
企業におけるうつ病休職の現状と基本理解
うつ病は脳の機能障害であり、単なる気分の落ち込みとは異なります。業務効率の低下、欠勤や休職による人員調整の困難、さらに職場復帰後の再発リスクなど、企業にとっても経営課題となります。
多くの企業では、医師の診断書提出を受けて休職を認め、就業規則に基づき一定期間の療養を保障しますが、復職可否の判断や再発防止には専門的な対応が求められます。
基本理解として重要なものは、次のとおりです。
① うつ病は「怠け」ではなく治療が必要な病気である
② 早期発見と適切な休養が回復の鍵である
③ 復職プロセスは段階的に行い、職場環境の調整を含めた支援が不可欠である
④ 企業には安全配慮義務があり、過重労働やハラスメント防止を通じてメンタル不調を予防する体制を構築することが求められている。

休職時の企業側手続と注意点
(1) うつ病による休職が発生した場合
企業はまず医師の診断書を確認し、就業規則に基づき休職の要件(労務不能か否か)を判断します。休職期間や給与の取り扱いは、就業規則・労働契約・労使協定を確認し、傷病手当金の案内を行うことが重要です。
(2) 手続の流れ
①診断書の提出
②休職命令の書面交付(期間・復職条件・連絡義務の明示)
③社会保険手続き(健康保険・傷病手当金)
④定期的な休業状況確認
なお、産業医や主治医との連携を取り、復職可能性の見極めを行います。
(3) 注意点
①個人情報・病名の取扱いは厳重に管理
②不当な解雇や降格はリスクが高く、休職期間満了までは解雇できないのが原則
③復職判断は主治医の診断書だけでなく、企業の就労可能性確認(職場で働けるか)を加味する必要が
あります。
④復職後は再発防止のための業務軽減や勤務時間調整など、合理的配慮が求められます。
(4) 長期休職や復職不能の場合
就業規則の定めに従って自然退職や普通解雇を検討できますが、社会的・法的リスクを伴うため、慎重な対応が不可欠です。企業には安全配慮義務があるため、過重労働や職場環境改善の取り組みも同時に進める必要があります。
うつ病従業員への不適切な対応が招く法的リスク
うつ病の従業員に対する不適切な対応は、企業に重大な法的リスクをもたらします。代表的なのは安全配慮義務違反で、長時間労働や過重な業務を放置した結果、うつ病を発症した場合、企業に損害賠償責任が発生します。過去の裁判例では、適切な勤務管理を怠った企業に数百万円から数千万円の賠償命令が下されています。
うつ病で休職・復職を希望する従業員に対し、不当解雇や退職強要を行うことは違法となり、労働契約法16条に反する「解雇権濫用」と判断される可能性があります。さらに、診断書提出後にも過度な業務や出勤を強制すれば、パワーハラスメントや労災認定に発展する恐れがあります。
個人情報の取り扱いにも注意が必要です。診断名や治療内容を無断で周囲に開示すると、プライバシー侵害や不法行為責任を問われます。復職後に適切な配慮をせず再発させた場合も、安全配慮義務違反とされるリスクがあります。
ハラスメントの放置や復職支援の欠如は、労基署の指導や行政処分、企業イメージの毀損にもつながります。法的リスクを回避するためには、早期対応、産業医との連携、就業規則に基づく手続、合理的配慮が不可欠です。
うつ病と診断された従業員への初期対応と復職支援
(1) うつ病と診断された従業員への初期対応
① まず医師の診断書の確認と、労務提供が困難かどうかの判断が重要です。
診断書が提出された場合、本人の意思を尊重しつつ、無理な出勤や業務を強制しないことが基本です。
② 就業規則に基づき休職命令を正式に書面で通知し、期間・連絡義務・復職条件を明示します。
③ 社会保険上の傷病手当金の手続案内を行い、経済的不安を軽減することも有効です。
(2) 休職期間中
休職期間中は、本人との定期的な連絡を保ちつつ、過度な干渉は避け、産業医や主治医と連携して回復状況を把握します。
復職に向けては、医師の「就業可能」診断だけでなく、職場で安全に業務を遂行できるかを企業側でも判断し、就労可否会議を設けることが望ましいです。
(3) 復職支援
復職支援では、段階的復帰(リハビリ勤務)や勤務時間短縮、業務内容の調整を実施し、再発防止に配慮します。復職直後は負荷が高まらないよう上司や人事が継続的にフォローし、必要に応じて産業医面談を設定します。さらに、職場全体での理解促進やハラスメント防止体制の強化も不可欠です。
こうした初期対応と復職支援を計画的に実施することは、法的リスク回避と従業員の円滑な社会復帰の両立に直結します。
うつ病を理由とした解雇・退職勧奨の可否と注意点
うつ病を理由にした解雇や退職勧奨は、極めて慎重な対応が求められます。
解雇の可否は労働契約法16条の「解雇権濫用法理」に基づき、客観的合理性と社会的相当性がなければ無効とされます。
一般に、うつ病であっても、①治療により回復が見込まれる場合、②復職可能性が残っている場合は解雇は認められません。
一方、休職期間が就業規則で定める上限に達し、なお就労不能が続く場合は、自然退職や普通解雇を検討できます。ただし、その際も、①休職制度を適切に適用し、②復職の可能性を産業医・主治医の意見を踏まえて十分に検討したこと、③配置転換や業務軽減など合理的配慮を尽くしたことを記録に残すことが重要です。
退職勧奨は違法ではありませんが、過度な説得や脅迫的言動は「強要」と判断され、損害賠償や不法行為責任のリスクがあります。
特に、病状を悪化させる行為は安全配慮義務違反やパワハラ認定につながるため、面談は冷静に、複数人で記録を取りながら行うことが望ましいです。
不適切な解雇や退職強要は、労働審判や訴訟で解雇無効・賃金支払命令、慰謝料請求に発展し、企業の信用失墜にも直結します。したがって、制度・法令遵守、合理的配慮、専門家への相談を徹底することが不可欠です。

うつ病で休職した社員への対応を弁護士へ相談するメリット
うつ病で休職した社員への対応を弁護士に相談するメリットは、企業が直面する法的リスクの回避と適切な実務運用の確立にあります。
うつ病対応は安全配慮義務、労働契約法16条(解雇権濫用)、労働基準法、個人情報保護法など複数の法令が絡み、判断を誤ると、損害賠償請求や解雇無効による賃金支払命令といった重大なトラブルにつながります。
弁護士に相談することで、法的要件を踏まえた正確な判断が可能となります。
就業規則や休職制度の適用、休職命令・復職判断の手続は、形式不備や記録不足が後の紛争で不利に働きやすい分野です。弁護士は、診断書確認から休職命令書の作成、復職判定フロー、退職勧奨の可否に至るまで、法的に適切な文書や手続の整備をサポートします。
実務上重要な退職や解雇の判断、復職後の業務配慮について、弁護士は最新の判例やガイドラインを踏まえたリスク分析を提供します。さらに、従業員との面談や労働組合対応、労基署対応など、交渉や説明の場に同席・助言できる点も大きなメリットです。
弁護士の関与は法的リスクを回避しつつ、円滑な職場運営と企業の信用保持に直結します。
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Last Updated on 9月 10, 2025 by kigyo-kumatalaw
この記事の執筆者:熊田佳弘 私たちを取り巻く環境は日々変化を続けており、様々な法的リスクがあります。トラブルの主な原因となる人と人の関係は多種多様で、どれ一つ同じものはなく、同じ解決はできません。当事務所では、まず、依頼者の皆様を温かくお迎えして、客観的事実や心情をお聞きし、紛争の本質を理解するのが最適な解決につながると考えています。どんなに困難な事件でも必ず解決して明るい未来を築くことができると確信し、依頼者の皆様に最大の利益を獲得して頂くことを目標としています。企業がかかえる問題から、個人に関する問題まで、広く対応しています。早い段階で弁護士に相談することはとても重要なことだと考えています。お気軽にご相談にお越しください。 |