技能実習生や特定技能外国人解雇のルールや注意点を弁護士が解説

1技能実習生、特定技能外国人とは?

技能実習生と特定技能外国人は、どちらも日本で就労する外国人労働者ですが、その目的や条件においていくつかの重要な違いがあります。以下にその違いをまとめます。

(1)目的

(a)技能実習生

技能実習制度は、外国人が日本で一定期間、特定の技能を学び、その知識や技術を母国に持ち帰ることを目的としています。基本的には、外国人労働者の技能向上を目的としており、労働力不足の補填というよりは技術移転を中心にした制度です。

(b)特定技能外国人

特定技能制度は、日本の労働力不足を補うことを主な目的とした制度です。特定の業種において、技能や知識を持った外国人を受け入れ、労働市場で長期的に働いてもらうことを目的としています。従って、特定技能外国人は技術や経験を活かして日本で働き続けることが前提となります。

(2)ビザの種類と期間

(a)技能実習生

技能実習生は、「技能実習ビザ」を取得します。ビザの期間は最長で5年となっており、実習生はその期間中に技能を学び、修得することが求められます。実習生は主に実習先の企業で研修を受けながら働きます。

(b)特定技能外国人

特定技能外国人は、「特定技能ビザ」を取得します。特定技能1号の場合、最長で5年間働くことができ、2号に昇格すると、更新により期限なく働くことも可能です。特定技能外国人は、一定の技能試験をパスするなどの要件を満たす必要があり、特定の業種で直接的に労働力として働くことを目的としています。

(3)受け入れ分野

(a)技能実習生

技能実習生は、製造業や農業、建設業など、比較的技術を要する分野において、技術や知識を学ぶために受け入れられます。受け入れ先は特定の分野に限られ、基本的にその技能の習得が目的です。

(b)特定技能外国人

特定技能外国人は、介護、建設、製造業、農業、宿泊業、運輸業など、14の分野で受け入れが行われており、技能実習生よりも広範な業種で働くことができます。

(4)意義の違い

技能実習生は技術や知識を学びに来ることを目的とした制度で、特定技能外国人は労働力として日本で働くことを目的とした制度です。これらの違いにより、ビザの条件、就業可能期間、滞在の自由度など、さまざまな点で異なります。

※なお、これまで30年近く続いてきた「技能実習制度」に代替される制度として、「育成就労制度」を盛り込んだ改正法が2024年6月に可決・成立しました。従来の「技能実習制度」の目的は、日本でスキル習得をすることにより国際貢献を行うことでした。「育成就労制度」とは、外国人が日本で働くための制度の一つです。「育成就労制度」の目的は、日本の人手不足業界における人材育成・人材確保です。新制度は2027年頃の施行が見込まれています。

「育成就労制度」の施行前まで技能実習生の受け入れが可能であるため、以下では、技能実習生について説明します。

2技能実習生の解雇

(1)技能実習生の解雇について

技能実習生の解雇も日本人と同様に判断されることが原則です。

外国人であることを理由とする解雇は、労働基準法3条の「労働者の国籍」による差別にあたり禁止されています。

(2)解雇が問題となる場合

技能実習生の解雇が問題となる場合として、一般的には次の場合が考えられます。

①重大な規律違反や素行不良

②実習先のルールを繰り返し違反した場合

③無断欠勤や遅刻・早退を繰り返す場合

④職場での暴力行為やハラスメントがあった場合

⑤指導を受けても業務遂行が困難で、改善の見込みがない場合

⑥実習の目的を果たせないほどの技能不足がある場合

⑦健康上の理由

⑧会社の経営悪化により人員削減が必要な場合

(3)技能実習生を解雇できる場合について

技能実習生のは、在留期間があるため、ほとんどの場合、有期雇用契約とされています。

有期雇用契約の労働者の解雇は、無期雇用の労働者の解雇(労働契約法16条)よりも要件が厳しく、「やむを得ない事由がある場合」(労働契約法17条)であることが必要となります。

そのため、通常の能力不足等の事情は、「やむを得ない事由」にあたらない可能性があります。

「やむを得ない事由」として解雇が認められるのは、次の場合が考えられます。

①技能実習生が業務上の犯罪行為に及んだ場合

②私傷病で長期に渡り休業し、就業できる目処が立たない場合

③経歴を詐称して雇用された場合

④長期間行方不明となった場合

⑤整理解雇(但し、整理解雇の要件を満たすことが必要です)

(4)技能実習生を解雇できない場合について

(a)会社の都合により安易に解雇することは認められません。

例えば、実習計画の変更や受入企業の都合による解雇は、適切な理由と手続きがなければ無効と判断される可能性があります。

(b)指導・改善の機会を与えずに解雇する場合

技能実習生が業務に慣れない、指示通り動けないといった理由で解雇することは不適切です。

十分な指導・教育を行い、改善の機会を与えたうえでなければ、解雇の正当性が認められません。

(c)病気やケガを理由とした解雇

実習中に発生した労災事故や業務による健康被害を理由に解雇することは違法です(労働基準法19条)。企業は適切な治療や休養の機会を提供しなければなりません。

(d)妊娠・出産・育児を理由とした解雇

技能実習生が妊娠・出産した場合、これを理由に解雇することは男女雇用機会均等法9条3号違反となります。

(5)技能実習生の解雇手続について

(a)解雇予告または解雇予告手当の支払が必要

解雇は30日前に予告するか、予告なく解雇する場合は30日分の解雇予告手当の支払が必要です(労働基準法20条1項)。

(b)地方入国管理局への報告が必要

技能実習の継続が不可能になった場合は、速やかに地方入局管理局に報告することが義務づけられています。

(c)解雇理由証明書を発行する

請求された場合には遅滞なく発行する義務があります(労働基準法22条)。

技能実習生は、原則として、実習先の変更は認められていません。

実習先の変更が認められない場合、技能実習生は在留資格を失い、帰国することになります。

3特定技能外国人の解雇

(1)特定技能外国人を解雇できる場合

特定技能外国人を解雇できる場合について、以下のポイントに絞って説明します。

(a)解雇の理由

特定技能外国人は、ほとんどの場合有期雇用契約の労働者であり、解雇には「「やむを得ない事由がある場合」(労働契約法17条)であることが必要となります。

具体的な場合は、技能実習生の場合とほぼ同様に考えられます。

(b)解雇後の手続

特定技能外国人は、就業先を変更が許可されれば、就業先を変更することができます。

すなわち、出入国在留管理局へ在留資格変更許可申請を行い、許可が得られれば、新しい在留カードと指定書が発行され、別の会社で働くことができます。

4技能実習生と特定技能外国人の解雇の違い

技能実習生と特定技能外国人の解雇においては、目的や法的枠組みの違いからいくつかの重要な違いがあります。以下にその違いを説明します。

(1)解雇の目的と背景

(a)技能実習生の解雇

技能実習生は、技能を学ぶことを主な目的として日本に滞在しているため、実習生の解雇はその実習内容や実習先の事業の都合によることが多いです。

解雇理由が不当である場合や労働条件が違法である場合、労働基準法に基づき異議申し立てが可能です。技能実習生は、技術や知識を習得することが重要視されており、解雇は慎重に行うべきです。また、実習先の変更や転職は基本的に難しく、解雇後の対応が難しくなることが多いです。

(b)特定技能外国人の解雇

特定技能外国人は、労働力として特定の業種に従事することを目的として日本に滞在しています。そのため、解雇理由は業務上の事情や業績不振など、一般的な労働者と同様の基準が適用されます。

特定技能外国人は、技能実習生とは異なり、一定の技能試験を通じて雇用されているため、解雇理由が正当であれば、解雇されることもあります。また、特定技能外国人は、ビザの条件に基づいて他の企業に転職できる可能性があるため、解雇後に転職活動を行うことが可能です。

(2)解雇の手続きと条件

(a)技能実習生の解雇手続き

技能実習生の解雇には、監督機関である「技能実習機構」の関与が求められることがあります。実習生は、解雇後のビザの取り扱いや母国への帰国手続きを慎重に行う必要があります。解雇に際しては、法的に適切な手続きを踏む必要があります。

手続を満たしていない場合、解雇理由が不当であるとして労働基準法や労働契約法に基づく訴訟が提起される可能性もあります。

(b)特定技能外国人の解雇手続き

特定技能外国人の解雇は、通常の労働者と同じく、労働基準法や労働契約法に基づき行われます。解雇理由が正当であり、手続きが適正であれば、企業は特定技能外国人を解雇することができます。解雇後のビザの問題や転職支援の有無についても、企業は一定の責任を負うことがありますが、特定技能外国人は転職活動を行うことが可能なため、解雇後に他の企業で働くチャンスもあります。

(3)ビザと在留資格への影響

(a)技能実習生の解雇とビザ

技能実習生が解雇されると、実習生のビザは通常失効し、母国に帰国しなければなりません。日本における就労を目的としたビザを持っているため、解雇後に別の職場に移ることは基本的に許可されていません。したがって、解雇後のビザの取り扱いには厳しい制限があります。

(b)特定技能外国人の解雇とビザ

特定技能外国人は、解雇後に転職することが可能です。特定技能ビザを保持しているため、他の企業での就労を希望する場合、転職先が決まればビザの変更を行い、新たな雇用契約を結ぶことができます。転職先が決まらない場合には、再就職活動をする期間が与えられることがありますが、最終的に転職先が見つからなければ、ビザの更新ができない可能性もあります。

5不当解雇とされた場合の企業のリスク

技能実習生や特定技能外国人を解雇し、不当解雇とされた場合、企業には以下のようなリスクが生じる可能性があります。これらのリスクは法的な責任、企業の評判に関わるものです。

(1)法的リスク(訴訟や異議申し立て)

不当解雇とされた場合、解雇された実習生や外国人労働者は労働審判や訴訟を提起する可能性があります。労働契約法や労働基準法では、解雇の正当性が求められ、解雇理由が不当であると認定されると、企業は不当解雇に対する賠償責任を負うことになります。

(2)ビザや在留資格の問題

特に技能実習生や特定技能外国人は、雇用契約に基づくビザ(技能実習ビザや特定技能ビザ)を保持しています。

ビザが取り消されるか、変更が求められる可能性があります。これにより、労働者は帰国を余儀なくされることもあります。

特定技能外国人の場合、転職活動を行うことが可能ですが、解雇が不当であった場合、転職先を見つける過程で法的な障害が生じることがあります。企業の責任として、適切な転職支援を行う必要があります。

(3)企業の評判や信頼の低下

不当解雇が報じられると、企業の社会的評価やブランドイメージに大きな影響を与えることがあります。特に外国人労働者の不当解雇は、労働環境や人権意識に関する問題として社会的に注目されやすいです。このため、メディアやSNSでの反響を受けて、企業イメージが大きく損なわれるリスクがあります。

(4)労働市場での信頼低下

労働者が不当解雇を訴えると、企業の労働条件や人事管理の信頼性が疑問視され、他の求職者や外国人労働者から避けられる可能性があります。

これにより、今後の採用活動や外国人労働者の受け入れに支障が生じる可能性があります。

(5)行政からの監査や指導

特に技能実習生に関しては、監督機関である「技能実習機構」や「出入国在留管理庁」からの調査が入ることがあります。

解雇が不当であると判断されると、企業には罰則や改善命令が下される可能性があります。場合によっては、実習生受け入れの停止や指導が行われることもあります。

6弁護士に相談するメリット

技能実習生や特定技能外国人の解雇に関して弁護士に相談することには、いくつかの重要なメリットがあります。

(1)法的リスクの回避

弁護士に相談することで、企業は解雇手続きが法的に適正であるかどうかを確認することができます。

不当解雇が発生した場合、企業は賠償金や復職命令などの法的責任を負うことになります。弁護士は、労働契約法や労働基準法、外国人労働者に関連する法規制(技能実習法、特定技能法など)を踏まえて、解雇理由が適切であるかを判断し、解雇手続きが合法的に行われているかを確認することができます。

これにより、企業が法的リスクを回避することが可能となります。

(2)適切な解雇理由の確認と助言

弁護士は、解雇理由が正当であるかどうかを判断し、必要に応じてその理由を整理するサポートを提供します。

特に技能実習生や特定技能外国人の場合、解雇理由が不明確であったり、労働契約に基づかない解雇が行われることが問題となります。弁護士は、解雇理由が労働法に基づくものであり、証拠が整っていることを確認することで、企業が不当解雇を避けるための手続きを適切に進められるよう支援します。

(3)解雇手続きの適正化

解雇に際しては、法的手続きが厳格に定められています。解雇予告や解雇理由の明示、解雇後の支援など、手続きを正しく行わないと、後に法的問題が発生するリスクがあります。

弁護士は、解雇の際に必要な書類や通知方法、解雇予告期間を遵守する方法についてアドバイスを提供し、手続きをスムーズかつ法的に正当な形で進めることができます。

(4)紛争解決のサポート

万一、労働者が不当解雇を訴えることが予想される場合、弁護士に相談することで、早期に紛争を解決する方法についてのアドバイスを受けることができます。

訴訟や労働審判に発展した場合、弁護士は企業を代表して法的対応を行い、最終的な解決に向けた手続きを進めます。これにより、企業の負担を軽減し、迅速に問題を解決できる可能性が高まります。

(5)労働環境の改善とリスク管理

弁護士は、解雇問題を契機に、企業の労働環境や外国人労働者の受け入れ体制の改善に関する提案を行うこともできます。適切な労働条件や就業契約を整備することで、将来のトラブルを未然に防ぐことができます。

また、企業が外国人労働者に対してどのようなサポートを行うべきかについても指導し、リスクを最小限に抑えるための対策を講じることができます。

企業が円滑に問題を解決し、法的リスクを避けるためには、早期に弁護士に相談することが非常に重要です。

Last Updated on 3月 28, 2025 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

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