売掛金の時効と債権回収の対策

売掛金の時効と債権回収の対策

1売掛金の消滅時効とは?

(1)売掛金について

売掛金とは、商品やサービスを提供した後、顧客からの支払いを待つ間の金銭債権のことを指します。企業にとっては、売掛金が回収できるかどうかが経営に大きな影響を与えるため、消滅時効の理解が重要です。

(2)消滅時効の基本

消滅時効とは、一定の期間が経過することによって、法的に権利が消滅する制度です。売掛金に関しては、債権者がその権利を行使できる期間が設定されています。この期間を過ぎると、債権者は法的にその債権を主張することができなくなります。

民法166条では、売掛金の消滅時効は「5年」と定められています。具体的には、売掛金が発生した日から5年間、債権者がその債権を行使しない場合、債権は消滅します。この期間は、債務者が支払いをしなかった場合でも、債権者が積極的に請求行為を行わなければ適用されます。

(3)消滅時効の援用

債務者が消滅時効を援用することで、法的に債権の消滅を主張することができます。これには、債務者が「時効を援用する」と明示的に述べる必要があります。債権者は、時効が経過する前に債務者に対して請求を行い、時効の成立を防ぐことが重要です。

(4)まとめ

売掛金の消滅時効は、債権者にとって回収の機会を逃すリスクがあります。企業は、売掛金の管理を適切に行い、消滅時効の期間内に請求を行うことが求められます。

2時効の起算点とは?主観的起算点と客観的起算点の違い

(1)起算点の概要

消滅時効における主観的起算点と客観的起算点は、債権や債務の時効が開始される時期を特定するための重要な概念です。

これらの起算点の理解は、法的な権利の行使や消滅を巡るトラブルを防ぐために欠かせません。以下にそれぞれの概念について説明します。

民法166条では、一般的な債権に対する消滅時効は5年と定められていますが、具体的にこの5年がいつからカウントされるのかが重要です。この時期を「起算点」と呼び、主観的起算点と客観的起算点の2つに分類されます。

(2)主観的起算点

主観的起算点とは、債権者が自己の権利を行使できると知った時点から消滅時効が開始されるという考え方です。具体的には、債権者が債務者に対して請求を行う権利を認識し、かつ行使することができる状況が整った時が起算点となります。

たとえば、商品を販売し、代金が未払いである場合、債権者は、代金の支払いを請求できることを知った時点から時効がカウントされ始めます。

(3)客観的起算点

客観的起算点は、債権が発生した日や、債務が履行されるべき日からカウントが始まるという考え方です。この場合、債権者の主観的な認識や意志は無関係です。たとえば、商品が納品された日や契約で定められた支払期限が、消滅時効の起算点となります。

(4)実務上の注意点

企業は、売掛金の管理や債権回収において、消滅時効の主観的起算点と客観的起算点を意識する必要があります。特に、請求のタイミングや方法に注意を払い、消滅時効が適用される前に債権を回収することが重要です。

3売掛金の時効を更新する方法

売掛金の時効を更新する方法について説明します。

売掛金は、商品やサービスを提供した後に顧客からの支払いを待つ間の債権です。

売掛金の場合、請求権は通常5年間有効ですが、債権者がこの期間内に適切な手続きを行うことで、時効を更新することが可能です。

時効を更新する方法には主に以下の手段があります。

(なお、2020年の民法改正前は、時効の中断と表現していましたが、時効の更新と同じ意味です。)

(1)訴訟提起

債権者が債務者に対して訴訟を提起することで、消滅時効は更新します。裁判が始まると、時効のカウントは一時停止され、訴訟が終了した後に新たに5年間の時効がスタートします。これにより、債権者は法的手段を通じて権利を保護することができます。

(2)支払督促

債権者が裁判所を通じて債務者に対し、支払督促を支払督促という手続によっても消滅時効は更新されます。

(3)民事調停申し立て

債権者が債務者に対し民事調停を申し立てることによっても時効は更新されます。

(4)債務者に債務を承認してもらう。

債務者が債務を承認した場合には時効が更新されます。

このような時効更新措置をとることにより、それまでに経過した時効期間はなかったことになり、また1から時効期間が始まります。

4消滅時効完成と猶予措置とは?

(1)「催告」による時効完成の猶予

時効の期限が迫っていて、時効の期限までに訴訟や支払督促を行うことが難しい場合は、内容証明郵便により、買主に対して売掛金を督促することで6ヶ月だけ時効を延長することができます。

この場合、6ヶ月以内に訴訟提起、支払督促、民事調停申し立て、債務承認などを手続を取らなければ、時効完成してしまいます。

(2)協議を行う旨の合意による時効完成の猶予

「権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたとき」は時効の完成が猶予されます。

例えば、買主との間に売掛金の額に争いがあり、債務残高を確定できない場合、「売掛金債権について今後協議を行う」という書面による合意ができれば、次のいずれか早い時期までの間時効の完成を猶予することが可能になります。

①書面による合意があっった時から1年を経過した時

②書面による合意において1年よりも短い期間を協議期間として定めたときはその期間が経過する日

③買主、売主のどちらか一方から相手方に対し協議続行拒絶を書面で通知したときは、その通知から6ヶ月が経過する日

5売掛金回収の注意点と時効成立を防ぐポイント

売掛金の回収は、企業のキャッシュフローにとって非常に重要です。

しかし、回収が遅れると、資金繰りに悪影響を及ぼすことがあります。ここでは、売掛金回収の注意点と時効成立を防ぐポイントについて説明します。

(1)請求書の内容と証拠の保管

請求書は法的な証拠となるため、正確かつ迅速に発行することが重要です。請求書には、取引内容、金額、支払い期日を明記し、取引先が理解しやすい形式で作成する必要があります。

請求書を送付する際は、内容が明確で、送付の証拠(例えば、配達記録や受領印)が残るようにすることが重要です。後々、請求を行った事実を証明できるようにしておくことが、時効の更新において大切です。

(2)合意書の作成

債務者との交渉による時効更新の場合、合意内容を文書化することが必須です。口頭での約束だけでは後々トラブルになる可能性があるため、書面での合意書を作成し、両者の署名を得ておくこと必要があります。

(4)期限管理の徹底

売掛金の時効を管理するためには、期限を把握し、請求行為や裁判手続きなどを計画的に行うことが重要です。消滅時効が近づいてきたら、早めに対応を検討し、必要な手続きを行うことで、権利を守ることができます。

(5)取引先の信用調査

新規取引先や信用不安のある取引先との取引には慎重を期すべきです。信用調査を行い、相手の財務状況や取引履歴を確認することで、リスクを軽減できます。

6時効を過ぎてしまった場合の対処方法

売掛金請求権が時効期間を過ぎてしまった場合、企業は資金繰りや経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。しかし、時効が成立してしまったからといって、全ての手段が失われるわけではありません。以下、時効期間を過ぎた売掛金請求権に対する対処方法を説明します。

(1)状況の確認と証拠の整理

まず、時効が成立したかどうかを確認する必要があります。請求権の時効は、通常は5年ですが、特定の事情によって変わることもあります。以下の点を確認しましょう。

請求日:売掛金が発生した日、請求書を送付した日を確認します。

取引先との連絡履歴:支払いに関するやり取りや、取引先からの返答を記録しておきます。これにより、請求権が時効に達していない場合や、時効が更新された可能性がある場合を把握できます。

(2)取引先への再アプローチ

時効が成立した場合でも、取引先に再度アプローチすることが考えられます。以下の方法でコミュニケーションを図ることが重要です。

①丁寧な連絡

まずは、穏やかな口調で連絡を取り、支払いが滞っている理由を尋ねます。相手の状況を理解することで、解決策を見つけやすくなります。

②支払い計画の提案

もし取引先が経済的に厳しい場合、分割払いやリスケジュールの提案をすることで、回収の可能性を高めることができます。

(3)法的手段の検討

時効が成立した後でも、法的手段が完全に失われるわけではありません。以下の選択肢を考慮する必要があります。

①和解交渉

取引先と和解交渉を行い、双方にとって合意できる解決策を見つけることが重要です。和解が成立すれば、請求権の再確認ができ、今後の取引に良い影響を与えるかもしれません。

②新たな契約の締結

取引先と新たな契約を結ぶことで、以前の未回収分を清算する可能性があります。この場合、過去の未回収分を含めた合意内容を文書化し、法的効力を持たせることが必要です。

(4)債権譲渡の検討

時効が成立した後でも、債権を譲渡することで新たな対応策を講じることができます。債権譲渡は、他の企業や金融機関に対して行うことができます。

①譲渡先の選定

信用がある企業や専門の債権回収業者を選定します。譲渡先によっては、一定の回収率を期待できる場合があります。

②譲渡契約の締結

譲渡する際は、譲渡契約をしっかりと締結し、法的に問題がないことを確認します。

7売掛金などの債権回収は弁護士にご相談ください。

売掛金などの債権回収を弁護士に依頼する理由はいくつかあります。以下にその主要な理由を説明します。

(1)専門知識と経験

弁護士は、法律の専門家であり、債権回収に関する豊富な知識と経験を持っています。債権回収は法的手続きが複雑で、適切な手続きを踏まないと回収が難しくなることがあります。弁護士は、債権者としての権利や債務者の法的状況を理解しているため、適切なアプローチを選択できます。

(2)法的手続きの迅速化

債権回収には、交渉から訴訟、差押えなど、さまざまな法的手続きが必要です。弁護士に依頼することで、これらの手続きが迅速に進められます。特に訴訟の場合、必要な書類や証拠を準備するのは時間がかかりますが、弁護士はそのプロセスを効率的に管理し、迅速な回収を目指します。

(3)交渉力

弁護士は、訴訟になった場合を見通すことができる交渉のプロでもあります。債権回収においては、債務者との直接交渉が必要な場合もありますが、感情的な対立が生じることも少なくありません。弁護士は冷静に状況を分析し、双方にとって有利な条件を引き出すことが職務です。これにより、裁判を避けて円満に解決できる可能性も高まります。

(4)法的なリスクの回避

債権回収を自力で行う場合、法的なリスクを理解していないと不利な状況に陥る可能性があります。たとえば、債務者に対して不適切な手段を講じた場合、逆に訴えられるリスクもあります。弁護士に依頼することで、法的なトラブルを未然に防ぐことができ、安全に債権回収を進められます。

(5)効率的なリソースの活用

債権回収は時間と労力を要するプロセスです。特に企業にとって、債権回収にかかるリソースを他の業務に振り向けたいというニーズがあります。弁護士に依頼することで、専門的な業務を任せられ、自社の業務に専念できるため、経営資源をより効率的に活用できます。

(6)結果の透明性

弁護士は依頼者に対して進捗状況や結果を報告します。これにより、依頼者は債権回収の状況を把握でき、安心して任せることができます。また、弁護士が提示する解決策についても、根拠をもとに説明してくれるため、納得した上で次のステップを決めることができます。

(7)信頼性と信用の向上

弁護士に依頼することで、債権回収のプロセスが正式なものであることが伝わります。債務者に対しても、弁護士が関与しているという事実は、回収の真剣さを示すものであり、債務者に対するプレッシャーとなります。これにより、債権回収がスムーズに進むことが期待できます。

(8)まとめ

売掛金などの債権回収を弁護士に依頼することで、専門的な知識や経験を活用し、法的手続きの迅速化、交渉力の強化、リスクの回避など、多くの利点があります。企業や個人にとって、効果的な債権回収は重要な経営課題であり、弁護士のサポートはその解決に大きな役割を果たします。法律の専門家に依頼することで、安心して債権回収に専念できる環境を整えることができます。

Last Updated on 11月 6, 2024 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

私たちを取り巻く環境は日々変化を続けており、様々な法的リスクがあります。トラブルの主な原因となる人と人の関係は多種多様で、どれ一つ同じものはなく、同じ解決はできません。当事務所では、まず、依頼者の皆様を温かくお迎えして、客観的事実や心情をお聞きし、紛争の本質を理解するのが最適な解決につながると考えています。どんなに困難な事件でも必ず解決して明るい未来を築くことができると確信し、依頼者の皆様に最大の利益を獲得して頂くことを目標としています。企業がかかえる問題から、個人に関する問題まで、広く対応しています。早い段階で弁護士に相談することはとても重要なことだと考えています。お気軽にご相談にお越しください。

法律相談のご相談はお電話で TEL:092-739-5115 受付時間 平日9:00~17:30 熊田法律事務所 法律相談のご相談はお電話で TEL:092-739-5115 受付時間 平日9:00~17:30 熊田法律事務所

ご相談の流れ