問題社員を指導することの重要性とは?指導する方法を弁護士がわかりやすく解説

問題社員への指導の重要性

(1) 放置のリスク

 企業が問題社員への適切な指導を怠ると、さまざまなリスクが生じます。

(a) 職場環境の悪化

問題社員の不適切な言動や業務怠慢を放置すると、他の従業員の士気が低下し、生産性の低下を招きます。また、不公平感が広がることで優秀な人材の離職にもつながります。

(b) 労務トラブルの拡大

問題社員が不適切な言動を繰り返した場合、パワハラやセクハラの加害者となる可能性があり、企業は適切な対応を求められます。指導を怠った結果、被害者から損害賠償請求を受けるケースもあります。

(c) 懲戒処分や解雇の正当性が問われるリスク

指導を重ねずにいきなり懲戒処分や解雇を行うと、労働審判や訴訟で「手続きの適正さ」が争点となり、企業側が不利になることがあります。

(d) 企業の信用失墜

問題社員の対応を誤ることで、労基署の調査やSNSでの炎上につながる可能性もあります。

このようなリスクを避けるためには、問題社員には早期に適切な指導を行い、改善の機会を与えることが重要です。指導の記録を残し、必要に応じて専門家の助言を受けながら適切な対応を進める必要があります。

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(2) 適切な指導で得られるメリット

企業が問題社員に対して適切な指導を行うことは、単にリスクを回避するだけでなく、職場全体の健全な運営にも大きく貢献します。

(a) 問題社員の行動改善と戦力化が期待できる

適切な指導により、問題社員が自身の課題を認識し、改善に取り組むことで、本来の能力を発揮できるようになります。結果として、社員の成長を促し、企業の生産性向上につながります。

(b) 職場環境の安定化

問題社員への指導を適切に行うことで、他の従業員の不満やストレスを軽減し、公正な労務管理が行われているという安心感を与えます。これにより、職場の士気が向上し、組織の一体感が強まります。

(c) 法的リスクの軽減

問題社員に対して指導記録を残しながら適切な手続きを踏むことで、将来的に懲戒処分や解雇が必要になった場合でも、正当性を立証しやすくなります。これにより、労働審判や訴訟リスクを低減できます。

(d) 企業の信頼性向上

問題社員への公正かつ適切な指導を行うことで、外部から見た企業のコンプライアンス意識が高まり、取引先からの評価向上にも寄与します。

適切な指導は、単なる懲罰ではなく、社員の成長を促し、企業全体の発展に寄与する重要なプロセスです。

指導の際の注意点

問題社員を指導する際には、適切な対応を行わなければ、逆にハラスメントや不当解雇などのトラブルにつながる可能性があります。そのため、以下の点に注意することが重要です。

(1) 客観的な事実に基づいて指導を行う

感情的に叱責するのではなく、具体的な問題行動や業務上の支障を明確にし、改善すべき点を伝えます。その際、過去の業務評価や他の従業員との公平性も考慮し、主観的な判断にならないよう注意します。

(2) 指導の記録を残す

口頭での指導だけでは、後に「指導を受けていない」と主張される可能性があります。面談記録や改善指示書を作成し、本人に確認・署名を求めることで、適切な手続きを取った証拠を残します。

業務日報を作成させることも有効です。

(3) 指導の場の設定に注意する

指導は冷静かつ建設的な雰囲気で行い、必要に応じて複数の管理職や人事担当者を同席させることで、公正性を確保します。過度な叱責や人格否定につながる発言は、パワハラとみなされる可能性があるため避けるべきです。

(4) 改善の機会を与える

問題行動の是正を求めるだけでなく、具体的な改善策や研修の機会を提示し、社員が成長できるよう支援する姿勢を示します。

二週間に一度は面談をすることが有効です。

(5) 法的リスクを考慮する

指導自体がパワハラと受け取られないよう、必要に応じて弁護士の助言を受けながら慎重に進めることが望ましいと言えます。

効果的な指導のポイント

問題社員の指導を効果的に行うためには、単なる叱責ではなく、建設的なアプローチが必要です。以下のポイントを意識することで、指導の成果を最大化できます。

(1) 具体的な事実をもとに指導する

問題行動について曖昧な指摘をすると、本人が納得せず、改善につながりにくくなります。「最近態度が悪い」ではなく、「会議で〇〇という発言をし、他の社員が困惑していた」といった具体例を挙げ、問題の影響を明確に伝える必要があります。

(2) 冷静かつ論理的なコミュニケーションを心掛ける

感情的に叱責すると、相手が防御的になり、指導の意図が伝わりにくくなります。「あなたのためを思っている」といった主観的な表現よりも、「このままでは業務に支障が出るため、改善が必要」と客観的に伝える必要があります。

「今日○○していましたが、そのやり方は正しくないです。その理由は○○で、業務に支障がでます。今後は○○してください。」などがあります。

(3) 改善の具体策を提示する

ただ問題を指摘するだけではなく、「報告は期限内に提出する」「業務連絡は簡潔にまとめる」など、具体的な改善行動を明示し、実行しやすい環境を整えます。

(4) フィードバックを継続的に行う

一度の指導で解決しない場合が多いため、定期的なフォローアップを行い、進捗を確認します。改善が見られた場合は、ポジティブなフィードバックを与え、動機付けを強化します。

(5) 必ず指導の記録を残す

指導内容や本人の反応を記録し、必要に応じて人事部と共有することで、トラブル防止にもつながります。

事例紹介

問題社員に関する相談事例の代表例を5つ挙げます。

(1) 勤務態度の悪い社員への対応

ある企業では、特定の社員が頻繁に遅刻・欠勤を繰り返し、業務態度も不真面目で上司の指示を無視することが問題となっていました。上司が何度か注意をしたものの改善されず、他の社員の士気にも悪影響を及ぼしていました。

【弁護士の助言】

指導内容を記録し、改善指示書を作成。一定期間内に改善しない場合は懲戒処分の可能性を伝えることで、適正な指導を進める。

(2) 職場の規律を乱す社員の対応

社内で特定の社員が同僚に対して攻撃的な発言をしたり、協調性のない行動を取ることで、職場の雰囲気が悪化。パワハラに該当するかどうかの判断に迷い、適切な対応ができずにいた。

【弁護士の助言】

社内調査を実施し、事実関係を確認。パワハラに該当する場合は適切な処分を行い、そうでない場合でも業務指導として注意喚起を実施。被害者が出ないよう、相談窓口の整備も推奨。

(3) 指導するとパワハラを主張する社員

指導の一環として業務のミスを注意したところ、「パワハラだ」と主張し、会社側に対して問題提起を行う社員がいた。指導が適切だったかどうか判断がつかず、他の社員への指導も萎縮する状況になった。

【弁護士の助言】

指導の内容や方法を見直し、記録を残すことを推奨した。また、社内研修を通じて「適正な指導」と「パワハラ」の違いを明確にし、社内全体の理解を深めることにした。

(4) SNSで会社の悪口を拡散する社員

ある社員が、会社に対する不満をSNSで発信し、社名を伏せながらも批判的な投稿を繰り返していた。社内の雰囲気にも悪影響を及ぼし、他の社員からも苦情が寄せられた。

【弁護士の助言】

就業規則にSNS利用に関する規定を明文化し、企業イメージを損なう行為を禁止する方針を明示した。問題社員には指導を行い、場合によっては懲戒処分の検討を助言した。

(5) 改善の見込みがない社員の解雇相談

問題行動を繰り返し、何度指導しても改善が見られない社員について、会社として解雇を検討。解雇の正当性や手続きについて適切に進めたいが、法的リスクを懸念していた。

【弁護士の助言】

解雇の要件を満たしているかを精査し、指導記録や勤務態度の証拠を整理。最終的に「普通解雇」または「諭旨退職」を提案し、トラブルを最小限に抑える方法を助言した。

これらの事例のように、問題社員の対応は慎重に進める必要があります。弁護士の助言を受けながら、適切な指導や法的対応を取ることが重要です。

予防策

(1)  採用段階での見極め

問題社員の発生を未然に防ぐためには、採用段階で適切な選考を行い、企業文化に合わない人材の入社を防ぐことが重要です。以下のポイントに注意することで、リスクを最小限に抑えられます。

(a) 採用基準を明確にする

単にスキルや経験だけでなく、企業の価値観やチームワークを重視できる人物かどうかを評価基準に含めます。

例えば、協調性や責任感、コミュニケーション能力など、企業の文化に適した資質を明確に定義し、それに基づいて選考を行います。

(b) 面接での質問を工夫する

過去の職場での人間関係や困難な状況でどのように対応したかを尋ねることで、候補者の問題解決能力や性格を把握できます。

例えば、「前職で意見が対立した際、どのように対応しましたか?」といった質問を通じて、協調性や柔軟性を見極めることができます。

(c) リファレンスチェックを活用する

前職の上司や同僚から勤務態度や職務遂行能力について情報を得ることで、履歴書や面接では分からない問題点を事前に把握できます。

 (d) 試用期間を適切に活用する

採用後すぐに本採用とせず、一定期間の試用期間を設け、実際の勤務態度や適性を慎重に評価します。

問題が見られる場合は早期に指導し、改善が難しい場合は本採用を見送ることも選択肢となります。

これらの対策を講じることで、問題社員の入社リスクを抑え、企業に適した人材を確保することができます。

(2) 研修制度の充実

問題社員の発生を防ぐためには、採用後の研修制度を充実させ、社員の意識や行動を適切に導くことが重要です。研修を通じて企業の価値観や行動基準を浸透させることで、早期の問題発生を防ぎ、組織全体の健全な職場環境を維持できます。

(a) 入社時研修の充実

新入社員に対し、企業理念や行動規範、職場のルールを明確に伝えることで、適切な職業倫理を理解させます。特に、ハラスメント防止や業務態度に関する具体的な指導を行い、職場での適切な振る舞いを習得させることが重要です。

(b) 定期的なフォローアップ研修の実施

入社時だけでなく、一定の期間ごとに研修を行い、問題が発生しやすいポイントを再確認させます。例えば、職場のコミュニケーションスキル向上、チームワーク強化、メンタルヘルス対策などの研修を実施し、社員の適応力を高めます。

(c) 管理職向けの指導研修

問題社員が発生した際、現場の管理職が適切な対応を取れるよう、指導の方法やハラスメントにならない叱責の仕方、適正な評価・フィードバックの仕方を学ぶ機会を提供します。これにより、問題社員が適切に指導されるとともに、職場環境の悪化を未然に防ぐことができます。

 (d) 研修の内容を実践的にする

ロールプレイやケーススタディを取り入れ、実際の職場での問題に対応できるスキルを養います。

これらの研修制度を継続的に実施することで、問題社員の発生を未然に防ぎ、職場全体の生産性とモラルを向上させることができます。

(3) 職場環境の改善

問題社員の発生を防ぐためには、職場環境を整え、社員が健全に働ける仕組みを構築することが重要です。環境が適切でない場合、不満やストレスが蓄積し、社員のモチベーションが低下することで問題行動が生じやすくなります。

以下の取り組みを行うことで、問題社員の発生を未然に防ぐことができます。

(a) 明確な業務ルールの設定と周知

職場のルールが曖昧だと、社員によって解釈が異なり、不公平感が生じる原因となります。就業規則や評価基準を明確にし、業務遂行の基準や期待される行動を明確に伝えることで、問題行動を未然に防ぐことができます。

(b) 公正で適切な人事評価制度の確立

不公平な評価や曖昧な昇進基準は、社員の不満を招き、モチベーションの低下を引き起こします。定期的なフィードバックを行い、成果や努力を正当に評価することで、社員の納得感を高め、職場の規律を維持することができます。

(c) 円滑なコミュニケーションの促進

上司と部下の間の対話が不足すると、不満が蓄積しやすくなります。定期的な1on1ミーティングや意見交換の場を設け、社員が悩みや意見を率直に伝えられる環境を作ることで、早期に問題を把握し、適切な対応を取ることが可能になります。

(d) 職場のストレス管理とメンタルヘルス対策

働きやすい環境を整えることで、ストレスによる問題行動の発生を防ぐことができます。

このように、職場環境を改善することで、問題社員の発生を未然に防ぎ、組織全体の生産性と健全性を向上させることができます。

(4) 相談窓口の設置

問題社員の発生を未然に防ぐためには、社員が悩みや不満を抱え込まず、適切に対処できる環境を整えることが重要です。その一環として、社内外の相談窓口を設置し、早期に問題を発見・解決する仕組みを構築することが効果的です。

(a) 社員が安心して相談できる環境を整える

相談窓口が形だけのものであったり、利用すると不利益を被ると感じられるようでは機能しません。相談者のプライバシーを厳守し、匿名での相談も可能にすることで、社員が気軽に利用できるようにします。また、相談窓口の存在を周知し、利用しやすい雰囲気を醸成することが必要です。

(b) 適切な対応ができる担当者を配置する

相談を受ける担当者は、労務管理やメンタルヘルスの知識を持ち、冷静かつ公正に対応できる必要があります。社内に専門の担当者を置くだけでなく、社外の第三者機関と連携し、外部相談窓口を設けることで、相談のハードルを下げることができます。

  (c) 相談内容を活かした職場環境の改善

相談窓口を通じて集まった意見や課題を分析し、問題が発生しやすい部署の特定や職場環境の見直しを行うことで、組織全体の働きやすさを向上させることができます。

このように、適切な相談窓口を設置し、社員の声を早期にキャッチして対応することで、問題社員の発生を防ぎ、企業全体の健全な運営につなげることができます。

問題社員の指導を弁護士に相談するメリット

問題社員の指導を適切に行うためには、法的リスクを十分に考慮しながら対応する必要があります。誤った対応をすると、パワハラや不当解雇を主張され、労働紛争に発展する可能性があります。そのため、弁護士に相談することは企業にとって大きなメリットとなります。

(1) 法的リスクを最小限に抑えられる

労働基準法や労働契約法、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)など、労働問題に関わる法律は複雑です。弁護士に相談することで、指導の際に違法性のある対応を避けることができ、企業が不利な立場に置かれることを防げます。

(2) 問題社員に対する適切な指導方法を具体的にアドバイス

例えば、指導の際の言葉遣いや手順、書面の作成方法など、適正な対応を弁護士が助言することで、パワハラにならない適切な指導が可能になります。また、指導記録の作成方法や懲戒処分の進め方など、企業の実務に即した対応も指導できます。

(3) 最悪の場合の紛争対応にも備えられる

万が一、問題社員から訴えを起こされた場合でも、事前に弁護士と相談しながら指導を進めていれば、企業側が適切な対応を取っていた証拠を残せます。これにより、労働審判や訴訟で不利な立場に立たずに済みます。

(4) 企業の労務管理体制を強化できる

弁護士のアドバイスをもとに、就業規則や指導マニュアルを整備することで、将来的な労務トラブルを未然に防ぐことができます。

このように、弁護士に相談することで、問題社員の指導を適切かつ安全に行い、企業のリスクを軽減することができます。

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Last Updated on 8月 6, 2025 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

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