
建設業で発生しやすいクレーム
建設業では、契約・工期・品質・安全など多くの要素が複雑に絡むため、「クレーム(苦情・トラブル)」の発生リスクが他業種よりも高いのが特徴です。

近隣住民からのクレーム 騒音・振動・粉塵・車両
典型的な事例は次のとおりです。
① 騒音・振動・粉塵 作業時間・防音対策不十分
「早朝からうるさい」「洗濯物が汚れた」との苦情
② 交通・駐車問題 車両出入り・道路占有
「出入りで危ない」「道路が塞がる」等の通報
③ 境界・越境トラブル
④ 測量ミス・足場設置
⑤ 隣地への越境・破損
⑥ 廃棄物・臭気 廃材管理・産廃処理ミス 廃棄物放置・不法投棄の指摘
主な対応策は次のとおりです。
① 着工前の近隣説明会・挨拶回りを徹底。
② 苦情記録簿・対応履歴を保存。
③ 保険の加入確認。
発注者/施主からのクレーム 工事内容・品質・契約不適合
典型的な事例は次のとおりです。
① 工期遅延 天候不良・人員不足・設計変更・他業者の遅延
発注者が「引渡しが遅い」「損害賠償を請求する」と主張
② 追加工事費の未払い 口頭合意・書面不備
「そんな追加は頼んでいない」と支払拒否される
③ 契約条件の不明確さ 契約書が簡易・見積書ベースのみ
契約範囲・仕様・責任分担を巡る争い
④ 一方的な値下げ・減額 元請がコスト削減を下請に転嫁
「見積より安くしないと次の案件はない」等の圧力
⑤ 支払遅延・未払い 元請側の資金繰り・検収遅延
下請が代金支払を求めて紛争化
⑥ 施工不良・仕上げ不良 下請の技術力・管理不足
仕上がりのムラ・水漏れ・断熱不良など
⑦ 設計との不一致 設計変更指示の伝達ミス
設計図面と実施工内容が違う
⑧ 材料・仕様の違い 現場判断・材料不足
指定外の資材使用・低品質材料代用
⑨ 引渡し後の瑕疵 検査不十分・保証体制不備
引渡し後に欠陥発見・補修要求
主な対応策は次のとおりです。
① 工期変更・追加工事・費用変更は、必ず書面・メール等で記録・合意する。
② 下請法・民法上の「書面交付義務」「協議義務」違反になる場合もあるので注意。
③ 現場監督・設計者・施主との打合せ記録を残す。
④ 瑕疵の範囲・補修義務の期限を契約で明確にする。
⑤ アフター対応方針(保証期間・範囲)を標準化する。
作業員のマナーに関するクレーム
典型的な事例は次のとおりです。
① 近隣住民へのあいさつ不足・無視 忙しさ・教育不足
② 喫煙マナー(ポイ捨て・指定場所以外で喫煙)
③ 騒音・会話の大声・乱暴な言葉づかい
④ 服装・安全保護具の不備(汚れ・だらしない格好)
主な対応策は次のとおりです。
① 朝夕のあいさつ徹底(掲示・声かけ)
② 近隣対応マニュアルの共有
③ 現場責任者が率先してあいさつを行う
④ 喫煙ルールを朝礼で周知
⑤ 違反者には注意・記録(再発時は出入禁止も検討)
⑥ 朝礼で「近隣への配慮」指導
⑦ リーダーが率先して静かな現場づくり
⑧ 苦情が出たら速やかに謝罪と再教育
⑨ 服装規定・安全基準を明文化
予期せぬトラブルに関するクレーム
典型的な事例は次のとおりです。
① 代金減額・買いたたき 契約外値引き・協議拒否
下請法違反の指摘・通報
② 支払遅延・未払い 工程遅延や出来高精算の混乱
「検収が遅く支払が先送り」などの苦情
主な対応策は次のとおりです。
① 下請法遵守・支払期日(受領後60日以内)を徹底。
→ 契約書・検収記録を保存。
→ 苦情が発生したら協議・合意記録を残す。
クレームを悪化させないための初期対応と記録の重要性
建設業のトラブルでは、「最初の対応」と「その時の記録」が、その後の解決の成否を決めるといっても過言ではありません。
初動を誤ることで「軽微な苦情」が「損害賠償請求」「訴訟」「行政通報」へと発展する例は少なくありません。
以下では、建設業におけるクレーム初期対応と記録の重要性を、実務に即して体系的に説明します。
(1) なぜ「初期対応」が重要なのか
建設業のクレームは「感情」と「責任構造」が複雑
クレームは必ずしも法的責任の問題から始まるわけではなく、
多くは「説明不足」「現場対応の印象」「連絡の遅れ」など感情的要素を含みます。
発注者・近隣・下請・行政など複数の利害関係者が関与するため、
一度感情がこじれると解決が極めて難しくなります。
(2) 初動対応で「誠実な姿勢」を示せば、8割のクレームは鎮静化する
① 迅速な訪問・確認・説明
② 記録と経過報告の共有
を行っただけで、法的紛争に発展しなかったケースが多数あります。
逆に、
①「後で確認します」「担当がいないので分かりません」などの放置
② 現場担当の不用意な発言(責任の認め方・感情的応酬)
は、信頼を失わせクレームを「攻撃的要求」へと変化させます。
(3) 記録(エビデンス)の重要性
a 建設トラブルは「現場が消える」
建設現場は工事が進むと形が変わるため、後から証拠を確認できません。
特に完成後・引渡し後に瑕疵や苦情が発生すると、「施工時にどうだったか」を立証するのが困難です。
そのため、日々の記録が「唯一の証拠」になります。
b 残すべき主な記録
① 現場写真
工程ごとの施工状況・部材・天候など 瑕疵否定・責任範囲の立証に有効
② 打合せ記録
発注者・設計者・監督との協議内容 指示・承諾の有無を確認できる
③ 作業日報
作業内容・人員・天候・使用材料 工期遅延・安全管理の証拠
④ クレーム対応記録書
発生日・内容・対応者・対応方針 社内管理・再発防止に有用
⑤ メール・通話記録
発注者や下請とのやり取り 言い分・認識の齟齬防止
⑥ 検収・完了報告書
完成確認の書面 支払・責任分界の基礎資料
特に、「いつ・誰が・何を確認し・どう対応したか」を明確に残すことが、
将来のクレーム・裁判において最も有効な防御資料となります。
クレームを未然に防ぐための戦略
建設業のクレーム防止は、個々の現場対応ではなく、「組織的にリスクを可視化・共有し、トラブルの芽を事前に摘む」
という体制づくりが基本です。
そのためには、次の4つの層での戦略が必要になります。
・ 契約・制度の整備(法的予防)
・ 現場運営・技術管理(実務的予防)
・ コミュニケーション・説明(心理的予防)
・ 記録・教育・組織文化(継続的予防)
(1) 契約・制度面での予防戦略(法的リスク管理)
① 工事範囲・仕様・材料・工期・支払条件・変更手続を明確化。
② 「見積書ベース契約」や「口頭発注」を避け、必ず書面化。
③ 下請契約も同様に、発注条件・追加工事・検収基準を明記。
④ 追加・変更工事の書面合意化
⑤ 設計変更・追加作業は、発注者の「書面承諾」を得る運用を徹底。
口頭・現場判断のまま工事を進めると、支払拒否・責任転嫁の火種になります。
(2) 現場運営・技術管理による予防(実務的リスク低減)
① 現場記録の標準化
作業日報・写真・検査報告書を日次で記録・共有。
特に「途中経過写真」「指示変更の記録」「天候・資材入荷状況」は必須。
後日の「言った・言わない」防止と瑕疵否定の証拠になります。
② 品質管理・検査体制
現場監督・設計者・発注者による三者確認をルール化。
検査基準・合格判定基準を共有し、記録を保存。
③ 安全衛生・近隣対策の徹底
安全指示書・活動記録を文書化し、写真付きで保存。
(3) コミュニケーション戦略(心理的トラブル防止)
多くのクレームは「説明不足」と「認識のズレ」から生じます。
① 着工前の合意形成
図面・仕様・工期・費用をわかりやすく説明し、「認識の一致」を確認。
特に、仕様変更・制約条件(法規制・敷地条件)を明示しておく。
② 進捗報告と情報共有
定期的な進捗説明(週報・ミーティング)をルール化。
トラブル発生時は「先に報告・先に説明」が原則。
③ 苦情・要望の早期吸い上げ
クレーム窓口を明確化(現場→所長→本社)。
「早く拾う」「早く動く」だけで大半のトラブルは沈静化します。
④ 顧客・近隣への誠実な対応
感情的な言い争いを避け、「記録と事実」で説明します。
担当者の対応姿勢(服装・言葉遣い・報告の丁寧さ)が企業の信頼に直結します。
(4) 記録・教育・組織文化による再発防止(継続的リスク管理)
① クレーム対応マニュアルの整備
発生→報告→現場確認→対応→報告書作成までの手順を標準化。
各現場に「クレーム対応チェックシート」を配布し、教育。
② 教育・研修の継続
新任監督・営業担当・協力会社向けに年1回以上の研修を実施。
実際のトラブル事例を教材化し、対応力を底上げ。
③ クレーム記録・分析・共有
苦情内容・原因・対応結果をデータベース化。
同種トラブルを防ぐため、社内で「再発防止ミーティング」を定例化。
④ 弁護士・専門家との連携
契約書・下請契約・法改正(下請法・建設業法・民法)への対応を随時点検。
行政通報・勧告・賠償請求など重大リスクが起きる前に相談する。
モンスタークレーマーや法的トラブルへの対処法
(1) 悪質なクレームへの対応
a まず前提:「クレーム」と「悪質クレーム」を分けて考えます。
① 通常のクレーム 契約・品質・工期・近隣などに具体的根拠がある苦情 誠実・迅速・説明的に対応(初期対応重視)
② 悪質クレーム 法外な要求・人格攻撃・威迫行為・営業妨害
対応を組織化・記録化し、毅然と拒否+法的対応準備
悪質クレームの典型は、次のようなものです。
「返金しないなら会社をネットに書き込む」
「現場監督を出せ、土下座しろ」
「追加費用を負担しろ、払わなければ工事を止める」
「夜中に電話・現場訪問・SNS攻撃」
といった不当・執拗・威迫的要求です。
b 初期対応の基本原則(現場でできる法的リスク回避)は次のとおりです。
① 冷静・中立的に対応
感情的応酬・即答・謝罪合戦を避け、事実確認を優先。
② 一人で対応しない
必ず上司・同僚立会い(複数対応)で、発言を記録。
③ 面談・電話は記録する
日時・発言・態度を「対応記録書」に残す。可能なら録音。
④ 要求は書面で出してもらう
「ご要望を文書でお願いします」と伝える(記録化と抑止効果)。
⑤ 担当者の交代・エスカレーション
現場担当を守るため、管理職・法務・弁護士が前面に。
ポイント
→ 悪質な相手ほど「担当者を追い詰めて揺さぶる」傾向があります。
現場担当者を一人で対応させない仕組みが最も有効です。
c 組織的対応の流れ(段階別)
1. 【初期段階】
苦情内容の正当性を客観的に確認(契約・記録・写真)。
「不当要求」であっても、初回は礼節を持って説明。
ただし、人格攻撃・暴力的発言があれば、その場で打ち切る。
対応例
「お話の趣旨は理解しましたが、暴言や脅しがある場合はお話を続けられません」
2. 【警戒段階】(要求が繰り返される/威迫が強まる)
対応者を固定化し(1名または上長)、窓口を一本化。
記録・書面・メールでのやり取りに限定する。
面談・電話は複数対応、短時間・定型回答を徹底。
「今後のやり取りは、書面またはメールでお願いします」
「ご要望は社内で検討し、後日正式に回答いたします」
3. 【深刻段階】(業務妨害・名誉毀損・威力業務妨害の恐れ)
警察・弁護士・行政(消費生活センター・公取委など)へ相談。
不当要求行為防止責任者(※大企業では必須制度)を設ける。
SNS・ネット中傷は「発信者情報開示請求」など法的手段を検討。
弁護士名での警告書・回答書送付が最も効果的な抑止策です。
d 記録の徹底と「証拠防衛」
悪質クレーマー対応では、記録が防御の生命線です。
① クレーム受付日時・担当者・内容・相手の言動を日次で記録。
② メール・通話・訪問記録を保全。
③ 脅迫・暴言・録音データは弁護士経由で保管。
(2) 損害賠償請求など、法的なトラブルに発展した場合
建設紛争では、法律上の責任よりも「証拠」「経過」「対応姿勢」が重視されます。
そのため、言い訳や感情的反論ではなく、記録・事実の整理 → 法的評価 → 交渉戦略の構築の順で冷静に対応することが肝要です。
a 損害賠償請求を受けた場合の対応
① 【請求書・内容証明を受領した段階】
期日・金額・請求根拠(契約条項・法令)を確認。
感情的な返答や即答を避け、「社内確認のうえ後日回答」と保留。
弁護士に文案を見せ、法的回答書(一次回答)を作成します。
② 【社内調査・法的評価】
契約書・議事録・写真・メール等を整理し、
責任の有無 損害の範囲 過失割合を分析します。
設計・監理者・他の下請に原因がある場合は、求償可能性も検討します。
③ 【交渉・示談対応】
「謝罪」はしても「法的責任の承認」は避ける。
解決の基本形は「補修+一部費用負担+再発防止策提示」。
言葉の使い方が極めて重要です。
「誠実に対応する」≠「責任を認める」
④ 【法的手続(調停・訴訟)への移行】
内容証明・弁護士照会・訴状などを受け取ったら、期日管理が最優先。
裁判所の呼出状を放置すると、欠席判決で全面敗訴扱いになります。
弁護士に速やかに依頼し、答弁書・準備書面・証拠提出を準備。
b 自社から損害賠償請求を行う場合
① 相手の債務不履行・瑕疵・不法行為を特定
工期遅延・設計ミス・施工不良・下請の過失など、法的根拠を明確化。
証拠資料(契約書・写真・議事録・見積・請求書)を整理。
② 通知書・内容証明の送付
弁護士名で内容証明郵便を出すことで、相手の軽視を防ぎ、交渉力を確保。
内容は「請求の根拠」「損害の内訳」「期日」「法的措置予定」を明示。
③ 交渉・和解の選択肢
金銭請求にこだわらず、補修・代替工事・相殺での解決も検討。
記録と合意書(和解書)を残し、再請求の余地を封じる。
弁護士にご相談ください。
建設業の紛争は、最初の対応を誤ると「正当な主張が通らなくなる」 ケースが多いです。
次のようなリスクがあります。
① 口頭での謝罪や譲歩が「責任を認めた」とみなされる。
② 不適切な書面回答が「法的根拠のない約束」になる。
③ 時効期間を過ぎてしまう
最初の段階で弁護士に相談することで、
① 契約・見積書・発注書を法的に再構成
② 「責任の所在」を明確に区分
③ 法令違反や行政リスクを回避
することが可能です。
弁護士に相談する目的は「裁判をするため」ではなく、「裁判にしないで済むように、法的・実務的に整えるため」です。
できるだけ早期にご相談ください。


Last Updated on 1月 8, 2026 by kigyo-kumatalaw
この記事の執筆者:熊田佳弘 私たちを取り巻く環境は日々変化を続けており、様々な法的リスクがあります。トラブルの主な原因となる人と人の関係は多種多様で、どれ一つ同じものはなく、同じ解決はできません。当事務所では、まず、依頼者の皆様を温かくお迎えして、客観的事実や心情をお聞きし、紛争の本質を理解するのが最適な解決につながると考えています。どんなに困難な事件でも必ず解決して明るい未来を築くことができると確信し、依頼者の皆様に最大の利益を獲得して頂くことを目標としています。企業がかかえる問題から、個人に関する問題まで、広く対応しています。早い段階で弁護士に相談することはとても重要なことだと考えています。お気軽にご相談にお越しください。 |


