部下からの逆パワハラとは?対応と予防策を弁護士がわかりやすく解説

パワハラの定義

(1) 「パワハラ」とは 

パワハラについては、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「パワハラ防止法」といいます。)」32条の2に規定されています。

これによるとパワハラの定義は次の3つの要件を満たすものとなります。

 ① 「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動」であること

 ② 「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」であること

 ③ これにより「雇用する労働者の就業環境が害される」こと

  それぞれについて説明します。

(2)「優越的な関係を背景とした言動」とは

厚生労働省によると、優越的な関係を背景とした言動とは「業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもの」であるとされています。

典型的には上司から部下に対する言動がこれに該当するものの、部下や同僚からの言動であっても一定の場合にはこれに該当する可能性があります。

(3)「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは

その言動が業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであることが必要です。

業務上必要かつ相当な範囲を超えない叱責や指導などはパワハラではありません。

パワハラであると主張されることを恐れるあまり部下を適切に指導できないケースもあるようですが、過度に恐れる必要はありません。

業務上必要かつ相当であるかどうかの判断では、次の事項などから総合的に判断されます。

① その言動の目的

   その言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度などその言動が行われた経緯や状況

② 業種・業態

③ 業務の内容・性質

④ その言動の態様・頻度・継続性

⑤ 労働者の属性や心身の状況

⑥ 行為者の関係性

(4)「労働者の就業環境が害されるもの」とは

ある言動がパワハラに該当するためには、その言動によって言動の受け手である労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。

たとえば、労働者が身体的・精神的に苦痛を与えられて就業環境が不快なものとなったために、能力の発揮に重大な悪影響が生じた場合などが挙げられます。

この判断にあたっては、個々の受け取り方のみで判断するのではなく、平均的な労働者の感じ方を基準に判断することとされています。

パワハラ(パワーハラスメント)の定義と企業側の対策について解説

部下から上司への「逆パワハラ」とは?

「逆パワハラ」とは

「逆パワハラ」について、法律の定義はありません。

一般的には部下から上司へのパワハラを「逆パワハラ」と言うと考えられます。

パワハラ防止法では、上司から部下に対するパワハラと、部下から上司に対するパワハラは区別しておらず、いずれも同一に取り扱っています。

厚生労働省は、逆パワハラに該当し得る事例として次のものを掲載しています。

① 同僚または部下による言動で、その言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの

② 同僚または部下からの集団による行為で、これに抵抗・拒絶することが困難であるもの

逆パワハラの例

具体的に逆パワハラの例としては、次のものがあります。

(1) 業務命令の拒否

正当な業務命令に対して、部下がこれを無視したり拒否したりする行為。

これは、上司としての指揮命令権を軽視するものであり、業務の進行が妨げるものです。

例えば、上司が会議資料の準備を指示したにもかかわらず、「それは自分の仕事ではない」と反論して業務を放棄するケースです。

このような行為が繰り返されると、上司の職務遂行能力が疑問視され、組織全体の士気に悪影響を及ぼす可能性があります。また、ほかの部下も指示を聞かなくなる等の悪循環も考えられます。

(2) 故意の業務遅延

上司の指示に対して意図的に遅延行為を行い、業務全体の進行を妨げる行為。

たとえば、プロジェクトの締め切り直前に「まだ資料ができていない」と報告し、意図的に進捗を遅らせる行為が挙げられます。

このような行動が頻発すると、プロジェクト全体の成果に悪影響を及ぼし、上司のマネジメント能力が疑問視されることにもつながります。

(3) 社内での名誉毀損や信用失墜行為

部下が上司の評判を意図的に落とすために行う行為。

これには、虚偽の情報を社内で広めたり、上司のミスを過剰に取り上げたりする行動が含まれます。

たとえば、部下が「このプロジェクトの失敗は上司の責任だ」と同僚に言いふらし、上司の信用を低下させるケースです。このような行為は、職場の秩序を乱し、上司としての信頼性を著しく損ないます。

(4) 過度の批判や不服の表明

上司の意思決定や指示に対して、必要以上に批判を繰り返す行為。

建設的な意見や改善提案ではなく、上司のリーダーシップを否定する意図が見受けられる場合、問題が深刻化します。

たとえば、会議の場で「こんな指示は無駄だ」「もっと別の方法がある」と執拗に反論し、会議を停滞させるケースです。このような行為は、上司の権威を低下させるだけでなく、チーム全体の進行を妨げる結果を招きます。

逆パワハラが発生する原因

(1) 経験値や能力の逆転

1つの企業で定年まで勤めあげることが当たり前であった時代とは異なり、近年多様なバックグラウンドを持つ人材が入社するケースも多くなっています。

そのため、その職種での経験値や能力が上司を上回っている(または、上回っていると自己認識をしている)人物が部下となる可能性もでてきます。

新たな価値観を持った部下が「自分より能力や経験の劣った人から指示を受けたくない」などと考え、逆パワハラに至る場合があります。

(2) 賃金体系や職制などへの不満

企業の賃金体系や職制などへの不満から逆パワハラに発展するケースもあります。

(3) 管理職による指導能力の不足

部下が多少問題のある言動をしたとしても、上司がこれを諫めることができれば逆パワハラには至りません。

しかし、上司側の指導力不足から適切な指導が行われず、逆パワハラが横行したりエスカレートしたりする可能性があります。

(4) 逆パワハラ被害を訴えにくい社内の雰囲気

逆パワハラを社内に訴えにくい雰囲気が社内に蔓延していると、被害に遭っている上司側が上長などに助けを求めづらくなります。

特に上長が古い考え方を持っていると、相談したところで「情けない」などと一蹴され、相談をした上司側の立場が悪くなる可能性もあるでしょう。

(5)  価値観の変化

以前は、目上の人には従うべきであるとの社会の風潮がありました。

しかし、価値観の変化が変化したことで「目上であっても尊敬できない人の指示には従わない」「年齢や入社年次が上というだけで指示をされたくない」などと感じる人も増えているようです。

このような価値観の変化から上司との軋轢が生じ、逆パワハラが起きる可能性があります。

逆パワハラを放置する会社側のリスク

(1) 社内の逆パワハラを行う社員を放置することは、企業にとって多大なリスクを伴います。

社員の士気低下や職場全体の信頼関係の崩壊を招き、業務の停滞や効率の低下が顕著になります。特に上司が業務指導を適切に行えない状況が続けば、チーム全体の連携が悪化し、組織としての生産性が大きく損なわれる可能性があります。具体的には主に下記のようなリスクが発生します。

(2) 社内人材の流出

逆パワハラが放置されているような環境は人材流出を加速させます。

管理職や優秀な人材が職場に魅力を感じなくなり、退職者が増えることで、新たな採用やチーム再編にかかるコストが増大します。離職率の上昇は外部からの評価にも影響を与え、企業の採用力や競争力を低下させる恐れがあります。

(3) 労務管理の不備

さらに、逆パワハラによる精神的ストレスが原因で、上司が健康を害した場合、企業は労務管理の不備を問われる可能性があります。うつ病や適応障害の診断が下されれば、安全配慮義務違反として法的責任が問われ、訴訟や労働基準監督署からの指導に発展するリスクが高まります。

(4) SNSや口コミで問題が外部に広まることで、企業のブランドイメージや信頼性にも悪影響を及ぼすことがあります。

逆パワハラが原因で取引先との信頼関係が揺らぐこともあり、事業運営全般に影響を及ぼす可能性があります。

逆パワハラに対する対応方法

(1)部下から逆パワハラの被害に遭った場合の上司がとるべき基本の対応

 ① 毅然とした態度で対応する

 上司が毅然と対応したり態度を叱責すると、逆パワハラを行っている部下から「パワハラだ」などと主張することがあります。

しかし、上司から部下への指導が、業務上必要かつ相当な範囲内のものであればパワハラに該当しないことは明らかです。

 ② 部下への注意や指導の記録を残す

逆パワハラを行う部下へ注意や指導をした際には、部下がした言動とともに、注意や指導の記録を残します。

態度の改善が見られないと減給や解雇などの対象となる可能性があります。懲戒処分を行う際には指導履歴の有無がポイントとなることが多いためです。

 ③ 組織として対応するよう上長へ相談する

上司による直接の指導で改善が見られない場合は、上長や企業が設置しているハラスメント相談窓口に相談します。

組織として逆パワハラに対応する必要が生じます。

(2) 社内で起きた逆パワハラへの企業としての対応策

社内で逆パワハラが発生した場合における企業としての対応策は次のとおりです。

 ① 相談窓口で相談に応じる

社内でパワハラや逆パワハラが発生した場合、企業は被害者である労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備を講じなければなりません(パワハラ防止法30条の2)。

 ② 事実関係を調査する

事実関係の調査にあたっては、相談窓口の担当者や人事部門などが相談者と行為者の双方から事実関係を確認することが必要です。

ただし、その際は相談者の心身の状況やその言動が行われた際の受け止め方など、その認識にも適切に配慮しなければなりません。

また、相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合は、第三者から事実関係を聴取することなども求められます。

 ③ パワハラ加害者に指導・注意をして記録を残す

企業が逆パワハラの相談を受けたら、パワハラの加害者に指導や注意を行い、記録を残します。

減給や解雇などの懲戒処分を下し、これが不当であるなどと主張された場合は、指導履歴の有無が重要なポイントとなるためです。

 ④ パワハラ加害者の配置転換や懲戒処分を検討する

逆パワハラが事実である場合、加害者の配置転換や懲戒処分を検討します。

労働安全衛生法上、「企業は快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければ」なりません(労働安全衛生法3条)。

逆パワハラの事実を知りながらこの状況を放置した場合、企業に対して責任が問われる可能性があります。

 ⑤ 相談を理由に不利益な取り扱いをしないよう徹底する

企業は、パワハラの相談をしたことなどを理由として、相談者である労働者に対して解雇など不利益な取扱いをしてはなりません(パワハラ防止法30条の2 2項)。

企業が自ら不利益な取り扱いをしないことはもちろん、相談に対応する従業員などに対しても相談者を不利益に取り扱うことのないよう周知徹底することが必要です。

 ⑥ 再発防止策を講じる

企業はパワハラに関する研修を実施するなど、従業員がパワハラへの理解を深めるための対策を講じるよう努めなければなりません(同30条の3 3項)。

特に社内で逆パワハラが発生した場合には改めて研修を実施するなど、再発防止策を講じることが必要です。

逆パワハラ問題を弁護士に相談するメリット

逆パワハラに関するトラブルを弁護士に相談することで、企業は職場環境の改善を実施できるとともに法的なリスクを大幅に軽減できます。

弁護士は、法的観点から問題を冷静に分析し、適切な解決策を提案します。

また、トラブルの事実確認や記録整理、社員への指導方法など、実務的なアドバイスも受けられるため、企業の負担を軽減することが可能です。

さらに、弁護士が介入することで、第三者の視点から状況を整理し、感情的な対立を抑える役割も果たします。必要に応じて、社員間の調整や懲戒手続きの適正化をサポートすることで、問題が拡大するのを防ぎます。

最終的に、弁護士の関与は企業の信頼性を高め、職場環境を改善するための重要な手段となります。特に労務問題に詳しい弁護士のサポートを受けることで、企業は迅速かつ適切にトラブルを解決できる体制を構築できます。

まずは弁護士にご相談ください

Last Updated on 9月 2, 2025 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

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