バックペイの意味と計算方法、中間収入の控除について解説

1バックペイとは

1バックペイとは

不当解雇で訴えられて敗訴した場合に会社側が労働者に支払わなければならない金額のことを言います。

2よくある相談例

(1)不当解雇の裁判で負けると、従業員にお金を払う必要がありますか。

(2)バックペイを支払わなければならない理由は何ですか。

(3)バックペイは、どのような計算で、どのぐらいの金額になりますか。

(4)バックペイから控除できるものはありますか。

(5)バックペイを支払わなくてもよい場合はありますか。

などの相談を受けることがあります。

2バックペイを支払わなければならない理由

1ノーワーク・ノーペイの原則

従業員による会社に対する賃金請求は、就労することによって、はじめて発生します(民法624条1項)。これは、労務の提供と賃金が対価関係にあるため、労務の提供がない限り、賃金が発生しないという原則です。

そのため、従業員が就労しない場合、賃金請求できないことが原則となります(ノーワーク・ノーペイの原則)。

2解雇無効におけるバックペイ

(1)裁判実務では、会社が主張する解雇が無効である場合、会社は、従業員に対して、解雇によって就労が拒否されていた期間の賃金を支払わなければなりません。

解雇時点に遡って、賃金を支払わなければならないことから、バックペイと呼ばれています。

(2)バックペイを支払わなければならない理由は、次のように説明されています。

解雇が無効である場合、会社の責任で労務を提供できないと判断されるため従業員は賃金請求を失わないと解釈されています(債権者の責めに帰すべき事由による就労義務の履行不能、民法536条2項)。

万一、解雇無効と判断されると、バックペイを支払わなければならないということについて、会社としては必ず認識しておく必要があります。

3民法536条2項(債務者の危険負担等)についてご説明します。

(1)民法536条2項は、第一文で「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」、第二文で「この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。」と規定しています。

(2)解雇が無効である場合、債権者(会社)の責任で債務者(従業員)が労務を提供できないことになり、民法536条2項第一文により、債権者(会社)は、債務者(従業員)に対する反対給付(賃金支払義務)の履行を拒むことができなくなります。

3バックペイの計算について

1解雇無効によるバックペイの高額化リスク

会社が主張する解雇が無効である場合、会社は、従業員に対して、解雇によって就労が拒否されていた期間の賃金(バックペイ)を支払わなければなりません。このバックペイの金額は高額化する傾向にあります。

これは解雇無効が争われ、労働裁判となる場合、長期化することが多く、バックペイの金額は1000万円を超えることも頻繁にあります。

労働裁判は1年から2年かかることも多く、特殊なケースでは、4~5年も争われることもあります。その場合、遅延損害金が算定され、さらに高額化します。

2一般的な計算方法

バックペイの計算方法は次のとおりです。

(1)固定給

毎月の固定給が決まっている場合、解雇されていなかったら、その固定給が毎月確実に支払われたといえるため、その固定給相当額の賃金を請求できます。

(2)通勤手当

通勤手当は、通勤に必要となる実費を補償する性質・目的である場合、毎月確実に支払われたとはいえないため、バックペイの対象には基本的にならないといえます。

(3)時間外手当(残業代)

時間外手当(残業代)は時間外に就労して初めて発生するものであり、確実に支払われるものではないため、バックペイの対象には基本的にならないと思われます。

但し、固定残業代(みなし残業)は、解雇されなければ、確実に支払われたといえるため、バックペイの対象に含まれると判断される可能性があります。

(4)賞与

賞与は、事案に応じて判断されますが、一般的に否定されることが多いです。

例えば、就業規則で、支給時期や会社の業績に応じて支給すると定めている場合、会社が各時期(夏季・冬季等)の賞与ごとに算定基準を決定し、成績査定等によって初めて具体的な金額が確定、権利として発生すると考えることができるため、バックペイの対象とはなりません。

これに対し、就業規則や雇用契約書で、支給時期や金額の算定基準が明確に定められている場合、成績査定を必要せず、確実に支払われたといえるような状況と判断されることもあるため、バックペイの対象に認められる可能性があります。

(東京地方裁判所平成28年8月9日判決)

「原告らと被告との間で、賞与に関する具体的な約定はなく(弁論の全趣旨)、被告における賞与に関する取決め等をみると、被告と労働組合との間では、労使協定において、各組合員の賞与支給額を決定するためには、「考課率(±30%)」を算定する必要があるとされており、考課率を算定するための賞与評価面談を行うことが賞与支給の前提となっていることが認められる。また、前記労働組合の組合員でない従業員に関しては、「給与規定」において、「…賞与は、内申に基づいて社長がこれを決定する。」(2条)、「社業の成績により、毎年7月および12月に賞与を支給することがある。」(29条)と定められており、賞与の支給の有無及びその金額の決定が被告の裁量に属するものとされていることが認められる。」

「そうすると、被告に対する賞与請求権は、前記労働組合の組合員である従業員については、当該従業員に係る考課率を算定するための賞与評価面談が行われ、所要の手続を経て考課率が算定され、支給金額が決定されて初めて具体的な権利として発生し、前記労働組合の組合員でない従業員については、被告がその裁量権を行使して賞与を支給する旨決定して初めて具体的な権利として発生するものと解される。」

4バックペイにおける中間収入控除とは

1従業員が他社で収入を得ている場合

解雇された労働者が確定判決を得る前に、他社に就職して収入を得ている場合、特段の事情がない限り、労働者が他に就職して収入を得ていることを主張し、会社が支払うべきバックペイの金額から控除できることが認められています。これは、民法536条2項第二文「この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。」によるものです。

会社としては、解雇無効の主張がなされた場合、従業員が他社から収入を得ていることを調査して主張する必要があります。

但し、控除される金額の限度は、労働者が他社から収入を得ている期間に対応する期間の収入のうち、平均賃金(労働基準法12条)の4割を超えない部分に限定されています。

(最判昭和37年7月20日判決米極東空軍山田部隊不当解雇事件)

「労働基準法二六条が「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合使用者に対し平均賃金の六割以上の手当を労働者に支払うべき旨を規定し、その履行を強制する手段として附加金や罰金の制度が設けられている(同法一一四条、一二〇条一号参照)のは、労働者の労務給付が使用者の責に帰すべき事由によつて不能となつた場合に使用者の負担において労働者の最低生活を右の限度で保障せんとする趣旨に出たものであるから、右基準法二六条の規定は、労働者が民法五三六条二項にいう「使用者ノ責ニ帰スヘキ事由」によつて解雇された場合にもその適用があるものというべきである。」

「労働者が使用者に対し解雇期間中の全額賃金請求権を有すると同時に解雇期間内に得た利益を償還すべき義務を負つている場合に、使用者が労働者に平均賃金の六割以上の賃金を支払わなければならないということは、右の決済手続を簡便ならしめるため償還利益の額を予め賃金額から控除しうることを前提として、その控除の限度を、特約なき限り平均賃金の四割まではなしうるが、それ以上は許さないとしたものと解するのを相当とする。」

5バックペイの支払が認められない場合

1従業員の就労の意思又は能力の喪失

従業員が就労の意思又は能力を失っている場合、会社の責任で労務を提供できないわけではないため、バックペイの支払が否定されます。

例えば、①従業員が就労する意思を確定的に放棄し、雇用契約を終了する解雇を承認している場合や②従業員が私傷病で就労できない場合がこれにあたります。

もっとも、従業員の就労の意思や能力の喪失は簡単に認められるわけではなく、解雇後に他社に就職したというだけでは、バックペイの支払が否定されるわけではないため、注意する必要があります。

2従業員の就労の意思又は能力の喪失によってバックペイの支払が否定されることもありますが、厳格に解釈されることについては、理解しておく必要があります。

6弁護士による残業代請求のトラブルの解決

1弁護士による解雇トラブル・バックペイへの対応

解雇トラブル案件では、初期対応を間違ってしまうと、労働トラブルが長期化し、解雇無効となった場合、バックペイの高額化によって、企業は、予期しない重大な不利益を被ってしまうことになります。

そもそも、就業規則に不備があったり、就業規則を周知していなかったり、業務命令や指導支持を記録していなかったり、解雇理由証明書を発行してしまったので理由が追加できない等、後からでは取り返しがつかない場合もあります。

弁護士へのご相談によって業務命令違反者への処分に関するトラブルを抑制することができます。

2万が一、解雇トラブルが労働裁判となった場合、解雇権濫用法理によって従業員が保護される傾向にあることを理解し、最悪のリスクを回避するため、労働法や紛争・訴訟に精通する弁護士に依頼する必要があります。

経営者にとっても、弁護士と交渉する経験が少なく、また、従業員側弁護士も労働法や紛争・訴訟に精通している可能性も高いため、その対応を間違ってしまうと、重大な不利益を被ってしまうことがあります。

弁護士は、会社の代理人として、会社の利益を最大化するという視点から従業員側弁護士との間で交渉を行います。

Last Updated on 9月 24, 2024 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

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