
2025年6月から、職場での熱中症対策が「義務」になりました。
2025年6月1日から熱中症対策が全ての事業者にとって「法的義務」となりました。猛暑の常態化と熱中症による労働災害の深刻化を受けて、労働安全衛生規則(612条の2)が改正され、職場における熱中症対策が義務化されました。
近時の猛暑の常態化により、建設現場・製造業・物流倉庫をはじめとした多くの業種で熱中症による労働災害が深刻な問題となっています。
厚生労働省の統計によれば、令和4年度には熱中症による労働災害は前年比で約20%増加しました。死亡災害の約1割が熱中症によるものであり、建設業や製造業だけでなく屋内作業においても多発しています。
しかし、従来の法令では、熱中症予防措置は努力義務にとどまっており、実効性に問題がありました。
そこで、「働く人の命を守る」ため、熱中症対策の義務化を進め、労働安全衛生規則の改正により、対策の義務化が図られました。
【義務化のポイント】企業は何をしなければならないのか?
(1) 企業に求められる義務
企業に対し、主に、熱中症の重篤化を防止するための①体制整備、②手順作成、③関係者への周知が求められています。
具体的には、次のとおりです。
① 熱中症の自覚症状のある作業者や熱中症のおそれのある作業者を見つけた者がその旨を報告するための体制整備及び関係作業者への周知
② 熱中症のおそれのある労働者を把握した場合に迅速かつ的確な判断が可能となるように次の手順を作成し関係作業者へ周知
(a)事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等
(b)作業離脱、身体冷却、医療機関への搬送等熱中症による重篤化を防止するために必要な措置の実施手順
ただし、上記対応の対象になるのは、「WBGT値28度以上または気温31度以上の環境下で連続1時間以上または1日4時間を超えて実施が見込まれる作業」です。
(2) WBGT値とは
WBGT値とは、いわゆる「暑さ指数」です。
単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、その値は気温とは異なります。人体と外気との熱のやりとりに着目した指標であり、①湿度、②日射・輻射など周辺の熱環境、 ③気温の3つを取り入れた指標です。
WBGT値は、黒球式の測定器を用いて測定することができます。このほか、環境省の「熱中症予防情報サイト」(https://www.wbgt.env.go.jp/)において、全国の暑さ指数の実測値などを公開しており、ここから参考値を得ることもできます。
対策を怠った場合のリスクとは?罰則と損害賠償責任
今回の熱中症対策の義務に反した場合には、実施義務に違反した者は「6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」に処される可能性があります(法119条1号)。
また、安衛法に違反したことが、直ちに企業の安全配慮義務違反を認定することにはなりませんが、安全配慮義務違反を認めるための重要な要素になり得ます。
今回の法改正に対応しないことで、万が一熱中症の労災事故を発生させた場合には、企業が損害賠償請求を受けるリスクもあります。
熱中症に関連する近時の裁判例として、新星興業事件(福岡地小倉支判令和6・2・13)があります。
この事例は、「男性がサウジアラビア出張を命じられ、2013年8月17日から屋外でしゅんせつ船の溶接補修工事に従事し、同19日ごろ、食欲不振などの体調不良を訴え、病院で治療を受けたが同29日に死亡した」事案で、裁判所は「作業現場の暑さ指数を把握しないまま作業員の体調確認や作業中止等の措置を講じなかった場合、熱中症予防に関する安全配慮義務に違反する」として、会社に約4868万円の支払いを命じました。
弁護士による熱中症対策・予防法務のサポート
当事務所では、今回の熱中症対策をはじめ、労働災害、労働安全衛生に関するご相談をお受けしております。
実際に労災事故が発生し、損害賠償請求を受けた場合はもちろん、事前の予防対策の観点からのご相談をお受けすることも可能です。むしろ、熱中症に関しては、今回の法改正に適切に対応し、自社の安全配慮義務履行を確実にしておくべく、予防法務としての対応が重要となります。
具体的にどのように対応していけばよいか分からない、自社で定めた熱中症対策に漏れがないかなど、お困りのこと、ご不明な点がございましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。
まずは弁護士までご相談ください。

Last Updated on 7月 29, 2025 by kigyo-kumatalaw
この記事の執筆者:熊田佳弘 私たちを取り巻く環境は日々変化を続けており、様々な法的リスクがあります。トラブルの主な原因となる人と人の関係は多種多様で、どれ一つ同じものはなく、同じ解決はできません。当事務所では、まず、依頼者の皆様を温かくお迎えして、客観的事実や心情をお聞きし、紛争の本質を理解するのが最適な解決につながると考えています。どんなに困難な事件でも必ず解決して明るい未来を築くことができると確信し、依頼者の皆様に最大の利益を獲得して頂くことを目標としています。企業がかかえる問題から、個人に関する問題まで、広く対応しています。早い段階で弁護士に相談することはとても重要なことだと考えています。お気軽にご相談にお越しください。 |