固定残業代と就業規則の定め方

(1) 事案

 トラック運送業を営む会社において、ドライバー職の賃金を、従来は日給額の定めのみであったところ、就業規則の変更により、基本給の他、乗務手当及び勤務手当を固定残業代として支給することになった。就業規則の変更に際し、代表者から各従業員に対して全ドライバー職従業員に説明し、当時のドライバー職13名全員から個別に合意書が提出された。

 就業規則の規定は以下のとおりであった。

①乗務手当:個別に時間外労働の見込み時間等にもとづいて、当日の時間外手当、時間外労働割増賃金及び深夜労働割増賃金の合計額について日額を設定して一ヶ月合計額を算定して定額で支給する手当をいう。1か月の累計乗務手当の額が、実際に計算した乗務総額を上回る場合であっても減額せず、下回る場合においてはその差額を別途支給するものとする。

②勤務手当:個別に時間外労働の見込み時間数等にもとづいて、定額で支給する手当をいう。実際に計算した総額が勤務手当の額を下回る場合であっても減額せず、上回る場合においてはその差額を別途支給するものとする。

 これに対し、元従業員の1人から、乗務手当及び勤務手当の内容が不明確であり、提出した合意書は無効であるとして、基本給、乗務手当及び勤務手当の合計額を基本給として割増賃金請求の訴訟提起がなされた事案である。

 

(2) 経過

 乗務手当及び勤務手当の規定の仕方は、長文となっていることから、裁判官は、「直ちに乗務手当及び勤務手当は固定残業代とは認められず、元従業員の主張のとおり、基本給、乗務手当及び勤務手当の合計額を基本給として割増賃金の算定する余地もあるのではないか」と述べていた。

 これに対して、就業規則変更時の代表者から詳細な聴取をし、代表者からドライバーへの説明状況、各ドライバーが提出した合意書の作成状況等について、陳述書を作成して提出するとともに、人証により立証した。

 その結果、裁判官は、本件の乗務手当及び勤務手当を固定残業代であると認め、勝訴的和解により終了することができた。

 

(3) 弁護士所感

 固定残業代を有効とするには、①定額手当が時間外労働に対する手当であることが明確であり、②基本給と区別でき、③当該手当が実際の算定金額を上回っていることが必要である。

 本件は、乗務手当及び勤務手当についての就業規則の定め方が一見して長文であり、分かりにくい面があったため、当初の裁判官の指摘にもやむを得ないものがあった。

 そこで、当時、説明を受けた従業員のうち、在籍している6名全員から事情を聴取して陳述書を提出し、乗務手当及び勤務手当の説明を受けて理解して勤務を継続した旨を説明した。さらに、代表者を含む4名を人証申請して、固定残業代の定めについて、従業員が理解できてること、従業員に周知されていることを立証した。

 さらに、当該手当が実際の算定金額をほとんどの月で上回っていることを立証した。

 就業規則変更時に各ドライバーから個別に提出された合意書には、具体的な金額が記載されていたため、この点も大きな要素になったと思われる。

 本件では、就業規則変更時に合意書が作成されていたこと、従業員に裁判での立証に協力頂いたことが勝訴的和解につながった大きな理由であった

Last Updated on 5月 15, 2024 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

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