建設業法等改正とは?事業者の対応すべき内容や変更のポイントについて弁護士が解説!

はじめに

建設業法等改正は、建設業の担い手を確保するため、労働者の処遇改善・働き方改革・生産性向上を促すことを目的としています。

※ 法令名を次のように記載しています。

① 改正建設業法…「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」の完全施行による改正後の「建設業法」

② 改正公共工事適正化促進法…「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」の完全施行による改正後の「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」

【2025年施行予定】建設業法等改正とは

2024年6月7日に、「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」が国会で可決・成立しました(令和6年法律第49号)。

改正法は、建設業の担い手を確保するため、労働者の処遇改善等を目的とする規制変更を行うものです。

建設業法等が改正される背景・必要性

建設業者は、地域のインフラや住居・オフィス・商業施設の建設を担う重要な存在です。

しかしながら、建設業は他の産業よりも賃金が低く、就労時間も長いため、担い手の確保が困難であるという課題があります。

そこで、建設業が「地域の守り手」としての役割を将来にわたって果たしていけるように、建設業法等の改正によって労働者の処遇改善・働き方改革・生産性向上を目指す規制変更が行われることが決まりました。

建設業法等改正の概要

 今回の建設業法等改正による変更点は、大きく分けて以下の3点に整理されます。

 ①  労働者の処遇改善(賃金引上げ)

 ②  資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止

 ③  働き方改革と生産性向上(労働時間の適正化・現場管理の効率化)

公布日・施行日

公布日 2024年6月14日

施行日 公布の日から起算して1年6カ月を超えない範囲内において政令で定める日(ただし、一部は前倒しで施行)

改正ポイント1労働者の処遇改善(賃金引上げ)

今回の建設業法等改正による1つ目の変更点は、労働者の処遇改善(賃金引上げ)です。

具体的には、以下の改正が定められています。

(a) 労働者の処遇確保の努力義務化

(b) 標準労務費の勧告

(c) 著しく低い材料費等の見積り・見積り依頼を禁止

(d) 受注者における原価割れ契約の禁止

(a) 労働者の処遇確保の努力義務化

建設業者は、その労働者が有する知識・技能その他の能力についての公正な評価に基づいて適正な賃金を支払うこと、その他の労働者の適切な処遇を確保するための措置を、効果的に実施するよう努めなければならないものとされました(改正建設業法25条の27第2項)。

労働者の処遇確保措置はあくまでも努力義務であり、怠っても具体的なペナルティはありませんが、建設業者においては上記改正の趣旨を尊重し、労働者の処遇改善に努めることが期待されます。

(b) 標準労務費の勧告

国土交通省には、建設業やその周辺分野における有識者を委員とする「中央建設業審議会」が設置されています。

中央建設業審議会の所掌事務は、公共工事に関する経営事項審査の項目・基準や適正化指針について意見を述べること、建設工事標準請負契約約款の決定および当事者に対する採用の勧告、ならびに建設工事の工期に関する基準の作成および実施の勧告などです。

今回の建設業法等改正により、中央建設業審議会には新たに、建設工事の労務費に関する基準を作成し、その実施を勧告する権限が付与されました(改正建設業法34条2項)。

労務費に関する基準においては、建設業の工事に関する標準的かつ適正な労務費(=標準労務費)が示される見込みです。

参考:国土交通省ウェブサイト「中央建設業審議会」

(c) 著しく低い材料費等の見積り・見積り依頼を禁止

建設工事を請け負う建設業者は、材料費等や施工のために必要な経費の内訳などを記載した「材料費等記載見積書」を作成する努力義務を負っています。

今回の建設業法等改正により、材料費等記載見積書に記載する材料費等の額は、当該建設工事を施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回るものであってはならないものとされました(改正建設業法20条2項)。

また、建設工事の注文者の側においても、材料費等記載見積書の交付を受けた後、その材料費等の額について、当該建設工事を施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回ることとなるような変更を求めてはならないものとされました(同条6項)。

この規制に違反して、著しく低い材料費等の見積りを依頼した発注者は、国土交通大臣または都道府県知事による勧告および公表の対象となります(同条7項・8項)。

材料費等を請負代金へ十分に転嫁できないと、労務費の圧迫につながるため、それを防止することを意図した改正です。

(d) 受注者における原価割れ契約の禁止

建設工事を請け負う建設業者は、自らが保有する低廉な資材を用いることができるなど正当な理由がある場合を除き、建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額の請負契約を締結してはならないものとされました(改正建設業法19条の3)。

原価割れ契約も労務費の圧迫につながるため、それを防止することを意図した改正です。

改正ポイント2:資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止

今回の建設業法等改正による2つ目の変更点は、資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止です。

具体的には、以下の改正が定められています。

(a) 受注者の注文者に対するリスク情報の提供義務化

(b) 請負代金の変更方法を契約書記載事項として明確化

(c) 資材高騰時の変更協議へ誠実に応じる努力義務・義務の新設

(a) 受注者の注文者に対するリスク情報の提供義務化

建設工事を請け負う建設業者は、主要な資材の供給の著しい減少や資材の価格の高騰など、工期または請負代金の額に影響を及ぼす事象が発生するおそれがあると認めるときは、請負契約を締結するまでに、注文者に対して、その旨と状況把握に必要な情報を通知しなければならないものとされました(改正建設業法20条の2第2項)。

受注者の注文者に対するリスク情報の提供により、請負契約締結前の段階で、資材の供給不足や高騰への対策に関して適切な協議を促す効果が期待されます。

(b) 請負代金の変更方法を契約書記載事項として明確化

建設業法19条1項では、工事内容や請負代金の額など、建設工事の請負契約に記載すべき事項が定められています。

今回の建設業法等改正により、建設工事の請負契約において、請負代金を変更する際の金額の算定方法を定めることが義務化されました(改正建設業法19条1項8号)。

同改正は、資材の価格の高騰などが発生した場合に、その事情をスムーズに請負代金へ反映できるようにすることを意図したものです。

(c) 資材高騰時の変更協議へ誠実に応じる努力義務・義務の新設

前述の工期または請負代金の額に影響を及ぼす事象に関するリスク情報を注文者に通知した建設業者は、実際に当該事象が発生した場合、注文者に対して工期・工事内容・請負代金の額の変更についての協議を申し出ることができるものとされました(改正建設業法20条の2第3項)。

協議の申出を受けた注文者は、当該申出が根拠を欠く場合その他正当な理由がある場合を除き、誠実に協議に応ずるよう努めなければなりません(同条第4項)。

また公共工事に関しては、工期または請負代金の額に影響を及ぼす事象の発生により、受注者が請負契約の内容の変更について協議を申し出たときは、各省各庁の長等は誠実に当該協議に応じることが義務付けられました(改正公共工事適正化促進法13条2項)。

改正ポイント3:働き方改革と生産性向上(労働時間の適正化・現場管理の効率化)

今回の建設業法等改正による3つ目の変更点は、働き方改革と生産性向上(労働時間の適正化・現場管理の効率化)です。

具体的には、以下の改正が定められています。

(a) 受注者における著しく短い工期による契約締結の禁止

(b) 現場技術者の専任義務の合理化

(c) 公共工事発注者に対する施工体制台帳の提出義務を合理化

(d) 効率的な現場管理の努力義務化・国による現場管理の指針作成

(a) 受注者における著しく短い工期による契約締結の禁止

従来から、建設工事の注文者は、施工に通常必要と認められる期間に比して、著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならないものとされています(改正建設業法19条の5第1項)。

今回の建設業法等改正により、建設工事を請け負う建設業者の側においても、施工に通常必要と認められる期間に比して、著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならないものとされました(同条2項)。

注文者だけでなく、請負人の側からの著しく短い工期による請負契約の締結(いわゆる工期ダンピング)も禁止することにより、現場の労働者を酷使せずに済む適切な工期の設定を促す効果が期待されます。

(b) 現場技術者の専任義務の合理化

公共性のある施設・工作物や、多数の者が利用する施設・工作物に関する重要な建設工事については、原則として専任の主任技術者および監理技術者を置くことが義務付けられています。

ただし、専任者の設置は建設業者にとって大きなコストを伴います。

今回の建設業法等改正では、現場管理の効率化を目的として、ICTの活用などを要件に専任者の設置義務が緩和されました(改正建設業法26条3項・26条の5)。

(c) 公共工事発注者に対する施工体制台帳の提出義務を合理化

公共工事の受注者には、施工体制台帳を作成した上で、原則としてその写しを発注者に提出することが義務付けられています(改正公共工事適正化促進法15条1項・2項、改正建設業法24条の8)。

今回の建設業法等改正により、発注者が情報通信技術を利用する方法によって工事現場の施工体制を確認できる措置を講じている場合には、施工体制台帳の提出義務を免除するものとされました(改正公共工事適正化促進法15条2項)。

同改正も、ICTを活用した現場管理の効率化を目指すものです。

(d) 効率的な現場管理の努力義務化・国による現場管理の指針作成

特定建設業者(一定規模以上の建設工事を下請けに出す建設業者)は、建設工事の適正な施工を確保するために必要な情報通信技術の活用に関し、必要な措置を講ずるよう努めなければならないものとされました(改正建設業法25条の28第1項)。

また、発注者から直接建設工事を請け負った特定建設業者(=元請事業者)は、当該建設工事の下請負人が上記の情報通信技術の活用に関する措置を講ずることができるように、下請負人の指導に努めるものとされました(同条2項)。

「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律案」概要

情報通信技術の活用に関する措置については、国土交通大臣がその適切かつ有効な実施を図るための指針を定め、公表するものとされています(同条3項)。

これら一連の改正も、ICTを活用した現場管理の効率化の促進を目的としています。

事業者の対応のポイント

具体的には、多くの建設業者において以下のような対応が必要になると考えられます。

対応のポイントの例

① 標準労務費の確認および見積り等への反映

② 低すぎる金額の見積りを出す(依頼する)慣例がある場合は、その是正

③ 資材の供給不足や高騰への対策に関するリスク情報の提供フローの構築

④ 請負契約書のひな形において、請負代金を変更する際の金額の算定方法の定めがない場合は、その追加

著しく短い工期での施工を受注する慣例がある場合は、その是正

など

また、特に請負代金の見積り等に関与する労働者に対しては、今回の建設業法等改正による変更点につき、社内研修等を通じて周知させる必要があります。

 法務担当者が窓口となって、労働者からの質問を受け付けることも周知の観点から効果的です。

法改正にあわせて弁護士にご相談ください。

建設業法の改正に際しては、法的なリスクの把握と対応が重要であり、弁護士への相談が有効です。

例えば、許可制度の見直しや下請取引に関する規制強化、技術者配置の要件変更などが行われた場合、これらに適切に対応しなければ、許可の取消しや行政処分、損害賠償といった法的リスクが生じ得ます。

また、新制度に沿った契約書や社内規程の整備、取引先との契約関係の見直しが必要となる場合もあります。

弁護士は、改正内容の正確な解釈と、それに基づく具体的な対応策を提供できる専門家であり、企業の法的安全性と事業継続性を確保する上で重要な役割を果たします。

手続に精通した弁護士に相談することで、実務に即した助言を得ることができます。改正の影響を最小限に抑え、法令遵守体制を整備するためにも、弁護士への相談は不可欠です。

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Last Updated on 7月 16, 2025 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

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