、職員の応対、契約の履行等について、不満を伝え、説明、謝罪、改善、交換、返金等を求める行為をいいます。厳しい口調による申出であっても、要求内容に合理的な理由があり、その手段・態様が社会通念上相当な範囲にとどまる場合は、正当なクレームとして誠実に対応する必要があります。クレームには、業務上の問題を把握し、商品やサービスを改善する契機となる側面もあります。
これに対し、改正労働施策総合推進法におけるカスタマーハラスメントとは、①顧客、取引先、施設利用者その他の事業に関係する者による言動であり、②その言動が、労働者の従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超え、③それによって労働者の就業環境が害されるものをいいます。顧客だけでなく、患者・家族、利用者、保護者、発注者、委託先等の言動も対象となり得ます。
クレームとカスハラの線引きでは、「要求内容の妥当性」と「要求を実現するための手段・態様の相当性」を総合的に検討します。商品に欠陥がある場合の交換要求など、要求自体が正当であっても、人格を否定する暴言、脅迫、暴行、土下座の強要、長時間の拘束、執拗な電話、差別的・性的言動等を伴えば、カスハラに該当する可能性があります。一方、要求を受け入れられないという理由だけで、直ちにカスハラと判断してはなりません。
具体的な判断では、言動の内容、回数、継続時間、場所、顧客側の事情、職員が受けた心身の負担、会社側の説明や対応状況等を考慮します。マニュアルには、正当なクレーム、注意を要する行為、直ちに対応を中止すべき行為を、自社の実例に即して区分して示すことが重要です。職員個人の主観だけに委ねず、記録を残して管理職を含む複数名で判断する仕組みを設ける必要があります。
(3) 初期対応からエスカレーションまでの基本手順
カスタマーハラスメントが疑われる場面でも、初期段階では正当なクレームの可能性があるため、まず相手方の話を遮らず、申出の内容と求めている対応を確認します。
その際、事実に誤りがある場合や会社側に落ち度がある場合は、必要な説明や謝罪を行います。ただし、事実関係が確認できていない段階で、金銭の支払、特別対応、職員の処分等を約束してはなりません。「事実を確認したうえで責任者から回答します」などと伝え、安易な確約を避けます。
暴言や威圧的言動があった場合は、相手方の発言を具体的に指摘し、「そのような発言が続く場合は対応を終了します」と明確に警告します。可能な限り複数名で対応し、日時、場所、相手方の氏名・連絡先、要求内容、具体的な発言、対応経過等を記録します。
社内ルールに従い、通話や面談を録音・録画することも有効です。警告後も言動が改善されない場合は、対応を中止し、上司又は現場責任者へ引き継ぎます。
エスカレーションの基準としては、一定時間を超える対応、同じ要求の反復、通常の権限を超える返金・補償要求、職員の処分要求、SNS等での拡散を示唆した要求、無断撮影、差別的・性的言動などが挙げられます。
管理職は、正当なクレームかカスハラかを判断し、回答者と会社としての対応方針を決定します。必要に応じて、本部、コンプライアンス担当者又は顧問弁護士へ報告・相談します。
暴行、脅迫、器物損壊、退去要求への拒否、待ち伏せその他、職員の生命・身体に危険が及ぶおそれがある場合は、通常の手順を省略し、安全確保を最優先とします。職員を退避させ、警備担当者や警察へ直ちに通報します。
対応後は、被害を受けた職員の心身の状態を確認して必要な配慮を行うとともに、記録を保存し、事案を検証して再発防止策やマニュアルの見直しにつなげることが重要です。
(4) 要求別および行為別の具体的な対応例
カスタマーハラスメント対応では、相手方の要求内容と行為の態様を分けて整理し、それぞれに応じた対応基準を定めることが重要です。
商品交換、再施工、返金、謝罪等の要求については、まず契約内容や事実関係を確認し、会社側に責任があれば相当な範囲で対応します。他方、根拠のない高額な賠償、契約範囲を超える無償サービス、従業員の解雇・処分、責任者の自宅訪問、書面への即時署名等の要求には、その場で応じず、「社内で確認のうえ回答します」と伝えて管理職へ引き継ぎます。既に十分な説明をした事項が繰り返される場合は、会社の最終回答を明示し、それ以後は対応しない旨を通知します。
行為別では、暴言や人格否定に対しては、「そのような発言はお控えください。続く場合は対応を終了します」と警告します。大声、机をたたく行為、威圧的な接近がある場合は、距離を確保して複数名で対応し、改善されなければ退去を求めます。暴行、物を投げる行為、具体的な危害の告知等があれば、職員を直ちに退避させ、警察へ通報します。
長時間の電話や面談については、あらかじめ対応時間を告げ、設定時間を超えた場合は終了します。繰り返しの電話には窓口と連絡方法を一本化し、必要に応じて書面対応へ切り替えます。無断撮影や録音、SNSへの投稿を示唆する言動については、撮影中止やデータ削除を求めるだけでなく、対応場所の変更、会社端末による記録、弁護士への相談等を検討します。差別的・性的言動には直ちに中止を求め、職員を交代又は退避させます。
いずれの場合も、現場従業員が単独で交渉を続けないことが重要です。日時、要求内容、具体的言動、警告及び回答の内容を客観的に記録し、管理職が対応の継続・中止、取引制限、警察への通報、弁護士への相談等を判断します。要求と行為に応じた具体的な応答例をマニュアルに示すことで、迅速で一貫した対応が可能になります。
4 実効性を高める組織体制と予防策
Q 社内相談窓口は、どのように整備すればよいですか。
A 相談窓口は、被害発生後だけでなく、カスハラに該当するか迷う段階でも、雇用形態を問わず利用できる体制とします。担当者、連絡先、受付時間を明示し、対面、電話、メール等の複数の方法や、直属の上司以外の相談ルートも設けます。相談後は安全と心身の状態を確認し、証拠を整理して迅速に事実確認を行います。また、相談や調査協力を理由とする解雇、降格、人事評価の引下げ等を禁止し、就業規則や基本方針に明記します。相談者を責めず、組織として保護する姿勢を周知することが重要です。
Q 警察や弁護士などの外部機関とは、どのように連携すればよいですか。
A 暴行、脅迫、器物損壊、退去拒否、待ち伏せ等がある場合は、職員の安全を最優先とし、危険が切迫していれば上司の許可を待たず110番通報します。緊急性が低い反復行為等は、警察署や「#9110」へ相談します。弁護士には、対応中止、サービス制限、契約解除等の可否や警告書の内容を相談し、必要に応じて窓口の一本化や法的措置を依頼します。平時から連絡先、担当者及び相談・通報基準を定め、事案発生後は録音、メール、SNS投稿等の証拠を保存することが重要です。
Q カスハラ対応マニュアルを現場に定着させるには、どのような研修が必要ですか。
A 研修は、入社時やマニュアル制定時だけでなく、少なくとも年1回程度実施し、管理職、相談担当者、現場職員等の役割に応じた内容とします。雇用形態を問わず顧客対応に関わる職員を対象とし、カスハラの定義、正当なクレームとの線引き、警告、対応中止、上司への引継ぎ、警察通報等を確認します。自社の事例を用いたロールプレイも有効です。研修後はテストやアンケートにより課題を把握し、実際の事案も検証して、マニュアルや研修内容を継続的に見直します。
(1) 社内相談窓口の設置と不利益取扱の禁止
カスタマーハラスメント対策を実効的なものとするためには、被害を受けた職員が早期に相談できる社内窓口を設置し、その利用方法を周知する必要があります。
相談窓口は、実際に被害が発生した場合だけでなく、「カスハラに該当するか判断できない」「顧客対応に不安を感じる」といった段階でも利用できるものとします。正社員だけでなく、契約社員、パート・アルバイト、派遣労働者等も相談できる体制を整えることが重要です。
窓口の担当者、連絡先、受付時間、相談方法を明示し、対面、電話、メール等の複数の手段を用意します。
直属の上司が相談先では、上司の不在時や対応への不満がある場合に利用しにくいため、人事・総務部門、コンプライアンス担当者、外部相談窓口等の別ルートも設けることが望まれます。夜間・休日にも顧客対応がある事業所では、緊急連絡先や責任者の代行順位も定めておく必要があります。
相談を受けた場合は、相談者の安全と心身の状態を確認したうえで、日時、場所、相手方、要求内容、具体的言動、目撃者、録音・メール等の証拠を整理します。
相談者の意向にも配慮しながら迅速に事実確認を行い、担当者の交代、配置や勤務時間への配慮、産業医との面談、警察・弁護士への相談等の措置を講じます。相談担当者には、守秘義務、事情聴取の方法、記録の管理等について研修を行う必要があります。
また、相談や被害の申告、事実確認への協力を理由として、解雇、雇止め、降格、減給、不利益な配置転換、人事評価の引下げ、嫌がらせ等を行ってはなりません。
この不利益取扱いの禁止を就業規則や基本方針に明記し、管理職を含む全職員へ周知することが重要です。形式的に窓口を設けるだけで、相談を軽視したり、相談者を「対応力が低い」と評価したりすれば、相談が潜在化し、被害が拡大します。相談者を責めず、組織として保護する姿勢を明確にすることが、早期発見と再発防止につながります。
(2) 警察や弁護士などの外部協力機関との連携
カスタマーハラスメントの中には、社内での説明や警告だけでは解決できず、警察、弁護士その他の外部機関との連携が必要となる事案があります。
暴行、傷害、脅迫、器物損壊、退去要求に応じない行為、待ち伏せ、つきまとい等がある場合は、職員の安全確保を最優先とし、速やかに警察へ通報します。生命・身体への危険が切迫している場合には、上司や本部の判断を待たず、現場職員が110番通報できることをマニュアルに明記する必要があります。緊急性は低いものの、反復する迷惑行為や危害のおそれがある場合は、最寄りの警察署や警察相談専用電話「#9110」へ事前に相談することも有効です。
弁護士には、相手方の行為がカスハラや犯罪に該当するか、対応を打ち切ることやサービス提供を拒否することが法的に許されるか、警告書・回答書をどのような内容にするかなどを相談します。
執拗な電話や来訪が続く場合には、弁護士名による通知、連絡窓口の弁護士への一本化、面談や電話対応の拒否、仮処分、損害賠償請求、刑事告訴等を検討します。契約関係がある場合は、取引停止や契約解除の可否について慎重な検討が必要です。
このほか、職員に強い精神的負担が生じた場合は、産業医、医療機関、外部相談窓口等と連携し、受診、休養、勤務上の配慮につなげます。また、警備会社、施設管理者、業界団体等と対応方法や情報を共有することも有効です。
外部機関との連携を円滑にするには、平時から相談先、担当者、連絡方法、通報・相談の判断基準を整理しておく必要があります。
事案発生後は、日時、場所、具体的言動、対応経過、目撃者、録音・録画、メール、SNSの投稿等の証拠を保存します。外部への相談を現場職員任せにせず、社内責任者を定めて迅速に連携できる体制を構築することが重要です。
(3) マニュアルを定着させる定期的な従業員研修
カスタマーハラスメント対応マニュアルは、作成して配布するだけでは現場に定着しません。緊迫した場面でも職員が迷わず行動できるよう、定期的な研修を実施し、判断基準と対応手順を繰り返し確認する必要があります。研修は、入社時やマニュアル制定時に一度行うだけでなく、少なくとも年1回程度実施し、管理職、窓口担当者、現場職員など、役割に応じて内容を分けることが効果的です。顧客対応を行う契約社員、パート・アルバイト、派遣労働者等も対象から除外しないことが重要です。
研修では、カスハラの定義、正当なクレームとの線引き、会社の基本方針、相談・報告ルート、不利益取扱いの禁止等を説明します。さらに、暴言、長時間の拘束、過大な金銭要求、無断撮影、SNSへの投稿を示唆した要求、暴行・脅迫など、自社で発生し得る事例を用いて、初期対応、警告、対応の中止、上司への引継ぎ、警察への通報までの流れを確認します。
特に有効なのが、顧客役と職員役に分かれて行うロールプレイ研修です。「その発言はお控えください」「これ以上続く場合は対応を終了します」「責任者に引き継ぎます」などの応答を実際に練習することで、現場で発言しやすくなります。管理職には、報告を受けた後の事実確認、職員の退避や交代、顧客への最終回答、外部機関との連携についても訓練する必要があります。
研修後は、理解度テストやアンケートを実施し、職員が判断に迷った点やマニュアルと実務が合わない点を把握します。実際に発生した事案についても、関係者のプライバシーに配慮しながら事例として共有し、対応上の課題を検証します。その結果をマニュアルや研修内容に反映させることが重要です。研修記録、参加者、教材等を保存することは、会社が必要な防止措置を継続して実施していることを示す資料にもなります。経営者が研修の意義を明確に伝え、職員を守る方針を繰り返し示すことで、組織全体に実践的な対応が定着します。
5 カスハラ対応マニュアルに関して弁護士に相談するメリット
Q カスハラ対応マニュアルの策定を弁護士に相談するメリットは何ですか。
A 弁護士に相談することで、業種、顧客層、契約内容、人員体制等を踏まえ、正当なクレームとカスハラの線引きや、対応中止、退去要求、録音、取引停止、警察通報等の基準を具体化できます。現場職員の権限や上司への引継基準を整理し、就業規則等との整合性も確認できます。策定後も、従業員研修、警告書の作成、個別事案の判断、相手方との交渉や法的措置まで一貫した支援を受けられるため、職員の保護と適切な顧客対応を両立し、紛争の予防と早期解決につなげることができます。
(1) カスタマーハラスメント対応マニュアルを策定する際に弁護士へ相談する最大のメリットは、法令上の義務を形式的に満たすだけでなく、自社の業務に即した実践的な対応基準を整備できることです。厚生労働省等のひな型は基本的な考え方を示すものですが、業種、顧客層、契約内容、サービスの公共性、現場の人員体制等によって、許容できる要求や対応を中止できる場面は異なります。弁護士は、過去の事例や現場への聞き取りを踏まえ、正当なクレームとカスハラとの線引きを具体化できます。
(2) また、対応の中止、退去要求、録音・録画、利用制限、取引停止、契約解除、警察への通報等には、それぞれ法的な留意点があります。顧客の要求を安易に拒否すれば、契約違反や説明義務違反を主張される可能性がある一方、過度な要求に応じ続ければ、職員に対する安全配慮義務違反が問題となります。弁護士の助言を受けることで、顧客対応と職員保護の適切な均衡を図ることができます。
(3) さらに、現場職員が決定できる事項、管理職へ引き継ぐ基準、本部や外部機関へ報告する条件を整理し、暴言、長時間拘束、過大要求、無断撮影、SNSへの投稿、暴行・脅迫等の場面別に具体的な応答例を作成できます。就業規則、相談制度、個人情報保護規程、録音・防犯カメラの運用等との整合性を確認できる点も重要です。
(4) 弁護士は、マニュアル策定後の従業員研修やロールプレイ、個別事案の判定、警告書・回答書の作成にも関与できます。深刻な事案では、相手方との連絡窓口を弁護士に一本化し、交渉、仮処分、損害賠償請求、刑事告訴等へ速やかに移行することも可能です。平時から相談体制を構築しておけば、現場が問題を抱え込まず、早期かつ一貫した対応ができます。弁護士への相談は、紛争発生後の処理にとどまらず、職員を守り、企業の信用と顧客サービスを両立させる予防法務として有効です。
6 当事務所のサポート内容
Q カスハラ対策についてどのようなサポートを行っていますか。
A 当事務所では、経営者や現場担当者への聞き取りを行い、業種、顧客層、過去の事例等を踏まえた実践的なマニュアルを作成します。基本方針、カスハラの判断基準、対応手順、職員の権限、相談・報告体制等を整備し、警告文や事案報告書等の書式も作成します。策定後は、管理職・従業員研修やロールプレイ、定期的な見直しを支援します。実際の事案では、法的評価、証拠確保、相手方への警告・回答、警察への相談等を助言し、必要に応じて交渉や法的措置にも対応します。
(1) 当事務所では、令和8年(2026年)10月1日から義務化されるカスタマーハラスメント対策について、企業の業種や現場の実情に応じた総合的な支援を行います。
厚生労働省等のひな型をそのまま採用するのではなく、経営者、管理職及び現場担当者から聞き取りを行い、過去に発生した事例、顧客層、契約内容、営業時間、人員体制等を踏まえ、実際に現場で使用できるマニュアルを作成します。
(2) マニュアルには、職員を守るという経営者の基本方針、正当なクレームとカスハラとの判断基準、自社で想定される要求別・行為別の対応例を盛り込みます。
また、現場職員が判断できる事項と管理職の決裁事項、警告や対応中止の基準、上司・本部への報告手順、録音・記録方法、退去要求や警察通報の条件等を具体的に定めます。相談窓口の設置、不利益取扱いの禁止、相談後の事実確認、被害職員への配慮についても、既存の就業規則や社内規程との整合性を確認しながら整備します。
(3) さらに、現場で使用する警告文、対応終了の通知書、取引・サービス制限の通知書、事案報告書、相談受付票等の書式作成にも対応します。マニュアル策定後は、管理職研修、従業員研修、具体的事例を用いたロールプレイを実施し、職員が緊急時にも適切に行動できるよう支援します。
(4) 実際にカスハラが発生した場合には、行為の法的評価、対応方針の決定、証拠の確保、相手方への警告・回答、警察への相談等について助言します。必要に応じて、当事務所が相手方との連絡窓口となり、交渉や法的措置を行うことも可能です。マニュアルの作成から研修、個別事案への対応、定期的な見直しまで継続して支援し、職員が安心して働ける職場づくりと適切な顧客対応の両立を図ります。

Last Updated on 11月 5, 2026 by kigyo-kumatalaw
この記事の執筆者:熊田佳弘 私たちを取り巻く環境は日々変化を続けており、様々な法的リスクがあります。トラブルの主な原因となる人と人の関係は多種多様で、どれ一つ同じものはなく、同じ解決はできません。当事務所では、まず、依頼者の皆様を温かくお迎えして、客観的事実や心情をお聞きし、紛争の本質を理解するのが最適な解決につながると考えています。どんなに困難な事件でも必ず解決して明るい未来を築くことができると確信し、依頼者の皆様に最大の利益を獲得して頂くことを目標としています。企業がかかえる問題から、個人に関する問題まで、広く対応しています。早い段階で弁護士に相談することはとても重要なことだと考えています。お気軽にご相談にお越しください。 |


