発達障害を理由に解雇できるのか?従業員が発達障害と診断された場合の対応と注意点について弁護士が解説!

1発達障害とは

(1)発達障害の類型について

発達障害は、生まれつき脳の発達に偏りがあることにより、日常生活や社会生活に影響を及ぼす状態を指します。

主に以下の3つの類型に分類されます。

(a)自閉スペクトラム症(ASD)

対人関係やコミュニケーションの困難さ、興味や行動の偏りが特徴です。

具体的には、他者の感情を読み取ることが苦手であったり、同じ行動を繰り返す傾向があります。症状の程度は個人差が大きく、広範囲の特性が見られます。

(b)注意欠如・多動症(ADHD)

不注意、多動性、衝動性が主な特徴です。集中力を持続させることが難しかったり、じっとしていられない、衝動的な行動を取るといった傾向があります。

このため、学校や職場での適応が難しくなる場合があります。

(c)学習障害(LD)

読む、書く、計算するなど、特定の学習分野に困難を抱える障害です。

知的発達には問題がない場合が多いものの、特定の認知機能に偏りがあるため、学習面での支援が必要です。

これらの障害は、単独で現れることもあれば、複数が重なる場合もあります。早期の理解と適切な支援が、本人の生活の質を向上させる鍵となります。

2発達障害を理由とする解雇は違法となるケースが多い

(1)発達障害は「障害者」に該当する

発達障害者支援法第2条2項において、「発達障害」とは、発達障害がある者で発達障害及び社会的障壁により日常生活または社会生活に制限を受けるものと定義されており、必要に応じて適切な対応が求められます。

(2)解雇の違法性判断の3つのポイント

一般的に解雇の違法性を判断する際の3つのポイントは以下のとおりです。

(a)解雇理由の正当性

客観的に合理的な理由があるかどうかを確認します。

これは主に以下の場合です。

①能力不足・勤務成績不良、業務遂行に重大な問題がある場合

②規律違反・不祥事、就業規則に違反する行為があった場合

③経営上の必要性、経営悪化による整理解雇など

(b)手続きの適正性

適正な手続きを経ているかが重要です。

具体的には以下のような手続が重要です。

①事前の説明解雇理由を従業員に説明したか

②弁明の機会従業員に自己弁明の機会を与えたか

③書面の交付解雇通知書を適切に交付したか

(c)社会通念上の相当性

社会通念に照らして相当かどうかを判断します。

①処分の重さ:過去の事例と比較して妥当かどうか

②再就職の支援:解雇後のサポートが提供されているか

これらのポイントを総合的に判断し、解雇が違法かどうかを判断します。

3障害に関連した裁判例

(1)藍澤證券事件(東京高裁平成22・5・27労働判例1011号20頁)

【事案の概要】

うつ病を発症して障害等級3級と認定されたXが、ハローワークの障害者の求人を出していたY社に採用され、雇用期間を約5ヶ月とする第1契約とこれに続く第2契約を締結した後に雇止めとされた件につき、本件雇止めは不合理であると主張し、雇用の継続を求めた。

【裁判所の判断】

Xの契約更新回数は1回だけであり、Xの勤務態度は、ミスを重ねた上、それを隠そうとしていたというものであって、Yが今後の改善が見込めないと判断したことも不合理とはいえない。

障害者雇用促進法は、事業者の協力(同法5条)と障害を有する労働者の就労上の努力(同法4条)が相まって、障害者雇用に関し社会連帯の理念が実現されることを期待しているのであるから、事業者が労働者の自立した業務遂行ができるよう相応の支援および指導を行った場合は、当該労働者も業務遂行能力の向上に努力する義務を負い、同法は、事業者の協力と障害を有する労働者の就労上の努力が相まって、障害者雇用に関し社会連帯の理念が実現されることを期待しているものであるなどとして、雇止めには合理的な理由があるとした。

※裁判例のポイント

この裁判例では、障害者である従業員Xは、勤務成績不良のため雇い止めされています。判決では、使用者の義務だけではなく、労働者の義務(障害者雇用促進法第4条)にも触れ、事業者が労働者の自立した業務遂行ができるよう相応の支援および指導を行った場合は、障害をもつ当該労働者も業務遂行能力の向上に努力する義務を負うと述べています。

(2)阪神バス(勤務配慮)事件(神戸地裁尼崎支部決定、平成24・4・9労働判例1054号38頁)

【事案の概要】

阪神バス会社の従業員であり身体障害を有するXが、勤務シフトにおいて従前受けていた配慮(午後の比較的遅い時間帯からの乗務を担当する)がされないこととなったことから、Y社に対し、従前受けていた配慮に基づくシフトを担当させること、従前受けていた配慮がなされた内容以外で勤務する義務のない地位にあることの確認を求めた事案。

【裁判所の判断】

障害者に対し、必要な勤務配慮を行わないことは、法の下の平等(憲法14条)の趣旨に反するものとして公序良俗ないし信義則に反する場合がありえる。

勤務配慮を行わないことが公序良俗または信義則に反するか否かについては、①勤務配慮を行う必要性および相当性と、②これを行うことによるY社に対する負担の程度とを総合的に考慮して判断をする。

Xに対する勤務配慮は、その必要性および相当性が認められ、とりわけ必要性については相当強い程度で認められる反面、配慮を行うことによるY社への負担は過度のものとまでは認め2られないことから、これらの事情を総合的に考慮すれば、Xに対する勤務配慮を行わないことが公序良俗ないし信義則に反するとのXの主張が一応認められる。

※裁判例のポイント

企業は、障害者を雇用する際、どこまでの勤務配慮ができるのか、その配慮で十分といえるのかなどを整理しておく必要があります。

(3)第一興商(本訴)事件(東京地裁平成24・12・25労働判例1068号5ページ)

【事案の概要】

視覚障害(右0.1左0.08)(いずれも矯正不能)を有する従業員の休職期間満了による自動退職が認められなかった事案

【裁判所の判断】

休職事由の消滅の主張立証責任は、その消滅を主張する労働者側にあると解するのが相当であるが、当該企業における労働者の配置、異動の実情等といった内部の事情についてまで、労働者が立証を尽くすのは困難であるから、当該労働者において配置される可能性がある業務について労務の提供をすることができるとの立証がなされれば、休職事由が消滅したことについて事実上の推定が働くというべきであり、これに対し、使用者が当該労働者を配置できる現実的可能性がある業務が存在しないことについて反証を挙げない限り、休職事由の消滅が推認されると解するのが相当である。

被告は、従業員1580名、売上高828億円、純利益69億円の大企業であり、たかだか月額26万円程度の給与水準の事務職が被告の内部に存在しないとは考えにくい。パワーポイント等のソフトを用いて企画書を作成できていたこと等を考慮すると、休職期間満了時点においても事務職としての通常の業務を遂行することが可能であったと推認することが相当であって、休職事由の消滅が認められ、自動退職は効力を生じていない。

※裁判例のポイント

この裁判例では、従業員が休職期間満了時に、従前の業務には復職できないが事務職であれば復職できるということで、休職期間満了による自動退職が認められませんでした。大企業で事務職への異動が容易であったことがポイントとなります。

雇い入れ後に障害を有することになった従業員について、その従業員が「職種限定」であれば、労働契約上の労務の提供ができなければ休職後の自動退職は可能ですが、その従業員が、「職種限定ではない」場合は、職種の変更や部署異動、軽減業務などを検討する必要がある場合があります。

(4)カール・ハンセン&サンジャパン事件(東京地裁平成25・10・4労働判例1085号50頁)

【事案の概要】

Y社は、家具・室内装飾品の製造、輸出入および販売を目的とし、主としてデンマーク製の家具の輸入および販売を行っている会社である。

Xは、Y社の従業員であったが、平成22年、ギラン・バレー症候群および無顆粒球症の診断を受けた。

Y社は、Xに対し、就業規則に定める解雇理由である「身体の障害により、業務に耐えられないと認められたとき」またはそれに「準ずるやむを得ない事情があるとき」に該当するものであることを理由に、解雇した。

Xは、本件解雇の有効性を争い、提訴した。

【裁判所の判断】

1Xは、・・・ギラン・バレー症候群及び無顆粒球症に罹患し、・・・平成23年3月頃までは起立不能及び上肢機能全廃・・・などと診断され、徐々に回復していた様子は窺われるものの、いずれも就労不能である旨診断されていた・・・。

以上の事実に加え、Xの業務の内容に照らせば、本件解雇予告当時のXは、制限勤務であってもY社において就労することが不可能であったと認められ、この事実は「身体の障害により、業務に耐えられない」という本件就業規則29条1項2号に当たり、本件解雇予告には、客観的に合理的な理由があるというべきである。

2また、Xは、ギラン・バレー症候群及び無顆粒球症の治療のために入院してから本件解雇予告までの約1年7か月の間、就労することができない状態にあり、その間、Y社のXに対する、3か月分の給与を支払うことで退職して欲しい旨の打診に対し、Xが、失業保険の受給の関係で欠勤期間を平成23年11月以降まで延長して欲しい旨の要望をし、Y社がこれに応えて同年11月以降まで解雇を見合わせていた等の事情が認められる。

そうすると、本件解雇予告につき、社会通念上相当と認められない事情があるとは認められない。

3解雇は有効と判断した。

※裁判例のポイント

非常に難しい問題です。ギランバレー症候群にり患した従業員の就業規則の「業務に耐えられない」ことを理由の解雇が有効とされた事案ですが、現実に、「業務に耐えられない」かどうかは、事案により個別に判断することになります。実際には、慎重な判断が求められます。

(5)富士ゼロックス事件(東京地判平26・3・14)

【事案の概要】

障害者雇用促進法で定める障害者として中途採用された従業員が、勤務成績不良や多数の業務命令違反を理由に1年で解雇されたところ、従業員が地位確認等を求めた。

【裁判所の判断】

会社は、従業員の居眠りや日報の提出遅れ、期待を大きく下回る評価など服務・能力上の問題に対し注意や研修を繰り返したほか、本人希望も考慮し職場環境を替えたが改まらなかったことを考慮し、解雇は社会通念上相当とした。

※裁判例のポイント

企業は、「慣れている単純作業はできるが、トラブル発生に対応できない」など、雇用する障害者の障害の特性をよく理解し、従業員が安全に労務を提供できるように安全を確保する必要があります。

4職場で起こりやすいトラブル

発達障害の従業員がいる職場では、特性に起因するさまざまなトラブルが発生する可能性があります。以下は、よく見られるトラブルです。

(1)コミュニケーションのすれ違い

(トラブル例)

①業務上の指示が明確でない場合は正しく理解できない。

②空気を読むのが苦手で、誤解を招く発言をしてしまう。

③報告・連絡・相談が不十分になることがある。

(対策)

①明確で具体的な指示を出す(例:「〇〇を□□時までに提出してください」)

②ルールや手順を文章化する(マニュアル作成)

③定期的なフィードバックを行い、認識のずれを修正する

(2)業務の優先順位がつけられない

(トラブル例)

①一つの業務にこだわりすぎてしまう

②急な予定変更に対応できない

③マルチタスクが苦手

(対策)

①業務の優先順位を明確に指示する(「Aを終わらせたらBをやる」)

②タスク管理ツールやチェックリストを活用する

③変更がある場合は早めに伝え、対応方法を具体的に指示する

(3)対人関係のトラブル

(トラブル例)

①冗談が通じず、相手の意図を誤解する

②必要以上にこだわりを持ち、意見が対立することがある

③チームワークがうまく取れない

(対策)

①明文化された職場ルールを作成する

②できるだけ客観的な基準で業務を進める(成果ベースの評価)

③対話の機会を増やし、トラブルを未然に防ぐ

(4)感覚過敏や環境適応の難しさ

(トラブル例)

①職場の騒音や光に敏感で、集中できない

②特定の環境でパフォーマンスが極端に変わる

③服装や食べ物など、こだわりが強く、職場のルールと合わないことがある

(対策)

①席の配置を工夫する(静かな場所を確保)

②イヤホンやサングラスの使用を許可する

③個別の配慮について、本人と相談しながら調整する

5会社が行うべき対策

(1)合理的配慮の提供

企業は、障害者と障害者でない人との待遇差の解消や障害者が能力を有効に発揮するための合理的な配慮を提供する義務があります(障害者雇用促進法36条の3)。

「合理的配慮」とは、障害の特性に配慮した施設の整備や、障害者障害者の援助を行う者の配置等を言います。また、障害のある従業員について、通院の必要や体調に配慮することや、車いすでの作業が可能になるように机の高さを調節するなどの措置をとることなども合理的配慮の例です。

以下、発達障害(ASD=自閉スペクトラム症、ADHD=注意欠如・多動症、LD=学習障害)の特性に応じた合理的配慮の具体例を説明します。

【具体的な合理的配慮の例】

①業務内容・指示の明確化

②作業手順を視覚的に示したマニュアルの作成

③口頭指示だけでなく、メールやメモで補足

④期限や優先度を明確に伝える

⑤環境調整

⑥集中しやすい席の配置(静かな場所、個室など)

⑦イヤホンやノイズキャンセリング機能の許可

⑧タスク管理のサポート

⑨業務を細分化し、スモールステップでの進行を促す

⑩進捗確認をこまめに行う

⑪勤務形態の柔軟化

⑫短時間勤務、フレックスタイム、リモートワークの導入

⑬休憩時間の調整

⑭適切なフィードバックと支援

⑮否定的な指摘ではなく、具体的な改善策を示す

⑯メンター制度や定期的な面談の実施

6発達障害の社員を解雇したい場合の注意点

発達障害のある社員を解雇する場合、慎重な対応が必要です。

解雇無効と判断されると、損害賠償請求などにつながるリスクがあります。

解雇の正当性を確保するために以下の点を確認する必要があります。

(1)合理的配慮をしたか

具体的な支援策を提供し、業務改善の機会を与えたか

(2)解雇理由が正当か

障害ではなく、業務遂行能力に基づく客観的な理由があるか

(3)配置転換や業務変更を検討したか

他の部署での適応可能性を検討したか

(4)指導・注意を十分に行ったか

文書で記録し、改善の機会を提供したか

(5)医師や専門家の意見を聞いたか

発達障害の特性に基づく問題かどうかを判断したか

(6)就業規則に基づいているか

解雇要件を満たし、手続きを適切に行ったか

発達障害の社員を解雇する場合は、訴訟リスクが高いため、慎重に対応が必要です。

7発達障害の従業員の解雇を弁護士に相談するメリット

発達障害の従業員の解雇を検討する際、弁護士に相談することで以下のようなメリットがあります。

(1)法的リスクの回避が可能となります。

発達障害は障害者雇用促進法や合理的配慮の提供義務と密接に関係しており、安易な解雇は不当解雇と判断される可能性があります。弁護士に相談することで、解雇が適法かどうかを精査し、リスクを最小限に抑えることができます。

(2)適切な対応手順の確立が可能になります。

弁護士は、指導・配置転換・就業環境の調整など、解雇に至る前に取るべき手順を助言し、後のトラブルを防ぐサポートを行います。

(3)万一の訴訟や労働審判への対応準備が可能になります。

解雇後に争いが生じた場合、弁護士が適切な対応を指導し、企業の立場を守るための証拠収集や主張の整理を行います。

このように、弁護士への相談は、企業が適法かつ円滑に対応するために不可欠なプロセスとなります。

Last Updated on 3月 7, 2025 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

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