諭旨解雇(諭旨退職)とは?懲戒解雇との違いや進め方、注意点について弁護士が解説

諭旨解雇とは

(1) 諭旨解雇の定義

諭旨解雇とは、会社が従業員の重大な規律違反や不正行為などを理由に懲戒解雇(処分としての解雇)をするべき状況であるにもかかわらず、本人にある程度の配慮をした形で「自己都合退職」などの形にする事実上の解雇のことです。

つまり、「本来は懲戒解雇にしてもおかしくないが、本人が自発的に辞めるという形にすれば、懲戒解雇にはしない」 というような、本人の名誉や再就職の機会を考慮した温情的な処分です。

(2) 特徴

 ① 懲戒処分の一種ではあるが、形式的には「自己都合退職」となる場合が多い。

 ② 本人が応じなければ、最終的には懲戒解雇に進むこともある。

 ③ 退職金が全額または一部支給されることが多い(懲戒解雇では支給されない場合が多い)。

 ④ 履歴書にも「自己都合退職」と書けるため、再就職に有利になる可能性がある。

 (例)

例えば、社員が社内の金銭を私的に流用したが、本人が反省し、退職に同意する場合、「諭旨解雇」として処理されることがあります。この場合、懲戒解雇にはしないことで本人の名誉を守りつつ、会社としても秩序を保つという形になります。

(3) 諭旨解雇のメリット・デメリット

【会社側のメリット】

 ①  紛争リスクの低減

懲戒解雇にすると、労働者から「不当解雇」だとして労働審判や訴訟に発展する可能性があります。

諭旨解雇で自主退職の形を取ることで、紛争を未然に防止できます。

 ②  社外へのイメージ配慮

懲戒解雇が公になると、会社のブランドや信用に影響が出る可能性があります。

諭旨解雇なら表面上は「自己都合退職」などにできるため、対外的なダメージを抑えられます。

 ③  社内秩序の維持と温情のバランス

重大な問題行為に対してけじめをつけつつ、従業員や組合との関係悪化を防げるという意味で、懲戒解雇ほど強硬ではない柔軟な対応ができます。

【会社側のデメリット】

 ①  再発防止のメッセージが弱くなる

懲戒解雇であれば他の社員に「違反行為には厳しく対処する」という強いメッセージになりますが、諭旨解雇では見えにくいため、抑止力が弱まる可能性があります。

 ②  甘い処分と受け取られる可能性

場合によっては、社内で「不正をしても懲戒解雇されない」と思われ、会社の規律が緩むリスクがあります。

 ③  明確な記録が残りにくい

懲戒解雇と違い、諭旨解雇では懲戒の記録として残りにくく、後で問題社員が別の形で関わるようなケースでは、過去の問題が把握しづらくなることがあります。

諭旨解雇と懲戒解雇の違い

(1) 懲戒解雇とは

懲戒解雇(ちょうかいかいこ)は、従業員が会社の規則や契約に違反した場合に、会社が取ることができる最も厳しい懲戒処分です。従業員が重大な不正行為を行ったり、業務上の重大な義務違反を犯した場合に適用されます。

懲戒解雇には非常に重い処分が伴うため、会社にとっても慎重に対応する必要があります。

(2) 諭旨解雇と懲戒解雇の比較

 ① 解雇の性質

懲戒解雇 :懲戒処分としての最も重い処分(制裁的な意味合い)

諭旨解雇  :本来は懲戒解雇相当だが、本人の反省や情状を考慮して若干緩和された処分

 ② 退職金の支給

懲戒解雇 :  就業規則に基づき全額または一部不支給が一般的

諭旨解雇 :  原則として支給されるが、一部減額などの扱いがなされることもある

 ③ 手続き

懲戒解雇  :就業規則に基づき厳格な手続きが必要(労働者への弁明機会の付与など)   

諭旨解雇 :懲戒解雇に準じた手続きが必要だが、やや柔軟に運用されることもある

 ④ 労働者の同意

懲戒解雇  :不要(会社の一方的判断)

諭旨解雇  :通常、労働者の自発的な「退職願」または「退職届」により処理される(同意が必要)

 ⑤ 履歴書記載への影響

懲戒解雇  :通常「懲戒解雇」と記載される可能性あり(再就職に大きな影響)           

諭旨解雇 :「自己都合退職」などとされることが多く、再就職への影響は比較的軽微

 ⑥ 社会的評価

懲戒解雇  :強いマイナス評価

諭旨解雇 :一定の名誉回復的要素がある処分として扱われる

(補足)

懲戒解雇は、例えば横領、重大な背任行為、セクハラ・パワハラの重大事案など、「企業秩序に重大な違反がある」ときに用いられます。

諭旨解雇は、同様に重大な非違行為がある場合でも、本人が反省し「自ら退職する意思を示す」ことで、懲戒解雇に至らない処分として使われることが多いです。

実務上は、トラブル回避の観点から「諭旨解雇 → 自主退職」という形に持ち込むケースも少なくありません。

諭旨解雇の進め方

(1) 会社側の進め方

 ① 事実調査(非違行為の認定)

事案の内容(ハラスメント、横領、虚偽報告など)を客観的に調査します。

証拠収集(書類・証言・ログなど)を行います。

本人や関係者へのヒアリングを実施します。

 ② 就業規則の該当条項(懲戒事由)に照らして、懲戒相当かどうかを判断します。

 ③ 弁明の機会付与(意見聴取)

本人に対して弁明の機会を付与(口頭・書面どちらでも可)

    ④ 就業規則の手続規定(懲戒処分前の手続)に従う

 ⑤  諭旨解雇の打診(本人との面談)

 調査・弁明を踏まえて、本来は懲戒解雇相当であることを説明

 ⑥ その上で、本人の反省や会社への影響(再就職の困難等)を考慮し、「自主的に退職する道」を提案

「諭旨解雇処分とするが、退職届を出してくれれば自己都合退職扱いにする」等、落としどころを提示します。

 ⑦ 本人の同意(退職届の提出)

本人が提案を受け入れた場合、退職届の提出を受けます。

 ⑧  処分の決定と文書化

社内で正式に諭旨解雇処分を決定(懲戒委員会・役員会等)

 ⑨ 通知書の発行(退職届を受理した上で「諭旨解雇処分とするが、自己都合退職として取り扱う」など)

 ⑩  退職処理・退職金の扱い

退職日・退職金・離職票などを通常の退職と同様に処理する。

 ⑪ 退職理由を「自己都合」とするか「諭旨解雇」とするかは、当人と合意した扱いに応じて調整(ハローワークの離職理由記載にも影響)

諭旨解雇に関する注意点

(1) 自由意思による退職であることを確認する

退職届の提出が「会社から強要された」と主張されると、不当解雇・損害賠償請求のリスクが生じます。

本人の反省と自発的意思を十分に確認します。

退職届は本人が自筆で書き、署名捺印をもらいます。

面談中に強い語調や圧迫的な発言をしない(録音されている可能性も考慮)。

(2) 就業規則の規定が整っているか確認

諭旨解雇の制度が就業規則に明示されていないと、懲戒処分としての法的有効性が問われる可能性があります。

「諭旨解雇」の定義や要件を、懲戒事由・懲戒処分の種類として就業規則に明記しておきます。

「退職勧奨に応じた場合の取り扱い」なども規定しておくと実務上便利です。

(3) 退職金の支給方針を統一・明確化

諭旨解雇では退職金を支給するケースが多いですが、金額や支給有無に一貫性がないと、他の従業員との不公平性やトラブルの原因になりやすいです。

「諭旨解雇の場合は〇〇%支給」「退職金の減額は役員会の決議による」など、ルールを明確化することが必要です。

(4) 社内外への説明配慮(名誉・再発防止)

処分対象者や周囲の社員のモチベーション・風評被害などに配慮が必要です。

社内には「〇月〇日付で自己都合退職」とだけ通知するなど、名誉への配慮を図る。

ただし、類似事案の再発防止や社内統制の観点からは、「こうした行為は処分の対象になる」という教育的広報も重要です。

(5) ハローワーク離職票の記載に注意

離職理由が「会社都合」か「自己都合」かによって、失業保険の給付に影響します。

本人と合意のうえで「自己都合退職」とするのが一般的です。

ハローワークから照会があった場合に備えて、経緯・面談記録・退職届などを保存。

諭旨解雇と退職勧奨の違い

 ① 法的性質

諭旨解雇  :懲戒処分の一種(懲戒解雇の一段軽い処分)

退職勧奨  :解雇回避努力の一環(雇用契約終了の「働きかけ」)

 ② 対象となる従業員

諭旨解雇  :懲戒解雇相当の非違行為がある者(例:重大な規律違反)

退職勧奨  :成果不振や人員整理対象者など、問題行動がなくても対象になる

 ③ 主導権

諭旨解雇  :会社が処分決定(ただし本人の退職届を促す)

退職勧奨  :本人の自発的な意思が絶対に必要

 ④ 本人の同意

諭旨解雇 :原則として必要(同意なければ懲戒解雇へ)

退職勧奨  :絶対に必要(同意がなければ退職にできない)

 ⑤ 退職届の位置づけ

諭旨解雇  :「処分を受け入れて自主退職」という形   

退職勧奨 :「自己都合で円満退職」に見せるための書面

 ⑥ 主なリスク

諭旨解雇 : 処分の合理性・就業規則の整備・自由意思の確認

退職勧奨 : 強要・不当勧奨・退職強制に伴う損害賠償請求や労基署通報

 ⑦ 典型的な場面

諭旨解雇  :ハラスメント、横領など重大な懲戒事由

退職勧奨  :整理解雇の代替策、能力不足者の処遇

(典型的な例)

諭旨解雇:

 「あなたの行為は本来、懲戒解雇相当です。ただし、反省しているので、自ら退職すれば懲戒解雇にはしません」

退職勧奨:

 「会社としては業績や人員整理の都合上、あなたに辞めていただきたい。ただし、最終的に辞めるかどうかはあなたの意思です」

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諭旨解雇を弁護士に相談すべき理由

(1) 法的リスクの回避

諭旨解雇は、懲戒解雇に準ずる重い処分でありながら、社員に退職届の提出を促す形をとるため、法的にグレーな側面があります。不当解雇と判断されるリスクがあり、労働審判や訴訟に発展すれば、解雇無効や損害賠償の可能性も。

(2) 手続きの適正性確保

労働契約法や就業規則に則った**手続の適正性(懲戒の相当性・手続的正義)**が極めて重要です。弁護士は、以下のような点をチェックできます:

 ① 就業規則に「諭旨解雇」の規定があるか

 ② 問題行為の証拠の有無

 ③ 事前の弁明の機会を与えたか

 ④ 社内調査の妥当性

 ⑤ 処分内容が相当か

(3) 本人対応のアドバイス

従業員に退職届の提出を促す際の言動一つでパワハラや強要と捉えられる可能性があります。弁護士の助言により、適切な説明・対応方法が明確になります。

(4) 退職書類の作成支援

合意退職に導く場合でも、法的リスクを軽減した退職届や合意書の文案を弁護士が整備することで、後日のトラブルを予防できます。

(5) 訴訟・労働審判への備え

仮に従業員が後に争ってきた場合、弁護士が最初から関与していれば、証拠・経緯が整理されており、防御が容易です。

Last Updated on 9月 22, 2025 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

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