1.ローパフォーマー社員とは
ローパフォーマー社員とは、業務上のパフォーマンスが期待値を満たさない社員、すなわち業績や成果が一定の水準に達しない従業員のことを指します。
このような、ローパフォーマーなど仕事ができない社員への対応にお困りではないでしょうか?
ローパフォーマー社員の存在は、他の社員のモチベーションに影響を及ぼします。
他の社員が仕事を補完しなければならなくなり、公平性を欠き、組織全体のモラルが低下する可能性があります。
さらに、ローパーフォーマーへの対応方法を間違うと、企業を窮地に追い込むことがあります。
例えば、企業が指導の過程でパワハラの問題を起こしてしまうと、従業員から精神疾患の発症などの主張をされ、労災認定されると、安全配慮義務違反を企業として問われることになりかねません。
また、ローパフォーマーなど仕事ができない社員を安易に解雇すると、解雇が裁判所で不当解雇と判断されるなどして、多額の金銭の支払いを命じられることにもなりかねません。
ローパフォーマーなど仕事ができない社員への対応を誤るとパワハラや不当解雇の問題に発展します。また、仮にそのような問題にまで至らなくても、本人との関係がこじれて、問題がさらに悪化し、解決が難しくなります。ローパフォーマーへの対応も法律のルールを守って正しく行うことが重要です。自己流で対応せずに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
2.ローパフォーマーの主な特徴
ローパフォーマーについての主な特徴として以下の点があげられます。
①指示を正しく理解できない
②できないことの言い訳が多く、なかなか前向きな行動を起こさない
③仕事の期限に対する意識が低い
④説明をすると分かった気になるが実際にやらせてみると全くできない
⑤熱意や忍耐強さがない
3.ローパフォーマーなど仕事ができない社員対応の5つの原則
ローパフォーマー社員への対応に現在お困りの方は、以下の5つのポイントを確認してください。
(1)本人に問題点を明確に伝える
経営者や管理職は本人の成績不良やミスに悩んでいるけれども、本人にはそれが伝わっていない場合がよくあります。
そのような場合は、まず、本人に対し、「このままでは困る」、「改善が必要である」とはっきりと伝えることが第一です。
会社にとって最も危険なのは、経営者や管理職が、本人に問題点を明確に伝えないまま、解雇してしまう場合です。
これでは、本人からすると問題点を伝えられていない結果、改善の機会も与えられず、いきなり解雇されたことになります。
この場合は、裁判になれば不当解雇と判断されてしまい、多額の金銭の支払いを命じられます。
これには、非常に注意が必要です。
(2)本人が改善すべき内容を明確に伝える
ローパフォーマー社員の場合、本人は、改善すべき内容を理解できていないことがあります。
改善すべき点を、まず、一つに絞ることも重要です。ローパフォーマー社員に複数のことを同時に改善させることは非常に困難です。
例えば、予約の受付の際に受付時刻などの間違いが多い事務員については、「予約時刻、予約内容を正確に記録する」などの改善点を明確に示す必要があります。
顧客からの入金管理がルーズな経理担当者については、「顧客からの入金が遅れているときは、入金期限の翌日までに顧客に連絡を入れて状況を確認し、上司に報告する」などの改善点を明確にする必要があります。
改善すべき点が複数ある場合は、一つ一つ期限を切って改善させ、それが改善できれば次の改善点を改善させるというように繰り返す必要があります。
(3)正しい評価を伝える
人事評価制度がある会社では、ローパフォーマー社員に対して、低い評価をつけたうえで、具体的な問題点を伝えることが必要です。
意外なことですが、会社としてはローパフォーマー社員として改善が必要と考えているにもかかわらず、本人に対する遠慮や気兼ねなどの理由から、人事評価では低い評価がついていないということがしばしばあります。
このような対応では、本人に対して改善が必要だという危機感を持たせることができません。改善のきっかけを与えることもできません。
将来、その社員を解雇しなければならなくなったときに、裁判所で不当解雇と判断される要因の1つになります。
人事評価で低い評価がついていない従業員について、裁判官は、解雇が正当であったと判断することが難しくなってしまいます。
(4)定期面談で改善を促す
ローパフォーマー社員には、例えば毎月1回面談を行うなどして、改善を促し、改善状況を確認していくことが原則です。
通常の社員よりも頻度をあげて面談を行い、きめ細かく状況を見る必要があります。
定期的な面談を設定せず、何か問題が起きた時だけ呼び出して注意するというやり方では、ローパフォーマー社員の問題点を改善することはできません。
(5)本人に書面を書かせることで理解を確認する
面談や指導を行った後は、本人が本当に指導された内容を理解したのかを確認する必要があります。
そのため、本人に、面談で指導を受けたことを整理して提出させることが重要です。
これには、「会社から指導事項を整理して本人に渡すというスタイルの指導」ではなく、「指導を受けたことを本人に記載させて提出させるという指導」が適切です。
本人に指導を受けた事項を記載させることで、本人が本当に指導を理解しているかどうかという点を確認することが可能です。
業務日報を毎日提出させ、業務の反省点や指導を受けた内容を記載させて提出させるなどの方法が有用です。
4.解雇の注意点
指導しても問題点が改善されず、解雇を検討するときは、以下の点を注意してください。
(1)指導が十分されているかを確認する
従業員を解雇するケースでは、後日、「不当解雇」として訴訟を起こされるリスクを考えておく必要があります。
ローパフォーマーに対する解雇が裁判所で「不当解雇」と判断される主な理由は、「会社は能力不足について十分な指導をしていない。十分な指導をしていれば改善の余地があった。」というものです。
そのため、解雇トラブルが裁判になったときのことを想定すると、会社としてローパフォーマー社員に十分な指導を行ったことを裁判所で説明できることが必要です。
以下の点について、裁判所に十分な説明をできるか確認する必要があります。
①従業員の仕事にどのような問題があったか
②その問題点について従業員に誰がいつどのように指導したか
③指導に対して従業員はどのように対応したか
④指導の結果、改善されたか否か
(2)指導をしても改善されなかったことが証拠として残っているかを確認する
不当解雇が主張される訴訟では、「証拠」が極めて重要です。
これについては、前述の「本人に書かせることで理解を確認する」という項目にも関連しますが、「本人が書いたものを証拠として出す」ということが1つのポイントになります。
例えば、本人が作成した業務日報で、繰り返し同じ反省点を記述している場合、「会社が具体的な指導をしても改善ができなかった」ことの証拠になります。
本人が作成した業務日報で、指導を受けた内容について本人が的外れな記載をしている場合、その業務日報は、「会社が具体的な指導をしても本人が理解できず、改善ができなかった」ことの証拠になります。
そして、本人としても、これらの記載は自分で書いたものである以上、内容が嘘であるとは言えません。
この点が、上司が作成した指導記録や面談メモとの大きな違いです。
「本人が書いたものを証拠として出す」という観点で、どういった証拠が残っているかを確認しておく必要があります。
(3)配置転換が可能であれば解雇の前に配置転換する
複数の職種や部署がある会社では、「1つの所属部署で能力を発揮できない場合に、他部署に配置転換して、他部署での適性を試したか」という点も重要なポイントになります。
例えば、日本IBM事件(東京地方裁判所平成28年3月28日判決)は、不当解雇と判断されていますが、その理由の一つとして「従業員を適性のある業種に配転して、業績改善の機会を与えることなく解雇した」ことをあげています。
複数の職種や部署がある会社では、解雇する前に、他の職種や部署に配置転換することを検討することが必要です。
(4)解雇の前に退職勧奨を行う
現実に従業員を解雇した場合、後に裁判所が解雇を正当と認めるか、不当解雇と判断するかについて、完全な予測をすることは非常に難しいのが実情です。
そして、不当解雇と判断されてしまうと、多額の金銭の支払いを命じられ、支払命令額が1000万円を超える金額になることも珍しくありません。
そのため、解雇は最後の手段ととらえ、まずは、退職勧奨により退職してもらうことを目指すことが必要です。
退職勧奨は、会社から従業員に退職を促すことを指しますが、あくまで従業員に退職について了解してもらい、同意の上、退職届を提出してもらって退職してもらうことを目指す方法です。
退職勧奨についても、裁判所で退職勧奨が違法とされるケースが少なくありません。必ず事前に弁護士にご相談いただくようにお願いいたします。
5.ローパフォーマーの放置は厳禁です
ローパフォーマーへの対応で一番やってはならないのは、「放置」です。
仮に、仕事を与えないという対応をすれば、パワーハラスメントに該当する可能性があります。厚生労働省の指針では、「業務上の合理性なく仕事を与えないこと」はパワーハラスメントに該当するとされています。
さらに、ローパフォーマーを放置した後に解雇した場合、裁判の中で「放置」していたため指導がされていないと判断される可能性があります。
前述の通り、指導をしないで解雇すれば、不当解雇として訴えられれば敗訴して、多額の金銭の支払いを命じられることになります。
ローパフォーマー対応は、「指導を積み重ねて改善させる、改善ができなければ配置転換、退職勧奨または解雇する」ことが原則であり、放置することは厳禁です。
6.弁護士による対応
弁護士による対応は以下のとおりです。
(1)指導方法、対応方法に関するご相談
ローパフォーマー対応については、パワハラや不当解雇、違法な退職勧奨などといったトラブルを起こさないように十分注意したうえで、業務能力の改善に向けた指導を行っていく必要があります。
当事務所では、まず、現在お悩みの状況を詳細にヒアリングしたうえで、過去の対応経験も踏まえて、事案にあった実効性のある対応策をご回答します。ローパフォーマー社員への指導、対応にお悩みの企業経営者、管理者の方はご相談ください。
(2)退職勧奨や解雇の際の面談の立ち合い
企業のご要望に応じて、退職勧奨や解雇の際の面談への立ち合いも行っております。
解雇の際の解雇理由書や解雇通知書の作成と発送についてもご依頼を受けています。
弁護士が書面作成に携わることによって、裁判になった場合を視野に入れて書面作成が可能になります。
(3)解雇後のトラブルに対する対応
解雇した従業員とのトラブルに関する交渉や裁判のご依頼もお受けしています。
解雇した従業員が不当解雇であるとして復職を求めたり、会社に金銭を請求してくるという場面では、弁護士が従業員との交渉を会社に代わって行います。
また、裁判や労働審判の場面でも、会社側の立場を十分に主張し、会社にとってベストな解決を実現します。
解雇後のトラブルでお困りの方は、早めにご相談下さい。
Last Updated on 9月 24, 2024 by kigyo-kumatalaw
この記事の執筆者:熊田佳弘 私たちを取り巻く環境は日々変化を続けており、様々な法的リスクがあります。トラブルの主な原因となる人と人の関係は多種多様で、どれ一つ同じものはなく、同じ解決はできません。当事務所では、まず、依頼者の皆様を温かくお迎えして、客観的事実や心情をお聞きし、紛争の本質を理解するのが最適な解決につながると考えています。どんなに困難な事件でも必ず解決して明るい未来を築くことができると確信し、依頼者の皆様に最大の利益を獲得して頂くことを目標としています。企業がかかえる問題から、個人に関する問題まで、広く対応しています。早い段階で弁護士に相談することはとても重要なことだと考えています。お気軽にご相談にお越しください。 |