1休職・復職における企業の法的リスクとは
(1)休職とは、病気や怪我などによって一時的に就業できなくなった労働者が、会社の休職制度を利用して一定期間仕事を休むことです。
復職とは、労働者が休職から復帰して業務に戻ることです。ただし、必ずしも求職前と同様の労働条件・同様の業務に戻ることまでは求められていません。
休職及び復職について定めた法令はありませんが、会社の就業規則には休職制度が設けられていることが多く、就業規則に基づいて休職することが可能です。
(2)休職後に安易に復職を認めた結果、症状が悪化して損害賠償が認められるケースがあります。
他方で、復職を認めなかった結果、解雇として訴えられ、損害賠償が認められるケースもあります。
休職・復職は適切に対応していく必要があります。
2精神疾患を持つ従業員の復職対応策
厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」により、職場復帰支援を事業者に提示しています。
(1)第1ステップ:休業開始及び休業中のケアについて
労働者が、主治医による診断書(病気休業診断書)を会社に提出し、休業が始まります。
会社は、人事・労務管理担当部署を通じて、必要な情報提供(事務手続・傷病手当金などの経済的な保障制度・相談先の紹介・職場復帰支援の手順などの説明)を行います。
(2)第2ステップ:主治医による職場復帰可能の判断
休業中の労働者が会社に対して職場復帰の意思を伝えた場合、会社は労働者に対して主治医による「職場復帰可能」という判断が示された診断書の提出を求めます。
診断書には、就業上の配慮に関する主治医の具体的な意見を記入してもらうようにします。
(3)第3ステップ:職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
職場復帰の可否の判断及び、職場復帰支援プランの作成は以下のプロセスで行われます。
ア職場復帰の可否の判断のための情報収集・評価
職場復帰に向けた最終的な決定の前段階として、必要な情報の収集と評価を行った上で職場復帰の可否を適切に判断し、職場復帰支援プランを作成します。
職場復帰支援プランの作成に当たっては、会社の職場と休職中の労働者の間で連携しながら進めます。
情報収集と評価の内容は以下の通りです。
①労働者の職場復帰意思の確認
②産業医などによる、主治医からの意見収集(労働者の同意を得て行う)
③労働者の状態の評価(回復状況、業務遂行能力、就業に関する労働者の考えなど)
④職場環境などの評価(作業環境・支援準備状況など)
⑤その他(本人の行動特性、家族の支援状況、職場復帰の阻害要因など)
イ職場復帰の可否についての判断
上記の情報の評価に基づいて、会社の職場復帰判定委員会が中心となって、職場復帰が可能か否かを判断します。
ウ職場復帰支援プランの作成
職場復帰が可能と判断した場合は、以下の項目に沿った職場復帰支援プランを作成します。
①職場復帰の日付
②会社側による就業上の配慮
③人事労務管理上の対応など
配置転換や異動の必要性、勤務制度変更の可否や必要性
④産業医などによる、医学的見地からみた意見
安全配慮義務に対する助言、職場復帰支援に対する意見
⑤フォローアップ
会社側によるフォローアップの方法、就業制限の見直しを行うタイミング、すべての就業上の配慮や医学的観察が不要となる時期についての見通し
⑥その他
労働者が自ら責任をもって行うべき事項、社外の資源の利用など
(4)第4ステップ:最終的な職場復帰の決定
職場復帰支援プラン作成後、労働者の状態の最終確認を行うとともに産業医の「職場復帰に関する意見書」作成を経て、会社側が最終的な職場復帰の決定を行います。
(5)第5ステップ:職場復帰後のフォローアップ
労働者が職場に復帰した後は、会社側による観察と支援のほか、職場復帰判定委員会などによるフォローアップを実施します。また、必要に応じて、職場復帰支援プランの評価や見直しを行います。
フォローアップで実施する事項として以下のものが挙げられます。
①疾患の再発や新たな問題発生の有無などの確認
②勤務状況及び業務遂行能力の客観的評価
③職場復帰支援プランの実施状況の確認
④治療状況の確認
⑤職場復帰支援プランの評価と見直し
⑥職場環境の改善など
⑦受け入れる職場の管理監督者や同僚への過度の負担を防ぐための配慮
3主治医の診断書について
(1)従業員が復職可能と申し出て、主治医が復職可と診断をしているときは復職を認めることが原則です。専門家である医師が復職可能と判断しているにもかかわらず、会社が復職を認めない場合、従業員から復職拒否であるとして訴えられれば、裁判では不当な復職拒否と判断される危険があります。
(2)しかし、実際に休職者に面談してみると、どうみても復職は難しいと思われるのに、主治医は復職可と判断しているケースもあります。主治医としては、患者が復職したいと希望する場合、職場の状況は業務内容を十分に把握しないまま、患者の希望を容れて診断書を作成するケースもあります。
そのような場合では、主治医に診断書に記載された判断内容の詳細を確認することが必要です。その場合、次の点を確認する必要があります。
①会社の業務内容を十分に理解した上で、復職可と判断しているか。
②配慮すれば復職可能という内容になっている場合、どの程度の配慮が必要か。
③復職させることにより病気が悪化する危険はないか。
3復職可否の判断基準
職場復帰可否について定型的な判断基準を示すことは困難です。
個々のケースに応じて総合的な判断を行わなければなりません。
労働者の業務遂行能力が職場復帰時には未だ病前のレベルまでは完全に改善していないことを考慮した上で、職場の受け入れ制度や態勢と組み合わせながら判断します。
職場復帰の判断基準の例としては次のものがあります。
①労働者が職場復帰に十分な意欲を示し、通勤時間帯に一人で通勤ができること。
②会社が設定している勤務日に勤務時間の就労が継続して可能であること。
③業務に必要な作業(読書、コンピュータ作業、軽度の運動等)をこなすことができること。
④作業等による疲労が翌日までに十分回復していること。
⑤適切な睡眠覚醒リズムが整っていること、昼間の眠気がないこと、業務遂行に必要な注意力・集中力が回復していること。
4休職・復職の繰り返しを防ぐための就業規則と企業の対応策
(1)試し出勤制度等
企業が就業規則により次のような試し出勤制度等を設けている場合、より早い段階で職場復帰の試みを開始することができ、早期の復帰に結びつけることが期待できます。
①模擬出勤:職場復帰前に、通常の勤務時間と同様な時間帯において、短時間又は通常の勤務時間で、デイケア等で模擬的なグループミーティング等を行ったり、図書館などで時間を過ごす。
②通勤訓練:職場復帰前に、労働者の自宅から職場の近くまでの通常の通勤経路で移動を行い、そのまま又は職場付近で一定時間を過ごした後に帰宅する。
③試し出勤:職場復帰前に、職場復帰の判断等を目的として、本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する。
(2)職場復帰後における就業上の配慮等
ア「まずは元の職場への復帰」の原則
職場復帰に関しては元の職場(休職が始まったときの職場)へ復帰させることが多いと思われます。これは、たとえ好ましい職場への配置転換や異動であったとしても、新しい環境への適応にはある程度の時間と心理的負担を要することを考慮したものです。
そのため、職場復帰に関しては、「まずは元の職場への復帰」を原則とし、配置転換や異動が必要と思われる事例においても、まずは元の慣れた職場で、ある程度のペースがつかめるまで業務負担を軽減しながら経過を観察し、その上で配置転換や異動を考慮した方がよい場合が多いと考えられます。
ただし、これはあくまでも原則であり、異動等を誘因として発症したケースでは、現在の新しい職場にうまく適応できなかった結果である可能性が高いため、適応できていた以前の職場に戻すか、又は他の適応可能と思われる職場への異動を積極的に考慮した方がよい場合があります。
イ職場復帰後における就業上の配慮
数ヶ月にわたって休業していた労働者に、いきなり発病前と同じ質と量の仕事を期待することには無理があります。
うつ病などでは、回復過程においても状態に波があります。
このため、休業期間を短縮したり、円滑な職場復帰のためにも、職場復帰後の労働負荷を軽減し、段階的に元に戻す等の配慮が重要な対策となります。
なお、短時間勤務を採用する場合は、適切な生活リズムが整っていることが望ましいという観点から、始業時間を遅らせるのではなく就業時間を早める方が望ましいといえます。
具体的な就業上の配慮の例としては、次のようなものがあります。
①短時間勤務
②軽作業や定型業務への従事
③残業・深夜業務の禁止
④出張制限(顧客との交渉・トラブル処理などの出張、宿泊と伴う出張の制限)
⑤交代勤務制限
⑥業務制限(危険作業、運転業務、高所作業、窓口業務、苦情処理業務等の禁止又は免除)
⑦フレックスタイム制度の制限又は適用(ケースにより使い分ける)
⑧転勤についての配慮
5休職・復職における企業の法的リスクを最小限にするための弁護士の活用方法
休職中の社員から復職の希望があった場合の、復職を認めるか否かの判定、復職のための面談の進め方について、企業からのご相談をお受けしています。
休職者の復職希望に対する対応や判断を誤ると、裁判に発展し、重大な企業リスクにつながることがあります。
復職を認める場合、復職後のフォローも非常に重要です。
また、復職を認める場合はその手順や復職後の労務管理も重要です。
企業のリスクを回避するため、できるだけ早期に弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
Last Updated on 10月 11, 2024 by kigyo-kumatalaw
この記事の執筆者:熊田佳弘 私たちを取り巻く環境は日々変化を続けており、様々な法的リスクがあります。トラブルの主な原因となる人と人の関係は多種多様で、どれ一つ同じものはなく、同じ解決はできません。当事務所では、まず、依頼者の皆様を温かくお迎えして、客観的事実や心情をお聞きし、紛争の本質を理解するのが最適な解決につながると考えています。どんなに困難な事件でも必ず解決して明るい未来を築くことができると確信し、依頼者の皆様に最大の利益を獲得して頂くことを目標としています。企業がかかえる問題から、個人に関する問題まで、広く対応しています。早い段階で弁護士に相談することはとても重要なことだと考えています。お気軽にご相談にお越しください。 |