退職勧奨で言ってはいけない言葉とは?注意点や裁判事例について弁護士が解説

退職勧奨とは何か

退職勧奨とは、企業が労働者に対して自主的な退職を促す行為を指します。

これは解雇とは異なり、労働者の同意に基づくものであり、強制力を伴いません。

しかし、退職勧奨の進め方によっては違法行為と見なされる可能性があるため、企業は慎重に対応する必要があります。

退職勧奨で言ってはいけない言葉

(1) ハラスメント発言

退職勧奨において、不適切な発言はハラスメントと判断される可能性があり、慎重な対応が求められます。

例えば、「辞めないと居場所がなくなる」「次のボーナスは期待しない方がいい」「君の能力ではもう無理だ」など、精神的圧力をかける発言はパワハラに該当します。

また、「このままだと家族にも迷惑がかかる」など、個人の事情に踏み込んだ発言もNGです。

さらに、執拗に退職を迫ることも違法となる恐れがあります。

退職勧奨はあくまで選択肢の提示であり、本人の意思を尊重することが重要です。適切な対応として、冷静かつ事実に基づいた説明を行い、退職を強要するのではなく、合理的な選択肢を示す姿勢を心がけるべきです。

(2) 人格を否定する発言

退職勧奨において、人格を否定する発言は絶対に避けるべきです。

「君は社会人失格だ」「こんな簡単なこともできないのか」「会社の足を引っ張っている」などの発言は、本人の尊厳を傷つけ、パワハラと判断される可能性があります。

また、「周りも君のことを迷惑だと思っている」など、他者の評価を持ち出して精神的圧力をかける発言もNGです。

退職勧奨は、あくまで業務上の適性や会社の事情に基づいて行うべきであり、個人の資質や価値を否定するような言葉を使うのは適切ではありません。

相手の人格を尊重し、冷静かつ客観的な説明を心がけることが重要です。退職の選択を本人に委ね、公正かつ適切な対応を行うことで、トラブルを回避し円満な解決につなげることができます。

(3) 退職を強要する発言

退職勧奨において、退職を強要する発言は違法となる可能性があり、慎重な対応が求められます。

「もう辞めるしかない」「退職届をすぐに出せ」「辞めないなら厳しい処遇になる」など、選択の余地を与えず退職を迫る発言は強要に該当し、パワハラや不当労働行為と判断される恐れがあります。また、「このままだと解雇になる」など、不安を煽る発言も違法性が高まります。退職勧奨はあくまで従業員に選択肢を提示するものであり、強制するものではありません。適切な対応として、会社の状況や本人の適性を冷静に説明し、十分な検討時間を与えたうえで、従業員自身の意思を尊重することが求められます。

(4) 応じなければ解雇されると誤認する言葉

 退職勧奨では、従業員に「応じなければ解雇される」と誤認させる発言は厳禁です。「この話を断ると解雇になる」「会社としては辞めてもらう方針だ」「退職しないと今後のキャリアに影響が出る」などの発言は、従業員に不当な心理的圧力を与え、違法と判断される可能性があります。

特に、解雇の正当な理由がないにもかかわらず退職を強要するような言い回しは、労働基準法や労働契約法に抵触する恐れがあります。退職勧奨はあくまで本人の意思を尊重しながら選択肢を提示するものであり、解雇と誤解されるような発言は避けるべきです。

適切な対応としては、会社の方針を丁寧に説明し、従業員に十分な検討の時間を与えた上で、自由な判断を促すことが重要です。

退職勧奨で言ってはいけない言葉を使った場合のリスク

退職勧奨において不適切な言葉を使用すると、企業にさまざまなリスクが生じます。

まず、パワハラと判断される発言があれば、従業員が労働局や労働基準監督署に相談し、企業が行政指導を受ける可能性があります。

また、精神的苦痛を理由に損害賠償請求や労災申請をされるリスクもあります。

さらに、退職勧奨が強要とみなされると、不当労働行為や違法な解雇と認定され、裁判で会社側が不利になることも考えられます。

企業の評判が損なわれ、採用や取引先との関係にも悪影響を及ぼす恐れがあるため、退職勧奨は慎重に進める必要があります。適切な対応として、従業員の意思を尊重し、公正かつ冷静に説明を行うことが求められます。

退職勧奨の注意点

(1) 退職勧奨の適切な進め方

退職勧奨を適切に進めるためには、公正かつ慎重な対応が求められます。

まず、対象者の勤務状況や業績を客観的に分析し、退職勧奨の必要性を明確にすることが重要です。

その上で、事前に法的リスクを確認し、発言内容や手順を整理しておくことが望まれます。

面談では、決して強要せず、選択肢の一つとして退職を提案する姿勢が必要です。

「会社の状況や将来を踏まえ、他の選択肢も考えてみませんか」など、冷静かつ敬意を持った説明を心がけることが大切です。

退職しなければならないと誤認させるような発言は避け、本人の意思を尊重しながら十分な検討時間を与えます。

また、面談は必要以上に繰り返さず、執拗な勧奨にならないよう注意が必要です。記録を残し、後のトラブルを防ぐために、複数名で対応することも有効です。

さらに、希望退職制度や再就職支援などの選択肢を示し、円満な解決を目指すことが望ましいでしょう。適切な対応を行うことで、企業の信頼を守りながら、退職勧奨を円滑に進めることができます。

(2) 退職勧奨時の記録の重要性

退職勧奨を行う際、適切に記録を残すことは、企業にとって非常に重要です。

まず、退職勧奨の内容を記録することで、不当な強要やハラスメントがなかったことを証明でき、後のトラブルを防ぐことができます。

特に、従業員から「強引に退職を迫られた」「パワハラを受けた」と主張された場合、客観的な記録がないと企業側が不利になる可能性があります。

記録には、面談の日時、参加者、話し合いの内容、従業員の反応や意思確認の状況を含めることが重要です。

録音や議事録を作成し、可能であれば従業員の同意を得た上で署名をもらうことも有効です。

また、メールや書面でのやり取りを残しておくことで、退職勧奨の正当性を示す証拠となります。

さらに、記録があることで、社内の適正な手続きが確認でき、後に労働審判や訴訟になった場合に法的リスクを軽減できます。適切な記録管理を徹底し、透明性のある対応を行うことで、企業の信頼を守りつつ、円滑な退職勧奨を進めることが可能となります。

(3) 退職勧奨と解雇の違い

退職勧奨は、企業が従業員に対して退職を提案し、本人の自由意思に基づいて判断を求めるものであり、強制はできません。

一方、解雇は企業が一方的に雇用契約を終了させるもので、労働基準法や労働契約法に基づく正当な理由が必要です。退職勧奨で退職を強要すると、不当解雇とみなされる可能性があります。適切な退職勧奨を行うには、従業員の意思を尊重し、慎重な対応を心がけることが重要です。

退職勧奨に関する裁判事例

(1) 違法な退職勧奨と認められた事例

会社側が『退職届を出さなかったら解雇する』として従業員を退職勧奨した場合に、実際は裁判所で解雇が認められないようなケースであれば、従業員が退職勧奨に応じて退職届を提出したとしても、退職の合意が無効とされるリスクがあります。

昭和電線電纜事件(横浜地方裁判所川崎支部平成16年 5月28日判決)

【事例】

電気工事などを事業とする会社が、同僚に対する暴言などの問題があった従業員に退職を勧告し、従業員もこれに応じて退職したが、その後従業員が退職の合意は無効であるとして、会社を訴えた。従業員は訴訟において、「復職」と「退職により受け取れなかった退職後復職までの期間の賃金の支払い」を求めた。

【争点】

会社は退職勧奨の際に、従業員に対して、「自分から退職する意思がないということであれば解雇の手続をすることになる」、「どちらを選択するか自分で決めて欲しい」などと説明した。

従業員は、「会社の説明により、退職届を出さなければ当然解雇されると誤信して退職届を提出した」として、退職の合意の無効を主張した。

そこで、会社が退職勧奨の際に、「自分から退職する意思がないということであれば解雇の手続をすることになる」などと説明したことにより、いったん成立した退職の合意が無効となるかが、裁判の争点となった。

【裁判所の判断】

裁判所は、本件では本来解雇できるほどの理由はなく、解雇は法的には認められないのに、会社の説明により、従業員が退職届を出さなければ当然解雇されると誤信して退職届を提出したと認めた。

退職の合意を無効と判断し、会社に対し、この従業員を復職させ、かつ、退職によりこの従業員が受領できなかった賃金「約1400万円」を支払うことを命じた。この「約1400万円」は、従業員がいったん退職に応じてから、裁判を起こし、裁判で判決が出るまでの間の約2年半の賃金の額にあたる。

(2) 適法な退職勧奨とみとめられた事例

花村産業事件 (東京地方裁判所令和5年2月17日判決)

【事例】

原告は、被告との間で雇用契約を締結し(本件雇用契約)、東京事業所で営業課業務係長として経理事務、営業アシスタント事務を担当していた従業員。

原告は、被告から「貴殿の勤務態度は、遅刻、欠勤、上司を含む他の職員との衝突・摩擦、労働時間の浪費、指揮命令違反、その他貴殿との職場内でのコミュニケーション方法等に関して、これまでに幾多の改善指導を試みても改善しませんでした。」、「他の従業員が傷つくことも複数回発生しておりました。」との理由で普通解雇されたことを受け、地位確認等を求める労働審判を申立てました。これが被告側の異議申立により本訴移行しました。

【争点】

本件では解雇前に行われた退職勧奨が違法と言えるか。

【裁判所の判断】

「退職勧奨を行うこと自体は、説得のための手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り、原則として不法行為を構成するものとは解されない。」

「被告は、原告に対し、令和2年11月16日及び同月26日に退職勧奨をし、同年12月17日には退職勧奨書及び『退職勧奨の理由について』と題する書面を交付し、同月24日及び令和3年1月7日にそれぞれ退職勧奨同意書の提出を促した上、原告が退職勧奨を拒否する旨を伝えた後も、同月16日に『退職される皆様へ』と題する書面等を郵送したものであって、約2か月間に6回の退職勧奨を行ったものといえるが、その頻度、内容に照らしても、説得のための手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱したものということは困難である。」

退職勧奨を弁護士に依頼するメリット

退職勧奨を弁護士に依頼するメリットは多岐にわたります。

(1) まず、法的なリスクの軽減が挙げられます。退職勧奨には、パワハラや不当解雇に該当する可能性があるため、弁護士が適切なアドバイスを行い、法的に問題のない進め方を指導します。これにより、企業側が不当な圧力をかけることなく、法令を遵守しつつ円満に進めることができます。

(2) 次に、従業員の権利を侵害しないためのガイドラインを作ることができます。弁護士は、退職勧奨の際に使用すべき言葉や進め方について、慎重に指導を行い、万が一の訴訟リスクを最小限に抑えるための対応を提案します。

(3) さらに、再就職支援や退職条件の調整など、退職後の問題についてもアドバイスを受けることができ、企業にとっても従業員にとっても納得のいく解決策を見出すことができます。

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Last Updated on 8月 14, 2025 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

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