(1) 事案
複数の飲食店を経営する会社の1店舗に勤務する元従業員が、レジを不正に操作し、判明しただけでも、10ヶ月間で300回以上にわたって合計500万円以上を抜き取ったとして、会社が元従業員に500万円の損害賠償請求をした。
他方、元従業員は、未払残業代として約280万円及び退職金として210万円を請求した。
(2) 経過
双方の交渉が決裂し、会社側は、損害賠償請求訴訟を提起したところ、元従業員は、レジの不正操作を全面的に争った。そのため、会社の代表者、店舗の他の従業員を人証申請して、レジにマイナスを繰り返し打ち込んで現金を抜き取る手法を繰り返したことを立証した。しかし、他の従業員が打ち間違いなどによりマイナスを打ち込んだ可能性が否定できない部分が残ったため、当該従業員が行った不正行為を全て特定することは困難であった。
他方、元従業員は、別途、未払賃金請求訴訟を提起して、未払残業代と退職金を請求した。未払残業代については、元従業員の作成したメモなどをもとに残業代を算定して請求した。
退職金について、元従業員は退職金規程に基づいて主張していたが、会社側はこれまでの功績をすべて帳消しにするものであるとして争った。
会社側の主張も、元従業員側の主張も、確定的な証拠が乏しいなかで、双方の人証調べが終了した段階で、損害賠償請求事件の裁判官により、未払賃金請求事件も含めて、双方の支払をゼロとするように和解勧試された。
双方がこれを了承し、和解が成立した。
(3) 弁護士所感
交渉が決裂する直前での依頼であった。本件は、双方ともに十分な証拠がない状況で、可能な範囲での立証となった。裁判官の和解勧試は、証拠の評価からすれば適切なものであったと思われる。
会社代表者からも、この点にはご理解頂いた。
本件の後、会社は、従業員のレジ打ちについて、監視体制を整えて不正を防止するとともに、タイムカードの打刻を徹底するようになり、業務改善ができた。
Last Updated on 8月 20, 2024 by kigyo-kumatalaw
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