業務命令を無視する問題社員やモンスター社員の対応・解雇方法について

業務命令違反(モンスター社員)への対応・解雇について

1 はじめに

 厚生労働省モデル就業規則の第10条には「労働者は、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行するとともに、会社の指示命令に従い、職務能率の向上及び職場秩序の維持に努めなければならない。」と記載されています。どの会社の就業規則にもほぼ同様の記載がなされていると思われます。

 しかし、実際には、規則違反や同僚・上司への誹謗中傷を繰り返すなど、職場環境に重大な悪影響を及ぼすモンスター社員が、後を絶たないのが現実です。

 モンスター社員という言葉は、正式な法律用語ではありませんが、一般に会社や周りの従業員に対して不利益をもたらすような言動を行う社員を指して使われる言葉です。

 問題社員とは、より広く、能力不足、頻繁な遅刻、私生活の問題が業務に影響する社員を含めて使用されることが多いようです。

 会社が戦略的な人事労務をして成長するには、モンスター社員や問題社員の言いなりとなるような「悪しき先例」を作ることがないように毅然とした対応が不可欠になります。

 

2 モンスター社員や問題社員の種類

 モンスター社員や問題社員の例としては、以下の例が挙げられます。

モンスター社員

(1) 自分の意見を押し通して業務命令に従わない。
(2) 上司や同僚に暴力を振るい、暴言を吐く
(3) 会社や上司に対する誹謗中傷を繰り返す。
(4) 部下や弱い立場の社員に対してセクハラ・パワハラなどに及ぶ

問題社員

(1) 上司の指示に従わない
(2) 周囲との協調性がなく、トラブルを次々に起こす。
(3) ミスが多く改善できない。
(4) 会社外で刑事事件を起こす。
(5) 社内で不倫を繰り返す。
(6) 病気休職や体調不良による欠勤を繰り返す。
(7) 遅刻・早退、無断欠勤を繰り返す。

 以下では、モンスター社員と問題社員をあわせて、対応方法を検討していきます。

 モンスター社員に対する対応方法は、大きく分けて①事実上の注意指導による方法、②人事上の措置(配置転換、降格等)、③懲戒処分(懲戒解雇を除く)による方法、④退職させる方法(退職勧奨、普通解雇、懲戒解雇)などに分類できます。

 

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モンスター社員の中でも細かく分類することができ、業務上のパフォーマンスが期待値を満たさない社員、すなわち業績や成果が一定の水準に達しない従業員のことをローパフォーマー社員と呼びます。ローパフォーマー社員の存在は、他の社員のモチベーションに影響を及ぼします。他の社員が仕事を補完しなければならなくなり、公平性を欠き、組織全体のモラルが低下する可能性があります。さらに、ローパーフォーマーへの対応方法を間違うと、企業を窮地に追い込むことがあります。例えば、【続きを読む>】

 

3 モンスター社員の主な特徴

 モンスター社員の特徴として、以下の行動が挙げられます。単に、業務成績が悪いだけでなく、極端な行動が表れています。

(1) 業務命令に従わない

 モンスター社員の特徴として、業務命令に従わないということがまず挙げられます。業務命令を拒む態様としては、業務命令に従う必要がない等の独自の見解を述べるに終始する、業務命令が出ていたことを忘れていた等ととぼけて、業務命令無視を続ける、完全に応答しない(無視をする)等がみられます。

 正当な業務命令に対して、逆に「ハラスメントを受けた」等と騒ぎ立てることもあります。

業務指示、上司の指示に従わない社員を解雇できるのか?適切な対応方法について弁護士が解説!

(2) 協調性がない

 モンスター社員は協調性がなく、職場ルールや上司からの指示を軽視し独自の見解に固執して業務を行おうとします。

 雇用契約である以上、従業員は与えられた業務を、誠実に遂行しなければならないにもかかわらず、全く異なった考え方をしていることがあります。従業員に対して、指揮命令を受ける立場にあるという点を理解させることが対応の出発点となります。

(3) 能力が不足しており改善の意思がない

 能力が不足しておりミスを頻発させる、成果物を納期までに納品しない、売上を全くあげない等の事態が生じているにもかかわらず、本人は自己のパフォーマンスが悪いことについて自己以外に原因があると主張し、自身で改善するための努力を行わない特徴があります。

(4) ハラスメント行為を繰り返す

 モンスター社員は、注意や懲戒等を受けているにもかかわらず、標的を変えてパワーハラスメントやセクシャルハラスメント等の行為を繰り返し、職場を混乱させ、場合によっては他の従業員を退職に追い込むことがあります。

(5) 仕事を怠ける

 勤務時間中に仕事と関係ないネット閲覧をしている、外回り営業中にさぼる、事前の有給休暇等の申請なく遅刻早退欠勤を繰り返すことがあります。

 

4 モンスター社員が増加する背景

(1) 仕事よりも個人のライフスタイルを重視する考え方が、モンスター社員が増加する背景にあると言われています。

 プライベートで個人のライフスタイルを重視すること自体に問題はありませんが、それが業務にまで影響して会社の規律と上司の指示を無視することは認められません。

(2) 管理職がパワハラを恐れる

 社会的にパワーハラスメントの問題がクローズアップされ、部下に指導することで、部下から「パワハラだ」と指摘を受けることを恐れ、部下への指導を控える管理職が増えました。

 管理職には、問題のある従業員に問題点の改善のために指導をすることはパワハラではないということをはっきりと教える必要があります。

 また、パワハラにならない指導方法を管理職に正しく伝え、問題のある社員に対しては遠慮なく指導することが管理職の責任であることを理解させることが必要です。

 

5 モンスター社員を放置する場合の問題点

 会社や組織の秩序を無視するモンスター社員など問題社員を放置していると、会社の規律がルーズになり、以下のような問題が起こります。

(1) 職場秩序・モラルが低下する

 たとえ一人であっても、モンスター社員を放置することで、他の周りの真面目に働いている従業員に影響が及びます。

 モンスター社員などの問題社員に同調して、会社の指示や上司の指示に従わない従業員が増え、その結果、会社に対して不当な要求をするようになります。

 経営者や上司のことを馬鹿にして従わない風潮が社内に広がります。

(2) 優秀な従業員の退職、人材流出

 職場環境が悪化し、モンスター社員などの問題社員のトラブルに嫌気がさした従業員が離職します。特に、優秀な従業員は、早期に退職して他の会社に転職してしまいます。

(3) 会社の収益への影響

 モンスター社員が職場環境を悪化させる結果、会社として十分な顧客対応、取引先対応ができなくなり、顧客や取引先が離れていくことになります。

 他の従業員にも問題が広がり、経営者が会社をコントロールできない状態になり、会社の収益も悪化していきます。

(4) 懲戒処分が困難になる

 会社がモンスター社員の行動に目をつぶり、必要な指導や懲戒処分を行わない場合、後になって、会社が方針を変えて懲戒処分を行っても、過去の会社の対応とのバランスを欠いているなどとして、裁判所により、最終的に懲戒処分が無効と判断されるおそれがあります。

 裁判所は、懲戒処分が有効か無効かを判断するにあたって、懲戒対象になった問題行動の程度だけでなく、その懲戒処分が過去の会社の対応と比較してバランスが取れているか否かも判断基準の一つとしています。

 そのため、問題を放置したり、黙認したりすることにより、本来であれば、会社の権限である懲戒処分ができなくなるおそれがあります。

(5) 逆パワハラ問題に発展するリスク

 モンスター社員など問題社員を放置した場合、いわゆる「逆パワハラ」の状態に陥る場合もあります。

 部下からの上司や経営者に対する暴言・暴力が横行したり、部下が上司からの業務命令違反に対して執拗に反論したり、あるいは上司の業務命令に対して「それはパワハラだ。」などと主張して従わないなどの事態が起こります。

 このような逆パワハラが経営者に対してまで行われるようになると、会社での自主的解決が難しくなります。

 そのため、弁護士に依頼して会社側の立場で介入してもらうことにより、モンスター社員など問題社員に必要な指導や懲戒処分を行い、また、必要に応じて退職させて、会社を正常化する必要があります。

(6) 会社に対する攻撃

 会社への攻撃は、以下のような様々な場合が想定されます。

・上司からセクハラやパワハラを受けた、会社には安全配慮義務違反があるなどとして事実無根の主張による攻撃をする
・SNSに会社がブラック企業である等と誹謗中傷の投稿をする
・労働組合を組織し、ストライキと称して、不当に会社の業務命令を拒否する
・顧客情報を持ち出して独立しようとする

 このような問題を起こさないためにも、従業員に、会社の指示や上司の指示に従わない傾向が出てきたり、会社のルールを守らない傾向が出てきたときには早期に対応することが必要です。

 また、モンスター社員など問題社員から会社に対する攻撃や復讐が予想されるときは、必ず早期に弁護士に相談し、攻撃が行われた時の対処方法も考えながら対応することが必要です。

 

6 モンスター社員の対応方法(その1)-事実上の注意指導による方法

 モンスター社員が行った非違行為に対して、注意指導を与える方法です。「事実上の」注意指導とは、懲戒処分や人事上の正式な辞令に基づくものではなく、日常的な注意指導の方法であるという意味です。

(1) 口頭による注意

 該当行為が軽微なものである場合や当該従業員にとって初めての非違行為である場合には、口頭で行うという方法も考えられます。口頭による注意は、対象者に必要以上にプレッシャーを与えずに気付きを促すことができるという点では有用です。

 もっとも、軽微とはいえない非違行為である場合や繰り返されている場合には、その後更なる重い対応も予想されるため、後に紛争化した場合の証拠を残しておくために、注意指導書を交付して、注意指導を与えるのが適切です。

(2) 注意指導書の交付による方法

 注意指導書のイメージは以下のとおりです。実務上、具体的な非違行為の特定がないまま抽象的に記載された注意指導書も散見されますが、更なる問題拡大や紛争時に備え、問題行為は具体的に5W1Hに基づいて指摘するのが適切です。

 

令和○年○月○日

○○○○ 殿

株式会社○○○○
代表取締役○○○○

指導書

 当社は貴殿に対し、以下の貴殿の行為について、厳重注意を与えるとともに、以下のとおり警告いたします。

 令和○○年○月○日以降、令和○○年○月○日まで、貴殿は、○○において、合計○○回の無断欠勤や連絡無しの遅刻を行う等、身勝手な行動を繰り返しました。

 また、その際度々、会社は貴殿に対し面談を行う等して、上記事実を確認し、貴殿に注意・指導を行いました。

 しかしながら、貴殿は、令和○○年○月○日、○○において、事前連絡なく○○するということを行いました。また、同年○月○日にも、同様に○○する等、身勝手な行動を引き続き繰り返しております。

 加えて、貴殿は、誠実労働義務や企業秩序遵守義務に反する言動を長期に渡り繰り返して現在に至っております。具体的には、貴殿は、令和○○年○月○日、上司に対し○○をする等、貴殿には、誠実労働義務や企業秩序遵守義務に反する言動が多くみられます。

 以上の今回の行為については、貴殿が反省し改善することを期待し、懲戒処分とはしませんが、今後、貴殿が同じような行為を行った場合には、会社は貴殿に対する懲戒処分を行わざるをえません。また、改善が見られない場合には、雇用関係の更新をすることができませんので、二度と上記行為と同じような行為を行わないようにしてください。

以上

 

(3) 研修を受講させる方法

 非違行為を発生させた従業員に対し研修を受講させ再発防止を図る方法です。特にハラスメント事案の場合に検討される方法のひとつです。

(4) 毎月面談する

 問題行動に対して直ちに指導することが重要ですが、普段からコミュニケーションができていない相手に対し、いきなり指導しても反発を買うおそれがあります。そのため、普段から面談を行うことは、指導をするために必要な関係性を作るために必要といえます。

 面談の場でも、従業員に問題がある点については遠慮せずに指導を行うことが重要です。そして、指導したままにせずに、指導をした後に改善がされたかどうかを確認し、場合によっては再度指導をすることが必要です。繰り返し指導を行うことで、きちんと仕事をし、社内の規則を作り上げていくことが大切です。

 

 

7 モンスター社員の対応方法(その2)-人事上の措置(配置転換・降格等)

(1) 非違行為を行った従業員の配置またはポジションを人事上の措置として変更する方法です。

 特に、当該非違行為が、当該従業員の配置またはポジションを利用して行われていたという背景がある場合(ハラスメント案件含む)や、非違行為の性質から同一職務を任せ続けることが相応しくない場合には、他の方法(注意指導や懲戒処分)と併せて検討する必要があります。

 なお、職種や勤務地、ポジションが限定された雇用契約(職種限定契約や勤務地限定契約)が締結されている場合には、これを超える職種や勤務地の変更はできないことがありますので注意が必要です。

(2) 退職に追い込むことを目的とした異動は違法

 会社の人事異動は大きく分けて、勤務地の変更を命じる「転勤命令」と、勤務地は変更せずに業務内容を変更する「配置転換」があります。

 就業規則において会社の転勤命令や配置転換命令に従うべきことが定められている場合、従業員が、正当な理由なく、これらの命令を拒否することは懲戒事由になります。

 ただし、会社による人事異動命令には、一定の制限があります。

 特にモンスター社員などの問題社員を退職に追い込むことを目的として異動を命じた場合には、業務上必要のない不当な目的による異動であるとして、異動命令が無効と判断されたり、会社に損害賠償が命じられる裁判例が多くありますので、注意が必要です。

 特定の上司の業務命令に従わない従業員について、解雇の前に、他部署に配置転換して就業の機会を与えるべきであったとして、解雇を不当解雇とした裁判例もあります。

 

8 モンスター社員の対応方法(その3)-懲戒処分(懲戒解雇を除く)による方法

 懲戒処分は、従業員の企業秩序違反行為に対する制裁罰です。

 就業規則に懲戒対象となる事由と処分の種類が明記されており、当該対象事実が発生した際には、相当といえる範囲内の懲戒処分を実施することができます。

 軽微とはいえない非違行為を行う者や非違行為を繰り返す者に対しては、懲戒処分の実施を検討するべきです。

(1) 懲戒処分の種類には次のようなものがあります

ア けん責処分

 始末書を提出させて将来を戒める処分です。

 これに似た懲戒処分として「戒告」がありますが、一般的に戒告は始末書の提出を伴わない(将来を戒めるのみ)形で就業規則に規定されていることが多いです。

 

イ 減給処分

 賃金額から一定額を差し引く処分です。

 これはあくまで一賃金支払分から差し引く一過性の処分であり、月額賃金額を継続的に引き下げる処分ではありません。実務上この点を誤解されているケースが間々見られますので注意が必要です。

 また、減給処分を行う際の減給幅は労働基準法第91条において、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならないと上限が規定されていることにも留意が必要です。

 

ウ 出勤停止

 従業員の就労を一定期間停止する処分です。

 出勤停止期間中は、賃金支給がなされない(すなわち前述の減給処分よりも経済的不利益は大きくなる)のが通常です。

 

エ 降格処分

 懲戒処分として、役職、職位、職能資格などを引き下げる処分です。

 

オ 諭旨退職

 退職届の提出を勧告し、即時退職を求める処分です。所定期間内に勧告に応じない場合には懲戒解雇となるのが通常です。

 

カ 懲戒解雇

 懲戒処分として即時解雇を行う処分であり、最も重い懲戒処分です。

 解雇予告手当の支給がなされず、また退職金の支給もなされないと規定されているのが通例です。懲戒解雇については後述します。

(2) 懲戒処分を正しく行うためのポイント

ア 事実関係の調査

 どのような非違行為があったのか、漠然としてではなく「いつ、どこで、誰が、誰に対し、何をしたのか」を具体的に特定する必要があります。調査の方法としては、e-mailや映像等の客観資料の収集確認、目撃者や本人へのヒアリング等が考えらえれます。

 

イ 事実認定

 調査内容から、会社として「どのような非違行為が行われたのか」という事実を認定します。行為者が認めている事実や客観資料(映像等)から明らかな場合、事実認定は行いやすい傾向にあります。一方、証拠が第三者ヒアリングのみの場合には、事実認定は慎重に行う必要があります。

 実は、この事実認定が非常に難しく、後になって裁判で覆されることがあります。必ず、弁護士に相談するようにしてください。

 

ウ 弁明の機会の付与

 懲戒処分の有効性の審査にあたり、手続きが適正に行われたのかという点も審査のポイントとなります。手続きの相当性を担保するという観点から、懲戒予定の対象行為について言い分を述べる機会(弁明の機会)を付与するべきです。

 弁明機会の付与はあくまで懲戒予定対象行為について、処分対象者の言い分提出の機会を付与するものですので、事実認定のための調査ヒアリングや処分決定後の始末書提出とは異なります。

 弁明機会の付与は書面で行うことで手続き内容も証拠化することができます。以下は、弁明機会付与のイメージですのでご参照ください。

 

令和○年○月○日

○○○○ 殿

○○○○株式会社
代表取締役○○○○

弁明の機会付与通知書

 当社は、貴殿の下記行為に対して懲戒処分を行う予定です。弁明があれば、令和○年○月○日(必着)までに書面(任意書式)を会社に提出してください。

 令和○年○月○日○時頃、朝礼の場において他の従業員の面前において、○○従業員に対し、「○○○○」、「○○○○」等と言った行為

以上

 

エ 懲戒処分の選択

 事実認定結果、行為者の弁明内容を踏まえて懲戒処分を決定します。

 就業規則上懲戒委員会の規定がある場合には、懲戒処分実施にあたっての意思決定手続きに留意する必要があります。

 

オ 懲戒処分の通告

 懲戒処分の通告は、書面で行うべきです。万が一再発し将来解雇となった場合に、懲戒処分を実施したことは解雇の有効性を基礎づける有力な証拠となり得ます。懲戒処分通知書のイメージは次のとおりです。

 

令和○年○月○日

○○○○ 殿

○○○○株式会社
代表取締役○○○○

懲戒処分通知書

 当社は貴殿の下記行為について、就業規則第○条○項○号に基づき、本書面をもって本日付で譴責処分とします。

 令和○年○月○日○時頃、朝礼の場において他の従業員の面前において、○○従業員に対し、「○○○○」、「○○○○」等と言った行為

以上

 

 解雇を視野に入れざるを得ない場合でも、最初は、いきなり解雇するのではなく譴責などの軽い懲戒処分をすることになります。このような懲戒処分をした後にも業務命令に従わない場合には、解雇を検討することになります。

 裁判所で解雇が正当と認められるためには、会社が正当な業務命令を出しており、譴責等の懲戒処分をしたにもかかわらず、業務命令に従わない意思を明確にしているなど、改善が期待できないことが条件になります。

 

9 モンスター社員の対応方法(その4)-退職を目指す方法(退職勧奨、普通解雇、懲戒解雇)

(1) 退職勧奨を選ぶべきか、解雇を選ぶべきか

 これまで紹介した方法は、今後も雇用を継続することを前提とする方法です。

 しかしながら、いくら指導や懲戒、配置転換を重ねても改善が全く見られないという従業員も存在します。そのような場合、企業秩序を維持するためには雇用契約の解消も検討をせざるを得ません。

 もっとも、わが国における解雇(普通解雇・懲戒解雇)、すなわち企業による一方的意思表示により雇用契約を終了させる行為は、有効性のハードルが非常に高く、非違行為やミスを行ったからといって容易に解雇を有効と認めない傾向にあります。放送時刻を寝過ごして2度の放送事故を起こしたアナウンサーに対する解雇が無効と判断された裁判例(高知放送事件・最高裁昭和52年1月31日判決)があります。

 仮に会社が解雇裁判で敗訴した場合、対象労働者の復職のみならず、紛争期間中の賃金支払いが命じられるという経済的打撃や、無効な解雇を行ったことによる企業の信用やブランド価値の低下にもさらされることになります。

 さらに、解雇の有効性判断は裁判官によっても大きく左右されるところであり、予測が立てづらいのが実情です。

 一方、退職勧奨、すなわち企業から従業員に対して雇用契約を合意で解消することの促しによる場合、あくまでこれに応じるかどうかは従業員の自由であるものの、これに従業員が合意する場合には合意退職となり、上記解雇の無効リスクにさらされることなく、また紛争の長期化を避けることができるというメリットがあります。

 そのため、非違行為を行った従業員の身分関係解消を検討する際、よほど極端な非違行為(社内での多額の金銭横領等)でない限りは、まずは退職勧奨を検討することが有効です。

 

(2) 退職勧奨の戦略策定

 退職勧奨を実施する際、いかに「従業員が納得できる退職条件」をタイミングよく提示できるかが、合意成立の有無を分ける勝敗のポイントとなります。また、方法を誤ってしまった場合には退職勧奨行為自体が違法なものとなり、慰謝料発生の原因となってしまうこともあるので注意が必要です。

 退職勧奨の提案方法について、当事務所でも頻繁にご相談いただくテーマですので、是非ご相談ください。

(3) 解雇の実施にあたって

 解雇を実施する前に、会社として尽くせる手段を尽くしておくことが重要です。

 

ア 金銭不正事案の解雇

 金銭不正事案における解雇は、裁判所は比較的有効と認めやすい傾向にあります。もっとも、金銭不正の事実確定が不明確なまま解雇に踏み切る等の場合には解雇が無効となっているケースもありますので、注意が必要です。

 

イ 横領、着服をする社員への対応

 横領や着服をする問題社員については、指導ではなく、まず、調査が必要になります。横領は犯罪行為であるため、調査の結果、横領した事実が確認できるのであれば、指導を経ずに解雇することが可能となります。

 ただし、実際には、横領した従業員から、不当解雇を理由に訴えられ、会社側が敗訴するケースが多いことに注意する必要があります。

 会社側が敗訴する原因は、会社側が横領の事実について十分な証拠を確保していなかったため、裁判所が横領の事実を認定できないことが原因です。横領や着服については、具体的な犯罪行為に関する事実についての証拠の確保が重要になります。

 どのような事実が裁判所の認定に耐えられるかについては、会社側が容易に判断することはできません。裁判に関する専門的な知見が必要になりますので、必ず弁護士に相談頂くのがよいと思います。

 

ウ 配転命令を拒否する従業員に対する解雇

 配転命令を拒否する従業員に対する解雇については、特に前提となる配転命令が有効かどうかという点が審査のポイントとなります。以下、配転命令拒否を理由とする解雇の判断要素を示します。

 

エ セクハラをする社員への対応

 従業員が部下にセクハラを繰り返す場合、まずは、被害者、加害者双方に対するヒアリングを調査する必要があります。そして、実際にセクハラが本当にあったのかどうか、どの程度のセクハラがあったのか、を確認することが必要です。

 その上で、セクハラの程度に応じた処分を検討する必要があります。

 処分の大まかな目安は以下のとおりです。

 

① 「卑猥な言動」のような身体的接触を伴わないセクハラ

 常習性がない場合は処分なしとして注意する程度でも良い場合があります。

 懲戒する場合でも、最も軽い処分である戒告程度とするべきです。

 他方、常習性があり卑猥な発言を繰り返していたり、上下関係を利用して男女関係を迫るような悪質なケースは、出勤停止あるいは降格処分が妥当です。

 

② 「肩を抱く」、「膝の上に座らせる」など暴力を伴わない身体接触のセクハラ

 常習性があったり、加害者の反省がない場合は、出勤停止あるいは降格処分が妥当です。

 

③ 「無理矢理キスする」、「押し倒して性行為に及ぶ」など暴力を伴うセクハラ

 懲戒解雇が妥当です。

 

オ パワハラをする社員への対応

 従業員が部下にパワハラを繰り返す場合についても、まずは、被害者、加害者双方に対するヒアリング調査を行い、パワハラが本当にあったのかどうか、どの程度のパワハラがあったのかを確認することが必要です。その上で、パワハラの程度に応じた処分を検討する必要があります。

 

① パワハラ行為の後、加害者が反省して被害者に謝罪し、被害者も一応謝罪を受けいれているようなケース

 「戒告」あるいは「減給」程度にとどめるべきです。

 

② パワハラの被害者が多数であり、しかも加害者が反省しないケース

 このようなケースでは、加害者を上位の役職につけておくのは会社の職場環境を著しく悪化させることになります。そのため、加害者の「降格処分」を検討することが必要です。

 

③ 過去にもパワハラについて懲戒処分歴がある従業員がさらにパワハラを繰り返したケース

 このようなケースでは、「諭旨解雇」あるいは「懲戒解雇」を検討する必要があります。

 

10 モンスター社員など問題社員を生まないための工夫

 モンスター社員などを完全に防止することはできませんが、少しでもモンスター社員を生まないための工夫はできると思います。

(1) 査定を行い昇級・賞与に反映させる

 従業員の勤務成績について査定を行い、その査定を賞与や昇給に反映させることが、モンスター社員を生まないための工夫として有用です。

 従業員が社長や上司を誹謗中傷する、あるいは業務命令に自分勝手な主張をして従わないというケースは、その背景として、そのような行動をとっていても、会社からの不利益を受けないという側面があります。

 従業員が会社の業務命令に従わなかったり、他の従業員にいじめやハラスメントを行ったりした場合に、賞与においてその従業員に不利益を与える仕組みを作ることが必要です。

(2) 査定の進め方の注意点

 賞与や昇給の査定はあらかじめ査定項目と査定期間を決めた上で、査定期間が始まる前に査定項目を従業員に周知した上で査定を行い、査定結果は、面談で従業員1人1人にフィードバックすることが必要です。

 査定にあたって注意を要するのは、モンスター社員などの査定については、問題点を遠慮なく指摘する査定記録をつけるべきという点です。

 多くの場合、モンスター社員についての査定記録を見ると、それほど悪い評価を受けているということが読み取れないような査定記録になっていることがよくあります。

 大きな問題を抱えた社員については、あいまいな伝え方をせず、問題点を端的に指摘し、改善されない限り雇用の継続が困難であることをはっきりと査定記録に記載し、本人にも伝えることが、モンスター社員を生まないために重要です。

(3) 業務のローテーションを実施する

 自分の業務の内容を社内で共有せずに自分にしかわからないようにし、自分がいなければ会社が業務を進められないような状況を作り上げた上で、モンスター化して業務の指示に対して反論して協力を拒否したりすることがあります。

 このような事態を避けるために、業務の手順についてマニュアル化した文書を作り、その業務をできる従業員を増やした上で、定期的に業務のローテーションを行うことが必要です。

 現時点で、特定の従業員にしかできない業務ができてしまっている会社は、まず、現在の担当者にその業務内容について文書化したマニュアルを作らせることから始め、業務の手順を誰にでもわかる形にすることから取り組んでいく必要があります。

(4) スムーズな問題解決のためには弁護士への相談が必須

 社員がモンスター化してしまったケースを自社で対応することは適切ではありません。

 自社で対応するとモンスター社員に対する感情的な嫌悪感から、法的にみて不適切な対応をしてしまい、パワハラトラブルや不当解雇トラブルを引き起こしてしまったり、不適切な懲戒処分をしてしまい懲戒処分の撤回に追い込まれるケースが非常に多くあります。

 会社側でいったん不適切な対応してしまうと、その点についてモンスター社員から攻撃を受けることになり、また紛争化した時も、裁判所から問題点を指摘され会社は不利な立場に追い込まれます。

 モンスター社員など問題社員の対応は必ず、問題社員対応に精通した弁護士に相談しながら進めていくことが必要です。

 弁護士への相談が遅れれば遅れるほど、自社での対応による対応の誤りが発生したり、問題放置による職場環境の悪化が進むことになり、リカバリーのためにより多くの時間と労力を費やすことになります。

 早く弁護士に相談することが、泥沼化させずに解決するための重要なポイントです。

 

11 モンスター社員への対応方法を弁護士に相談すべき理由

 このように、モンスター社員への対応方法には種々のバリエーションが存在し、非違行為の性質、頻度、生じた影響、本人の反省の程度等を考慮のうえ、適切な対応をとる必要があります。

 仮に、不必要に重過ぎる処分を行うと処分自体が違法とされ、当該処分が無効となってしまったり、慰謝料請求の原因とされる場合もあります。また、事実の特定が不十分なまま対応が実行されたり、証拠として残らない方法によって対応が行われた場合、その後紛争化した場合に使用者側の主張が裁判所に認定されないことも多くあります。

 そのため、非違行為を行う問題社員に対しての対応は、場当たり的なものであってはならず、着地点を見据えた適切な方法を選択する必要があります。このような非違行為を行うモンスター社員への対応についても、紛争が拡大化する前に弁護士に相談ください。

Last Updated on 12月 6, 2024 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

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