【2025年4月以降】高齢者雇用と企業が取り組むべき対策

高齢者雇用

日本は急速に少子高齢化が進み、2025年には団塊の世代がすべて75歳以上となります。 労働力人口の減少は企業経営にとって深刻な課題であり、高齢者の活用は不可避の流れです。

2021年改正高年齢者雇用安定法では、70歳までの就業機会確保が「努力義務」とされ、2025年4月以降もこの方針は一層重視されます。

高齢者雇用安定法とは、働く意欲のある高齢者が安心して長く働けるよう「就労機会の確保」「労働環境の整備」を進めるための法律です。

単なる雇用延長ではなく、企業の戦略的取り組みが求められる局面に入っているといえます。

(1) 雇用制度の柔軟化

まず、高齢者の心身の状況に応じた多様な働き方の導入が必要となります。

フルタイム勤務を前提とせず、短時間勤務や週数日の勤務、在宅勤務などを組み合わせることで、無理なく就業を継続できる環境を整える必要があります。

成果に応じた職務型人事制度の導入も有効であり、年功的な処遇ではなく、能力や役割に応じた公正な評価が不可欠です。

(2) 安全・健康への配慮

高齢者雇用の拡大に伴い、労働災害や健康リスクへの対策が欠かせません。

作業環境の改善、休憩時間の確保、定期的な健康診断やメンタルケアの導入が求められます。

特に製造業や建設業では身体的負荷が大きいため、作業負担の軽減措置やAI・機械の導入による補助を進めることが効果的です。

(3) 教育・研修と世代間協働

高齢者の強みは長年の経験と知識です。これを次世代に継承する仕組みを整えることが企業の競争力強化につながります。

OJTやメンター制度を通じて若手社員への指導役を担ってもらうとともに、高齢者自身にもデジタルスキル研修やリスキリングの機会を提供することが重要です。

世代間の協働を促進し、互いの強みを生かす職場づくりが求められます。

(4) 外部委託・社会貢献活動との連携

70歳以降フルタイム雇用が難しい場合には、シルバー人材センターや地域団体、NPOとの連携も有効です。

企業内の業務委託やボランティア活動を通じて社会とのつながりを維持できるようにすることで、企業は地域社会への貢献と人材確保の両立を図れます。

(5) コンプライアンスとリスク管理

高齢者雇用が進むと、体力・能力に見合わない業務配置や不適切な解雇がトラブルの原因となります。労働契約や就業規則の整備、合理的な人事評価基準の策定、労務トラブル発生時の適切な対応体制を構築することが不可欠です。

(6) まとめ

2025年以降、高齢者の就業は「社会的要請」から「企業の存続戦略」へと位置づけが変わります。

企業は多様な働き方の導入、安全衛生管理、教育研修、外部との連携、法的リスク対策を総合的に講じることで、高齢者の力を最大限に活用しながら持続的成長を実現していく必要があります。

高齢者雇用の基本的な法律ルール

(1) 高年齢者雇用安定法の枠組み

「高年齢者雇用安定法」では、定年を原則60歳以上に定めることを義務づけています。

さらに、65歳までの安定した雇用を確保するために、企業は次のいずれかの措置を講じることが義務とされています。

 ① 定年の引上げ

 ② 継続雇用制度(再雇用制度)の導入

    ③ 定年制の廃止

  すべての企業は労働者が65歳まで働ける環境を整えることが求められます。

(2) 70歳までの就業確保措置(努力義務)

2021年の法改正により、70歳までの就業機会を確保する努力義務が企業に課されました。具体的には、定年延長や再雇用だけでなく、フリーランス契約や業務委託、社会貢献活動への参加支援といった多様な選択肢が含まれます。義務ではなく努力義務ですが、国の方針としては高齢者が意欲と能力に応じて長く働ける社会の実現を目指しています。

(3) 雇用条件と処遇の取り扱い

再雇用制度を導入する場合、企業は就業規則や労使協定で基準を定めることが必要です。原則として希望者全員を対象とし、例外的に勤務態度や健康状態など合理的な理由で対象外とする場合のみ制限が認められます。

また、賃金水準については法律上の制約はなく、通常は定年前に比べて減額されるケースが多いですが、不合理な格差とならないよう注意が必要です。

(4) 定年後再雇用に関する留意点

定年後の雇用形態は有期契約とすることが多く、更新の仕組みや雇止めのルールが問題になることがあります。雇止めを行う際は、労働契約法や判例法理に基づき合理性・相当性が求められるため、事前の説明や基準の明確化が不可欠です。

また、職務内容や勤務時間を本人の体力や能力に応じて柔軟に設定することも、円滑な継続雇用のために重要です。

(5) 安全衛生と職場環境整備

高齢者雇用を進めるうえで忘れてはならないのが安全衛生管理です。身体的負荷を軽減する作業環境、転倒防止などの安全対策、健康診断やメンタルケアの充実が必要です。労災防止の観点からも、企業は適切な職場環境を整備する責任を負います。

(6) まとめ

高齢者雇用の基本ルールは①「60歳以上定年」、②「65歳までの雇用確保義務」、③「70歳までの就業確保努力義務」が大きな柱です。

加えて、処遇の公正性、合理的な再雇用基準、安全衛生への配慮が企業に求められます。

単なる義務対応にとどまらず、高齢者の経験や能力を生かす仕組みを構築することこそが、企業の競争力と持続的成長につながります。

高齢者雇用と就業規則

企業が高齢者雇用に取り組む際、必ず整備しなければならないのが「就業規則」です。 就業規則は労使関係の基本ルールを定めるものであり、高齢者雇用を円滑に進めるための枠組みを規定する役割を担います。

(1) 高年齢者雇用安定法と就業規則

高年齢者雇用安定法は、①定年を原則60歳以上にすることを企業に義務づけ、さらに②65歳までの雇用確保措置(定年延長、継続雇用制度の導入、定年制廃止)のいずれかを選択することを義務化しています。

これを受け、企業は就業規則において定年年齢や再雇用の仕組みを明確に定めなければなりません。再雇用制度を採用する場合、対象者や契約条件、手続き方法を記載することが不可欠です。

(2) 再雇用制度に関する規定

就業規則には、定年後に希望者全員を対象とする再雇用制度を設けることが必要です。  対象範囲を制限する場合は、健康状態や勤務態度など合理的理由がある場合に限られます。また、再雇用後の雇用形態は有期契約が一般的であるため、契約期間、更新基準、雇止めの条件を就業規則や関連規程で明示することが求められます。

曖昧な規定はトラブルの原因となるため、透明性と公平性が重要です。

(3) 賃金・労働条件の取り扱い

定年後再雇用の賃金水準については法律上の制約はありませんが、不合理な格差を生じさせないよう留意する必要があります。

就業規則において賃金決定の原則を明文化し、仕事内容や責任の程度に応じた合理的な水準を設定することが重要です。

また、労働時間や休日についても、本人の体力や希望を考慮した柔軟な制度を導入することが望まれます。

(4) 安全衛生と高齢者雇用

高齢者は身体的リスクが高まるため、就業規則において安全配慮義務を明示し、定期健康診断や必要に応じた配置転換のルールを整えておくことが有効です。

さらに、ハラスメント防止や公正な評価制度についても規定しておくことで、安心して働ける環境を確保できます。

(5) 70歳までの就業確保と就業規則の対応

2021年の改正により、70歳までの就業機会を確保する努力義務が導入されました。企業は直ちに義務づけられてはいないものの、フリーランス契約や社会貢献活動支援など多様な選択肢を就業規則や関連制度に盛り込むことが推奨されます。これは企業イメージの向上や人材確保にもつながります。

(6) まとめ

高齢者雇用をめぐる就業規則の整備は、単なる法令遵守にとどまらず、企業の持続的成長に直結する重要課題です。

定年年齢の明示、再雇用制度の透明性、公正な賃金制度、安全衛生への配慮、そして70歳までの就業機会確保を見据えた制度設計が求められます。

就業規則を適切に整えることで、高齢者の経験と知恵を生かしつつ、労務リスクを最小化し、企業全体の競争力強化につなげることが可能となります。

2025年以降 65歳までの雇用確保に対する経過措置終了

(1) 変更点

日本の労働市場では、少子高齢化に伴う人手不足を背景に、高齢者雇用の安定確保が長年の政策課題とされてきました。

その中核となるのが「高年齢者雇用安定法」であり、企業には定年を60歳以上と定める義務に加え、65歳までの雇用を確保するための措置を講じることが義務づけられています。

具体的には、①定年の引上げ、②継続雇用制度(再雇用・勤務延長)、③定年制の廃止のいずれかを選択する仕組みです。

しかし、従来は中小企業を中心に即時対応が難しいケースも多く、一定の「経過措置」が認められてきました。例えば、労使協定で対象者を限定した再雇用制度を認めるなど、完全な65歳雇用確保を猶予する形です。ところが、この経過措置は2025年3月末で終了し、同年4月以降はすべての企業に対して例外なく「希望者全員を65歳まで雇用する義務」が課されました。

(2) 経過措置終了に向けて企業に求められる対応

この変更により、企業は以下のような対応を迫られます。

 ① 就業規則・雇用契約の見直し

経過措置終了後は、健康状態や勤務態度を理由に恣意的に対象者を除外することはできず、原則として希望するすべての労働者に雇用機会を提供しなければなりません。そのため、就業規則や再雇用規程の改訂が不可欠です。更新基準、雇用形態、労働条件を明確に規定しておくことがトラブル防止につながります。

 ② 賃金・処遇制度の整備

定年前と同じ条件で雇用する義務はないものの、不合理な格差とならないよう注意が必要です。

職務内容や責任に応じた水準を設定し、賃金制度の合理性を説明できるよう準備しなければなりません。

加えて、社会保険や退職金制度との整合性も再検討する必要があります。

 ③ 安全衛生と労働環境の改善

65歳まで雇用することを前提とすると、加齢による体力低下や健康リスクに配慮した環境整備が求められます。業務の分担や配置転換、機械化による補助、健康診断やメンタルケア体制の充実は必須です。労災リスクの高まりに備え、労務管理の強化が必要となります。

 ④ 人材活用戦略の再構築

経過措置終了は単なる法的対応にとどまらず、企業の人材戦略に直結します。

高齢者の経験や技能を活かし、若手育成や技術伝承に結びつける仕組みを設けることが重要です。

また、短時間勤務や柔軟な働き方の導入により、高齢社員が無理なく就業できる制度を整えることも有効です。

 ⑤ まとめ

2025年4月以降、経過措置が終了することで、企業は「希望者全員を65歳まで雇用する義務」を負うことになります。これは単なる法令遵守の問題ではなく、人材確保や組織活性化の観点からも避けて通れない課題です。企業は就業規則・処遇制度の整備、安全衛生管理の強化、人材活用戦略の再構築を総合的に進めることで、高齢者雇用をリスクではなく成長の機会へと転換していく必要があります。

(3) 高年齢者雇用確保措置を行わない企業のリスク

高年齢者雇用確保措置を怠ると、ハローワークを通して、厚生労働大臣から指導・助言・勧告を受ける可能性があります。

また、勧告にも従わずにいると企業名が公表されるおそれもあります。

これらは企業イメージを損なうだけでなく、従業員からの信用も失う原因となります。

結果として、顧客や取引先の減少、採用活動の難航、離職者の増加といった様々な事態を招くおそれがあるため、必要な高年齢者雇用確保措置は積雪に講じることが重要です。  

助成金・給付制度

国は企業が高齢者雇用に取り組むことを後押しするため、さまざまな助成金や給付制度を設けています。これらを有効に活用することで、企業は人材確保とコスト負担の軽減を両立できる一方、高齢者にとっても安心して働き続けられる環境が整備されます。

(1) 高年齢者雇用安定助成金

高年齢者の雇用確保措置(定年延長や定年廃止、継続雇用制度の導入など)を講じた企業に支給される助成金です。定年を65歳以上に引き上げたり、希望者全員を対象とする再雇用制度を導入した場合などが対象となります。特に2025年4月以降は経過措置が終了し、65歳までの雇用確保が義務化されるため、制度整備と助成金活用の重要性は一層高まります。

(2) 高年齢者無期雇用転換コース

有期契約で働いている高齢者を無期雇用に転換した場合に助成される制度です。雇用の安定性を高める取り組みを支援するもので、企業にとっても人材の定着を図る効果があります。

(3) 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

賃金制度や人事評価制度を見直し、高齢者が能力や成果に応じて働き続けられる仕組みを整備した場合に支給される助成金です。高齢者特有の課題(体力の低下、勤務時間の柔軟性など)に配慮しつつ、モチベーション維持を目的としています。

(4) 人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)

職務内容や勤務形態を見直して多様な働き方を導入し、人材確保につなげる取り組みを支援する制度です。高齢者に限らず幅広い年齢層が対象ですが、高齢者雇用に活用する企業も増えています。

(5) 在職老齢年金・雇用保険制度との関係

65歳以上の労働者が就労を続ける場合、公的年金との調整が発生します。在職老齢年金制度では、賃金と年金の合計額が一定水準を超えると年金が一部減額されますが、2022年の改正により基準額が引き上げられ、働きながら年金を受給しやすくなっています。さらに65歳以上も雇用保険の「高年齢雇用継続給付」を受給でき、賃金が定年前より低下した場合に一定割合が補填されます。

(6) 助成金活用の留意点

  助成金は要件や申請手続きが細かく定められており、事前計画や労務管理体制の整備が不可欠です。就業規則の改訂や労使協定の締結、労働条件通知書の発行など、書類上の整合性が求められるため、社会保険労務士などの専門家と連携して活用することが望まれます。

(7) まとめ

高齢者雇用を促進するための助成金や給付制度は多岐にわたり、制度整備、無期雇用転換、雇用管理改善、働きながらの年金・雇用保険給付まで幅広く設けられています。企業はこれらを積極的に活用し、高齢者が安心して働ける環境を整えるとともに、人材不足への対応や企業の持続的成長につなげることが求められます。

高齢者雇用については弁護士にご相談ください。

Last Updated on 9月 29, 2025 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

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