カスハラ対策が企業の義務に!法改正前に知っておきたい対策とリスクを弁護士が解説(令和7年労働施策総合推進法改正)

はじめに:増え続ける「カスハラ」に関するご相談

(1) 法律の成立

カスタマーハラスメント(カスハラ)は、昨今、大きな社会問題となっています。

2025年6月4日カスハラ対策を雇用主に義務付ける法律が国会にて可決・成立しました。

この法律は、労働施策総合推進法を改正し、カスハラ対策を事業主の「雇用管理上の措置義務」とすることを主な内容とするものです。

労働者が1人でもいれば、事業主に該当すると考えられます。この義務に違反した事業主は、報告徴求命令、助言、指導、勧告または公表の対象となります。

事業主は、施行日(早ければ2026年10月頃)までに対応必須といえます。

(2) カスハラとは?

カスハラは、カスハラ対策法において以下のように定義されています(改正後の法33条)。

職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの(顧客等言動)により当該労働者の就業環境が害されること

典型的には、まったく欠陥がない商品を新しい商品に交換するよう労働者に要求する、労働者に物を投げつける、唾を吐く、労働者に謝罪の手段として土下座をするよう強要する、労働者に対して必要以上に長時間にわたって厳しい叱責を繰り返すなどの行為がカスハラに該当すると考えられます。

クリニックでは診察待ち時間に関する過剰なクレームや、ECサイトでは返品・交換に関する理不尽な要求など、業種を問わず多様なカスハラが報告されています。

  

カスハラ対策の「義務化」とは?~法改正の動きと背景~

顧客等によるカスハラ行為は、その態様により、暴行、傷害、脅迫、強要、名誉毀損、侮辱、業務妨害、不退去などについては、刑法や軽犯罪法等で規制することが可能です。

他方で、刑罰法規に触れない程度の迷惑な言動や過度な要求に対する法的な規制や、横断的にカスハラの問題に焦点を当てた法的な規制はありません。

従来、カスハラへの対応は企業の自主的な取り組みに委ねられてきましたが、従業員保護の観点から、より強固な法的枠組みが必要とされるようになりました。2022年には厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公表し、企業向けガイドラインを示しました。

2024年10月4日に制定された「東京都・カスタマー・ハラスメント防止条例」(以下「東京都カスハラ防止条例」といいます)以外に、防止策を義務付ける直接的な規定もないのが現状です。

こうした状況を踏まえ、「カスハラ対策法」が成立しました。

カスハラ対策法は、既存の労働施策総合推進法を改正して、カスハラ対策を事業主の「雇用管理上の措置義務」とすることを主な内容とし、ほかに労働者・顧客等の努力義務、国が定めるべき指針などについて規定しています。

【義務化で必須に】企業に求められる具体的な対応

(1) カスハラ対策法では、事業主の「雇用管理上の措置義務」(33条1項)が定められました。

 ① 労働者がカスハラの相談を行ったことやカスハラの相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(33条2項)

 ② 他の事業主から必要な協力を求められた場合には協力するよう努力する(33条3項)

 ③ 雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をする(34条2項)

 ④ 国の講ずる広報活動、啓発活動その他の措置に協力する(34条2項)

 ⑤ カスハラに対する関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うように努める(34条3項

カスハラ対策を怠ることで生じる企業の損失と法的リスク

(1) カスハラ防止法の整備により、企業には従来以上に明確な法的責任が課されることになります。 

ここでは、企業が負う法的義務とそのリスクについて解説します。

労働契約法第5条に基づく「安全配慮義務」により、企業は従業員が安全に働ける環境を整える責任を負っています。カスハラ防止対策も、この安全配慮義務の一環と考えられます。

企業がカスハラへの対策を怠った結果、従業員が精神的・身体的な被害を受けた場合、損害賠償責任を問われる可能性があります。

① 顧客からの理不尽なクレームや暴言によってスタッフがストレスを抱え、最悪の場合うつ病などを発症するケースも報告されています。従業員の健康被害が発生した場合の企業責任は重大であり、未然に防止することが極めて重要です。

② また、企業には民法第715条に基づく「使用者責任」もあります。従業員がカスハラに耐えかねて顧客に不適切な対応をした場合、その責任は企業にも及ぶことがあります。

(2) カスハラ防止法が施行されると、企業にはより明確な法的義務が課されます。この義務を怠った場合、以下のようなリスクが発生する可能性があります。

① 行政からの是正勧告や企業名公表

 従業員からの損害賠償請求

③ 労働基準監督署からの調査

④ 企業イメージの低下と人材確保の困難化

特に注意すべきは、対策の「形式」だけでなく「実効性」が問われる点です。

マニュアルを作成しただけ、相談窓口を設置しただけでは不十分とされる可能性があります。実際の現場で機能する対策の実施が求められると考えられます。

例えば、クリニックでは診療時間や待ち時間に関するトラブルが多いため、事前の情報提供や説明の充実など、カスハラの原因となりうる要素を減らす取り組みも重要になります。ECサイト運営企業では、返品・交換ポリシーの明確化や、よくある質問の充実などが効果的と言えます。

カスハラ対策における弁護士の役割とサポート内容

(1) カスハラ防止には、従業員への教育・研修が欠かせません。カスハラへの理解を深め、適切な対応方法を身につけることで、被害の拡大を防ぎ、早期解決につなげることができます。

(2) 効果的な研修プログラムとしては、まずカスハラの定義と具体例を提示し、業種ごとの典型的な事例を紹介します。

(3) 次に、カスハラが発生した際の初期対応手順について具体的に学び、冷静に行動できる力を養います。加えて、どのようなタイミングで上司や専門部署にエスカレーションすべきか、その判断基準と方法も共有しておく必要があります。

(4) さらに、対応時に記録を残す際のポイントや、証拠を適切に保全する方法についても教育します。最後に、精神的な負担を軽減するためのセルフケアの方法も取り入れることで、従業員が安心して対応にあたれる環境づくりが可能となります。

(5) 研修は一度だけではなく、定期的(年1〜2回程度)に実施することが重要です。また、新入社員研修にもカスハラ対応を組み込むことで、入社時から意識づけができます。実際のケースを元にしたロールプレイング形式の研修が最も効果的です。

(6) カスハラ発生時に従業員が適切に対応できるよう、具体的な対応手順をまとめたマニュアルの整備も重要です。マニュアルは現場で実際に活用できる内容であることが重要で、理論よりも実践的な内容を重視すべきです。

マニュアルに含めるべき項目として次の内容が考えられます。

① 初期対応の基本姿勢     冷静さを保つ、共感的な姿勢で聴く、約束しないなど

② エスカレーション基準    上司や専門部署に引き継ぐべき状況の明確

③ 記録の取り方    日時、内容、対応者、証拠など記録すべき情報

④ 緊急時の対応    暴力や脅迫があった場合の対応と通報基準

⑤ アフターケア    被害者のケア方法、業務調整の検討など

マニュアルは単に作成するだけでなく、定期的な見直しと更新が重要です。実際に発生したケースを反映させ、常に現場の実態に即した内容に改善していく必要があります。

まずは弁護士までご相談ください。

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Last Updated on 7月 25, 2025 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

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