
従業員による情報漏洩とは?
従業員による情報漏洩は、企業にとって最も深刻なリスクの一つです。
情報漏洩により、取引先情報、顧客データ、営業ノウハウ、技術情報などが外部に流出すれば、信用失墜や取引停止、損害賠償請求など重大な損害に直結します。
漏洩経路は、USBメモリやメールの誤送信、SNSへの投稿、クラウドサービスの誤使用など多様であり、悪意による持ち出しだけでなく、不注意や知識不足による過失も少なくありません。
特に退職時のデータ持ち出しや、転職先への情報持込みはトラブルが多発しています。
企業としては、まず就業規則や誓約書において守秘義務・情報管理義務を明確に定め、従業員教育を継続的に実施することが不可欠です。
また、社内システム面でもアクセス権限の限定、ログ管理、外部記録媒体の制限、クラウド利用ルールの策定など、技術的対策を講じる必要があります。
さらに、漏洩発生時には迅速な原因究明と被害拡大防止措置を取り、状況に応じて懲戒処分や損害賠償請求、刑事告訴を検討します。
企業は「人」と「仕組み」の両面からリスク管理を行うことで、情報漏洩を未然に防ぐ体制を確立することが重要です。

従業員による情報漏洩の主な要因
(1)意図的な持ち出し
営業秘密や顧客リスト、価格表、技術データなどが、意図的に持ち出されれば、競合他社への情報流出や顧客奪取、取引停止など深刻な損害を招くおそれがあります。
特に、退職や転職を契機にデータをコピー・転送して持ち出す事例が多く、USBメモリや個人メール、クラウドストレージ、スマートフォンなど多様な手段で行われます。
このような行為は、企業との雇用契約に基づく信義則違反であり、民法上の不法行為責任(民法709条)や労働契約上の債務不履行責任を問われるほか、不正競争防止法2条1項7号(営業秘密の不正取得・使用・開示)にも該当する可能性があります。
悪質な場合には、刑事罰(同法21条)として10年以下の懲役又は2000万円以下の罰金が科されることもあります。
企業としては、従業員との間で入社時・退職時に守秘義務契約や競業避止義務契約を締結し、情報管理規程を整備しておくことが不可欠です。
また、技術的にはアクセス権限の制御、USB使用制限、ログ監視などの内部統制を徹底し、異常なデータ取得行動を早期に検知できる仕組みを構築する必要があります。
万一情報持ち出しが判明した場合には、速やかに法的措置(証拠保全、仮処分、損害賠償請求、刑事告訴等)を検討し、被害拡大を防止することが重要です。企業は「信頼するが監視する」という姿勢で、組織的・継続的に情報セキュリティ対策を講じることが求められます。
(2)メール誤送信
従業員によるメール誤送信は、日常業務の中で最も起こりやすい情報漏洩事故の一つです。宛先の選択ミスや添付ファイルの誤り、BCCとCCの混同など、ちょっとした操作ミスが顧客情報や取引先データ、社内資料の流出につながり、企業の信用失墜や損害賠償請求など重大な結果を招くことがあります。
特に個人情報や機密資料を含むデータの誤送信は、個人情報保護法や契約上の秘密保持義務違反に発展する可能性もあります。
メール誤送信の多くは悪意ではなく注意不足に起因するため、再発防止には「仕組み」と「教育」の両輪が重要です。
具体的には、宛先入力時の自動補完機能の制限、外部送信時の警告表示、添付ファイルの自動暗号化、上司承認機能の導入など、システム面の安全装置を整備することが有効です。
また、従業員に対し、個人情報の取扱いと誤送信のリスクを理解させるための定期的な研修を行うことも欠かせません。
誤送信が発生した場合には、直ちに送信先への削除依頼や回収要請を行い、社内報告体制に基づいて迅速に対応します。
被害の範囲を調査し、必要に応じて取引先や関係機関への報告・謝罪を行うとともに、再発防止策を明確にすることが信頼回復の鍵となります。
企業は、メール誤送信を「ヒューマンエラーだから仕方ない」とせず、組織的な情報管理体制の不備と捉え、技術的・教育的両面からリスクを最小化する取り組みを継続的に行うことが求められます。
(3)データ紛失や盗難
従業員によるデータの紛失や盗難は、企業にとって重大な情報漏洩リスクの一つです。
ノートパソコン、USBメモリ、スマートフォン、外付けハードディスクなどの記録媒体の持ち出しや管理不十分により、顧客情報や営業データ、技術資料などが第三者の手に渡る恐れがあります。
紛失・盗難は悪意によるものだけでなく、出張や在宅勤務、移動中の不注意によっても容易に発生しうるため、企業規模を問わず常に注意が必要です。
データの紛失・盗難が発生した場合、個人情報保護法に基づく報告義務や顧客への通知義務が生じることがあり、社会的信用の失墜、取引停止、損害賠償請求といった深刻な結果を招くこともあります。
特に医療・金融・教育など個人情報を多く扱う業種では、1件の事故が事業継続に影響を与えるほどのダメージとなることも珍しくありません。
予防策としては、まず「持ち出し原則禁止」を基本とし、業務上やむを得ず持ち出す場合には管理者の承認を必須とすることが重要です。また、持ち出し機器にはパスワード保護・暗号化を施し、遠隔ロックやデータ消去機能を導入するなど、技術的な安全措置を徹底することが求められます。さらに、紛失・盗難発生時の報告手順を明文化し、従業員教育を通じて迅速な対応を促す体制を整備しておく必要があります。
企業は、ヒューマンエラーを前提としたリスク管理を行い、「もし紛失しても被害が生じない仕組み」を構築することが、実効性のある情報セキュリティ対策といえます。
(4)従業員のSNS
従業員によるSNSを通じた情報漏洩は、近年急増している企業リスクの一つです。X(旧Twitter)、Instagram、FacebookなどのSNS上に、勤務先の内部情報や顧客データ、職場の写真、会議内容などを不用意に投稿することで、企業の信用が失墜し、取引先との関係悪化や損害賠償請求に発展するケースもあります。
投稿者本人に悪意がなくても、「社内の雰囲気を伝えたかった」「日常の一コマを共有したかった」という軽い気持ちが、重大な情報漏洩や炎上を引き起こすことがあります。
対策としては、まず就業規則や情報管理規程において「SNS利用に関する禁止事項」や「発信上の注意事項」を明文化し、入社時・定期的に従業員教育を実施することが不可欠です。
また、実名・匿名を問わず業務関連情報の発信を禁止し、写真投稿時には背景や資料に社外秘情報が写り込まないよう注意を促す必要があります。
万一、SNS上で情報漏洩が発覚した場合には、直ちに該当投稿を削除し、関係者への影響調査・被害拡大防止措置を講じます。
重大な場合には懲戒処分や法的責任追及も検討されます。企業は「SNSは個人の自由」と捉えるのではなく、社会的信用を守るためのリスク管理の一環として、明確なルールと監視体制を整備することが求められます。
情報漏洩と営業秘密について
情報漏洩とは、企業が有する個人情報、営業秘密などが意図に反して外部に漏れてしまう事態をいいます。
個人情報とは、生きている個人に関する情報で、そこに含まれる氏名や生年月日、住所、顔写真などによって特定の個人を識別できるもの、または個人識別符号が含まれるものをいいます。(個人情報保護法2条1項)
営業秘密とは、次の3つの要件を満たすものをいいます。(不正競争防止法2条6項)
①秘密管理性(秘密として管理されていること)
②有用性(有用な営業上又は技術上の情報であること)
③非公知性(公然と知られていないこと)
営業秘密の具体例:
①顧客名簿、②従業員名簿、③価格情報、④新規事業計画、⑤製造方法・ノウハウ、⑥開発情報
情報漏洩によって引き起こされる法的リスク
(1)不正競争防止法
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を促進するため、不正競争を防止し、不正競争行為に対する差止め、損害賠償及び刑事罰を規定しています。
不正競争行為の具体例:
①会社が管理していた顧客名簿を元従業員が在職中に持ち出し、他社で使用された。
②秘密として管理していた技術データが元従業員によって海外の競合メーカーに流出した。
③特徴的なデザインのゲーム機を新しく発売したところ、形態がよく似た商品が出回り始めた。
不正競争防止法では、営業秘密を不正に持ち出したり、使用することを禁止しており、これに違反すると、民事責任や刑事責任を負います。もっとも、不正競争防止法によって営業秘密として保護されるためには、前述の3つの要件をすべて満たす必要があります。
情報漏洩が企業にもたらすリスク
個人情報が漏洩した場合に発生し得る主なリスクは次のとおりです。
(1)企業の信頼が失墜する
個人情報が漏洩した場合、企業の信頼が大きく失墜する可能性があります。
特に個人の病歴や人種、信条など特に配慮が必要な個人情報(「要配慮個人情報」といいます。個人情報保護法2条3項)やクレジットカードなど二次被害につながるおそれのある情報を漏洩した場合は、信頼回復がより困難となる可能性があります。
(2)是正勧告・刑事罰の対象となる
個人情報が漏洩したこと自体に関して、直ちに罰則が適用されるわけではありませんが、個人情報が不適正に取り扱われていた場合などは、個人情報保護委員会から是正の勧告や命令がなされる可能性があります(個人情報保護法148条1項から3項)。
また、この命令に従わない場合、その旨が公表される可能性があるほか、行為者が1年以下の懲役または100万円以下の罰金、法人が1億円以下の罰金刑に処される可能性があります(同法4項、178条、184条1項1号)。
(3)損害賠償請求される
個人情報漏洩が発生した場合、損害賠償責任を負う可能性があります。
損害賠償の金額は漏洩した情報の内容や実損害発生の有無によって異なるものの、1件あたり数千円から1万円程度と認定されることがあります。
(4)営業秘密が一旦漏洩してしまうと、「情報」(無体物)という性質上、その損害の回復が困難といえます。
企業が長年、投資し蓄積してきた情報であるため、その価値も高く、その被害は甚大です。特に、競合企業(ライバル企業)に営業秘密が漏えいされると、競争優位性を失うことにもつながります。

情報漏洩を防ぐための具体的な対策
従業員による情報漏洩を防ぐためには、「制度面」「技術面」「教育面」の三つの柱で多層的に対策を講じることが重要です。
まず制度面では、就業規則や情報管理規程において、守秘義務・情報取扱ルール・違反時の懲戒措置を明確に定めます。
入社時には秘密保持契約を締結し、退職時にもデータ返還義務や競業避止義務を確認するなど、法的拘束力を持たせることが有効です。
また、情報へのアクセス権限を業務上必要最小限に限定し、機密区分に応じた管理基準を設けることが求められます。
技術面では、情報システムへのアクセス制御、ログ監視、外部記録媒体の使用制限、メール誤送信防止機能の導入、データ暗号化、リモートワイプ機能の活用など、技術的防御策を整備します。
特にUSBメモリの使用禁止やクラウドストレージの利用ルール化は、意図的・過失的な情報持ち出し防止に有効です。さらに、機密情報を外部ネットワークから隔離する「ゼロトラスト型」セキュリティも有力な選択肢となります。
教育面では、従業員一人ひとりが情報漏洩のリスクと責任を自覚することが不可欠です。定期的な研修やeラーニングを通じて、SNS投稿、メール誤送信、端末紛失など身近なリスク事例を共有し、実践的な行動指針を浸透させます。特に管理職には、部下の情報管理を監督する責任を明確化することが重要です。
このように、制度・技術・教育を一体的に運用することで、企業は「人為的ミスを前提にした堅牢な管理体制」を構築し、情報漏洩を未然に防止することが可能となります。
弁護士による営業秘密、情報漏洩対応
(1)就業規則や秘密保持契約書の作成
不正競争防止法で営業秘密として保護されるためには、秘密管理性(秘密として管理されていること)が必要です。そのため、就業規則などにおいて、営業秘密の取扱方法を規定するとともに、従業員との間で秘密保持契約書を作成することが不可欠です。
弁護士は、不正競争防止法に基づく営業秘密として保護されるために就業規則や秘密保持契約書の作成をサポートします。もちろん、営業秘密を効果的に保護するための方法や方策も対応します。
(2)従業員への責任追及
従業員又は退職者が営業秘密を持ち出し不正に利用して企業に損害が発生した場合、企業は、不正競争行為を行った従業員等に対して責任追及をする必要があります。責任追及の方法として、①懲戒処分、②民事上の損害賠償請求、③刑事告訴などがあります。
弁護士は、①懲戒処分(懲戒解雇を含む。)の判断や手続のために、必要な助言・アドバイスを行います。懲戒処分は、慎重に判断しなければ、無効と判断されるリスクがあります。特に懲戒解雇は、不適切な行為があったからといって、解雇が有効になるとは限りません。具体的な態様・時期・頻度等を踏まえて、法的観点から慎重に判断する必要があります。
また、②民事上の損害賠償請求は、不正競争行為を行った従業員等に対して、裁判外又は裁判手続において、損害賠償を請求し、損害の回復を図るとともに、営業秘密の利用について差止請求も検討します。
さらに、③刑事責任としては、告訴状を作成し、証拠を添付して、企業の代理人として告訴状の提出・対応を行い、刑事責任を求めることが可能になります。
従業員等による不正競争行為によって、毀損された信用を回復させるため、弁護士が企業の代理人として、不正競争行為を行った従業員等に対して、毅然として責任追及を行います。
(3)コンプライアンス研修
不正行為を行った従業員の動機としては、①バレることはないと思っていた、②悪気がなかった、③ここまで大きな問題になるとは思わなかったなど、自らの責任の重さを自覚していない安易な言動が数多くあります。
そこで、弁護士がコンプライアンス研修を行うことによって、責任の重さを自覚してもらい、具体的な問題点を提示することによって従業員や退職者による不正競争行為を事前に防止できます。コンプライアンス研修は、企業の皆様のニーズや状況をヒアリングしたうえで、より効果的な研修を提案・企画します。
コンプライアンス研修の具体例は次のとおりです。
①情報漏洩のリスク
②営業秘密の重要性
③不正競争行為と民事責任
④不正競争行為と刑事責任
情報漏洩した社員の処分とは
情報漏洩を引き起こした従業員に対しては、その行為の故意・過失の程度、漏洩内容の重要性、被害の範囲などを総合的に考慮し、適切な懲戒処分を科すことが必要です。 処分の目的は単なる制裁ではなく、再発防止と組織の規律維持にあります。
まず、軽度の過失による誤送信や注意不足の場合には、戒告・けん責などの軽い懲戒処分や口頭注意にとどめることが一般的です。ただし、個人情報や機密情報を外部に送信した場合には、たとえ過失であっても重大な結果を招くことがあるため、減給・出勤停止など一定の懲戒を検討する必要があります。
一方、営業秘密や顧客情報を意図的に持ち出した場合は、懲戒解雇も視野に入ります。
これは企業への背信行為であり、労働契約上の信頼関係を根本から破壊するためです。特に、転職先や競合他社への情報提供、金銭目的での漏洩など悪質性が高い場合には、民事上の損害賠償請求や刑事告訴(不正競争防止法違反、業務上横領罪など)も検討されます。
処分にあたっては、就業規則に懲戒事由として「情報漏洩」「守秘義務違反」を明記しておくことが重要です。
また、懲戒手続では事実確認・本人への弁明機会の付与を適正に行い、懲戒権の濫用とならないよう留意する必要があります。
さらに、処分後には再発防止のための教育・体制強化を実施し、組織全体で情報管理意識を高めることが不可欠です。
企業は「個人の責任追及」と同時に「組織の管理体制の見直し」を行うことで、信頼回復とリスク低減を図ることが求められます。
情報漏洩の対策について弁護士にご相談ください。
弁護士に依頼するメリットは次のとおりです。
(1)不正競争行為の事前予防
弁護士がコンプライアンス研修を担当し、また、就業規則や秘密保持契約書の作成をサポートすることによって、営業秘密の漏洩等の不正競争行為を事前に予防できるというメリットがあります。上司又は同僚から注意されても、効果がない場合でも、外部の弁護士による研修や注意・指導は、法的責任があることを伝えながら、具体例を用いて説明するため、不正競争行為を抑止する観点から有効な方法といえます。
(2)毅然とした対応による再発防止
不正競争行為を社内だけで解決しようとする場合、毅然とした対応をすることが難しい場合があります。また、その対応が甘かったため、同様のトラブルが起きてしまうこともあります。
弁護士に依頼することによって、法的責任(懲戒処分・民事責任・刑事責任)を見据えて毅然とした対応を行うことができるため、効果的な再発防止策をとることができます。
(3)法的手続を活用した解決
弁護士に依頼すれば、民事裁判を利用して、損害賠償や差止めを請求することが可能です。また、刑事責任も、告訴状を作成し、弁護士が告訴手続を代理することによって効果的な責任追及が可能となります。
従業員等に対する責任追及がうまくいかないときでも、法的手続を活用した解決が可能となります。


Last Updated on 12月 10, 2025 by kigyo-kumatalaw
この記事の執筆者:熊田佳弘 私たちを取り巻く環境は日々変化を続けており、様々な法的リスクがあります。トラブルの主な原因となる人と人の関係は多種多様で、どれ一つ同じものはなく、同じ解決はできません。当事務所では、まず、依頼者の皆様を温かくお迎えして、客観的事実や心情をお聞きし、紛争の本質を理解するのが最適な解決につながると考えています。どんなに困難な事件でも必ず解決して明るい未来を築くことができると確信し、依頼者の皆様に最大の利益を獲得して頂くことを目標としています。企業がかかえる問題から、個人に関する問題まで、広く対応しています。早い段階で弁護士に相談することはとても重要なことだと考えています。お気軽にご相談にお越しください。 |


