1情報漏洩と営業秘密について
(1)情報漏洩とは、企業が有する個人情報、営業秘密などが意図に反して外部に漏れてしまう事態をいいます。
(2)個人情報とは、生きている個人に関する情報で、そこに含まれる氏名や生年月日、住所、顔写真などによって特定の個人を識別できるもの、または個人識別符号が含まれるものをいいます。(個人情報保護法2条1項)
(3)営業秘密とは、次の3つの要件を満たすものをいいます。(不正競争防止法2条6項)
①秘密管理性(秘密として管理されていること)
②有用性(有用な営業上又は技術上の情報であること)
③非公知性(公然と知られていないこと)
営業秘密の具体例:
①顧客名簿、②従業員名簿、③価格情報、④新規事業計画、⑤製造方法・ノウハウ、⑥開発情報
2情報漏洩や営業秘密の流出が起きる原因について
(1)不正アクセス
不正アクセスとは、アクセス権限を持たない者が、サーバーや情報システムの内部へ侵入を行う行為のことです。
(2)従業員による故意な持ち出し
企業に対する悪意のある従業員が故意に持ち出すことです。
(3)従業員によるミス
従業員の過失により、たとえば、個人情報を誤って誤送信したり、個人情報が記録された機器を置き忘れたりすることなどが考えられます。
3情報漏洩によって引き起こされる法的リスク
(1)不正競争防止法
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を促進するため、不正競争を防止し、不正競争行為に対する差止め、損害賠償及び刑事罰を規定しています。
不正競争行為の具体例:
①会社が管理していた顧客名簿を元従業員が在職中に持ち出し、他社で使用された。
②秘密として管理していた技術データが元従業員によって海外の競合メーカーに流出した。
③特徴的なデザインのゲーム機を新しく発売したところ、形態がよく似た商品が出回り始めた。
(2)不正競争防止法では、営業秘密を不正に持ち出したり、使用することを禁止しており、これに違反すると、民事責任や刑事責任を負います。もっとも、不正競争防止法によって営業秘密として保護されるためには、前述の3つの要件をすべて満たす必要があります。
4情報漏洩が企業にもたらすリスク
個人情報が漏洩した場合に発生し得る主なリスクは次のとおりです。
(1)企業の信頼が失墜する
個人情報が漏洩した場合、企業の信頼が大きく失墜する可能性があります。
特に個人の病歴や人種、信条など特に配慮が必要な個人情報(「要配慮個人情報」といいます。個人情報保護法2条3項)やクレジットカードなど二次被害につながるおそれのある情報を漏洩した場合は、信頼回復がより困難となる可能性があります。
(2)是正勧告・刑事罰の対象となる
個人情報が漏洩したこと自体に関して、直ちに罰則が適用されるわけではありませんが、個人情報が不適正に取り扱われていた場合などは、個人情報保護委員会から是正の勧告や命令がなされる可能性があります(個人情報保護法148条1項から3項)。
また、この命令に従わない場合、その旨が公表される可能性があるほか、行為者が1年以下の懲役または100万円以下の罰金、法人が1億円以下の罰金刑に処される可能性があります(同法4項、178条、184条1項1号)。
(3)損害賠償請求される
個人情報漏洩が発生した場合、損害賠償責任を負う可能性があります。
損害賠償の金額は漏洩した情報の内容や実損害発生の有無によって異なるものの、1件あたり数千円から1万円程度と認定されることがあります。
(4)営業秘密が一旦漏洩してしまうと、「情報」(無体物)という性質上、その損害の回復が困難といえます。
企業が長年、投資し蓄積してきた情報であるため、その価値も高く、その被害は甚大です。特に、競合企業(ライバル企業)に営業秘密が漏えいされると、競争優位性を失うことにもつながります。
5弁護士による営業秘密、情報漏洩対応
(1)就業規則や秘密保持契約書の作成
不正競争防止法で営業秘密として保護されるためには、秘密管理性(秘密として管理されていること)が必要です。そのため、就業規則などにおいて、営業秘密の取扱方法を規定するとともに、従業員との間で秘密保持契約書を作成することが不可欠です。
弁護士は、不正競争防止法に基づく営業秘密として保護されるために就業規則や秘密保持契約書の作成をサポートします。もちろん、営業秘密を効果的に保護するための方法や方策も対応します。
(2)従業員への責任追及
従業員又は退職者が営業秘密を持ち出し不正に利用して企業に損害が発生した場合、企業は、不正競争行為を行った従業員等に対して責任追及をする必要があります。責任追及の方法として、①懲戒処分、②民事上の損害賠償請求、③刑事告訴などがあります。
弁護士は、①懲戒処分(懲戒解雇を含む。)の判断や手続のために、必要な助言・アドバイスを行います。懲戒処分は、慎重に判断しなければ、無効と判断されるリスクがあります。特に懲戒解雇は、不適切な行為があったからといって、解雇が有効になるとは限りません。具体的な態様・時期・頻度等を踏まえて、法的観点から慎重に判断する必要があります。
また、②民事上の損害賠償請求は、不正競争行為を行った従業員等に対して、裁判外又は裁判手続において、損害賠償を請求し、損害の回復を図るとともに、営業秘密の利用について差止請求も検討します。
さらに、③刑事責任としては、告訴状を作成し、証拠を添付して、企業の代理人として告訴状の提出・対応を行い、刑事責任を求めることが可能になります。
従業員等による不正競争行為によって、毀損された信用を回復させるため、弁護士が企業の代理人として、不正競争行為を行った従業員等に対して、毅然として責任追及を行います。
(3)コンプライアンス研修
不正行為を行った従業員の動機としては、①バレることはないと思っていた、②悪気がなかった、③ここまで大きな問題になるとは思わなかったなど、自らの責任の重さを自覚していない安易な言動が数多くあります。
そこで、弁護士がコンプライアンス研修を行うことによって、責任の重さを自覚してもらい、具体的な問題点を提示することによって従業員や退職者による不正競争行為を事前に防止できます。コンプライアンス研修は、企業の皆様のニーズや状況をヒアリングしたうえで、より効果的な研修を提案・企画します。
コンプライアンス研修の具体例は次のとおりです。
①情報漏洩のリスク
②営業秘密の重要性
③不正競争行為と民事責任
④不正競争行為と刑事責任
6情報漏洩の対策について弁護士にご相談ください。
弁護士に依頼するメリットは次のとおりです。
(1)不正競争行為の事前予防
弁護士がコンプライアンス研修を担当し、また、就業規則や秘密保持契約書の作成をサポートすることによって、営業秘密の漏洩等の不正競争行為を事前に予防できるというメリットがあります。上司又は同僚から注意されても、効果がない場合でも、外部の弁護士による研修や注意・指導は、法的責任があることを伝えながら、具体例を用いて説明するため、不正競争行為を抑止する観点から有効な方法といえます。
(2)毅然とした対応による再発防止
不正競争行為を社内だけで解決しようとする場合、毅然とした対応をすることが難しい場合があります。また、その対応が甘かったため、同様のトラブルが起きてしまうこともあります。
弁護士に依頼することによって、法的責任(懲戒処分・民事責任・刑事責任)を見据えて毅然とした対応を行うことができるため、効果的な再発防止策をとることができます。
(3)法的手続を活用した解決
弁護士に依頼すれば、民事裁判を利用して、損害賠償や差止めを請求することが可能です。また、刑事責任も、告訴状を作成し、弁護士が告訴手続を代理することによって効果的な責任追及が可能となります。
従業員等に対する責任追及がうまくいかないときでも、法的手続を活用した解決が可能となります。
Last Updated on 9月 24, 2024 by kigyo-kumatalaw
この記事の執筆者:熊田佳弘 私たちを取り巻く環境は日々変化を続けており、様々な法的リスクがあります。トラブルの主な原因となる人と人の関係は多種多様で、どれ一つ同じものはなく、同じ解決はできません。当事務所では、まず、依頼者の皆様を温かくお迎えして、客観的事実や心情をお聞きし、紛争の本質を理解するのが最適な解決につながると考えています。どんなに困難な事件でも必ず解決して明るい未来を築くことができると確信し、依頼者の皆様に最大の利益を獲得して頂くことを目標としています。企業がかかえる問題から、個人に関する問題まで、広く対応しています。早い段階で弁護士に相談することはとても重要なことだと考えています。お気軽にご相談にお越しください。 |