
内部通報制度とは?
(1)内部通報制度とは、企業が企業内の不正を早期に発見して企業と従業員を守るため、組織内の不正行為に関する通報・相談を受け付け、調査・是正する制度です。
(2)公益通報者保護法により、従業員数(アルバイトや契約社員、派遣労働者も含む。)が300人を超える企業には、内部通報制度の導入が義務づけられています。
(3)また、従業員数が300人以下の企業にも、内部通報制度の整備に努めることが求められています。
(4)企業は通報者や相談者に不利益な取り扱いをすることが禁じられており、通報窓口などの担当者には、通報者を特定させる情報の守秘義務が課されています。
企業の規模や従業員数にかかわらず、内部通報制度を整備していない場合、消費者庁による行政措置(報告徴収、助言、指導、勧告)の対象となり、企業名が公表されることもあります。報告徴収に応じない、又は虚偽報告をした場合は、20万円以下の過料を科されることがあります。
内部通報制度が必要な企業とは?
内部通報制度が必要な企業とは、以下のいずれかに該当する企業・組織が中心となります。これは法的な義務のあるケースと、実務上導入が強く推奨されるケースの両面から説明できます。
(1)法的に制度整備が「義務」または「努力義務」とされる企業
一定規模以上の企業(改正公益通報者保護法による義務)
常時使用する労働者が300人を超える企業 → 内部通報制度の整備義務(通報対応業務従事者の選任等)が明記されています(2022年6月改正施行)
労働者数300人以下の企業は、「制度整備は努力義務」とされています。
(2)実務上、制度整備が強く求められる企業
①上場企業・上場準備企業
金融商品取引所のコーポレート・ガバナンス・コードで、内部通報制度の整備が求められており、投資家・監査法人のチェック対象にもなります。
②公的資金を受ける企業・医療法人・社会福祉法人など
不正や不祥事が発覚した場合の社会的影響が大きく、行政機関や利用者からの信頼維持の観点で、内部通報制度が強く期待されます。
③海外取引・多国籍展開を行う企業
欧米を中心に内部通報制度の整備が法令等で義務化されており、国際的なコンプライアンス対応が求められます。
(3)ハラスメントや不祥事のリスクが高い企業
業界的に労務トラブルや職場ハラスメントが起きやすい環境にある企業では、社内に上下関係が強く、問題の表面化が難しいとされています。すでに過去に不祥事や法令違反を起こしており、再発防止の体制が必要とされています。
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ハラスメント対応
内部通報制度の目的とは?
内部通報制度の目的は、組織の内部で起こる不正・法令違反・不適切な行為を早期に発見・是正し、企業の健全な運営と社会的信頼を守ることです。
以下のように、複数の観点から重要な目的が存在します。
(1)法令遵守(コンプライアンス)の徹底
従業員等からの通報を通じて、法令違反行為を早期に発見し、是正措置を講じることで、違法行為の継続や拡大を防ぐことができます。
結果として、企業の法的リスクや行政制裁の回避につながります。
(2)企業の自浄作用の強化
社内の問題を外部に漏れる前に把握し、自社の力で改善できる体制を整えます。
これにより、社会的信用の失墜を防ぎ、ブランドを保護することができます。
(3)通報者(公益通報者)の保護
通報者が報復を恐れずに通報できる環境を整備し、正義に基づく行動を支援することができます。
(4)ハラスメント・不祥事の予防
パワハラ・セクハラ・差別的取扱いなどの職場トラブルを早期に把握し、再発防止策を講じることができます。
(5)リスクマネジメントと経営の安定
不正・違法行為が大きな損害や訴訟リスクに発展する前にリスクを可視化・管理することができます。投資家・取引先・消費者などからの信頼を維持し、企業価値を守ることができます。
(6)ステークホルダーへの説明責任
内部通報制度が機能していることは、ガバナンス体制が整っている企業として評価されます。
内部通報制度を導入する手順
内部通報制度を導入する際には、おおむね次の手順に従って進めます。
(1)経営幹部で内部通報制度の導入を検討
(2)内部通報対応の責任者と窓口設置部署を選定
(3)通用の受付対応を行う「従事者」を指定し、研修を実施
(4)内部規程、対応マニュアル、通報受付票を準備
(5)従業員・役員などに研修、周知
消費者庁では、経営者による内部通報体制の整備を促進し、企業における不正の早期発見・是正を促すために、「内部通報制度支援キット」を策定・公表しています。キットには経営者・従業員それぞれを対象としてリーフレット・動画のほか、企業が策定しなければならない「内部通報に関する内部規程」のサンプルなども含まれています。
内部通報の対象となる行為
(1)公益通報者保護法では、すべての法律への違反が通報対象となるわけではありません。対象となる主な例は、以下のとおりです。
① 上司が会社の資産を横領している。
② 保険金を不正請求している。
③ 残業代の不払いや労災隠しをしている。
④ 地産表示偽装をして商品を販売している。
⑤ 安全基準を超える有害物質が含まれる食品を販売している。
(2)このように、内部通報の対象となるのは「犯罪行為」「過料となる行為」「刑罰もしくは過料につながる行為」です。
職場で行われたセクシャルハラスメントやパワーハラスメント、従業員の私生活上の法令違反などは、内部通報には該当しないので注意が必要です。
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制度導入後に企業に求められる対応
内部通報制度を導入し、従業員などから通報をうけた場合、企業は以下のような対応をすることはできません。
(1)通報者を解雇したり、労働者派遣契約を解除したりすること
(2)通報者に退職を強要すること
(3)通報者を降格させたり、減給したりすること
(4)通報者の退職金を支給しなかったり、減額・没収したりすること
(5)通報者に自宅待機命令を行うこと
(6)通報者に損害賠償請求を行うこと
(7)通報者を特定できる情報を公開すること
(8)通報を妨害すること
内部通報を受けた場合、通報者に対して「通報が受け付けられたこと」「調査によって通報対象の不正行為が是正されたこと」または、「調査の結果不正行為事実がなかったこと」を通知する必要があります。
内部通報制度に違反した際の罰則について
(1)事業者が義務を怠り、内部通報制度を整備しないときは、行政による指導や勧告の対象となり、勧告に従わない場合は、事業者名を公表できることが定められています。
(2)行政が事業者に対し内部通報制度の整備状況について報告を求めても、事業者が応じないときは、事業者に対し、20万円以下の過料が科されることが定められています。
(3)担当者が通報者の特定につながる情報を外部に漏らした場合は、30万円以下の罰金が科されます。
内部通報制度について弁護士に依頼ができること
内部通報制度は、機能的かつ法令に適合し、通報者保護と企業防衛のバランスが取れていることが重要です。その実現のために弁護士のサポートは非常に有効です。
(1)内部通報制度構築の支援
内部通報制度は、不正や不祥事を早期に発見し、会社を守るために非常に重要な制度です。内部通報制度が適切に構築されていなければ、高額の損害賠償義務が発生するリスクがあります。
企業としては適切に内部通報制度を構築すべきですが、専門的な知識が必要な分野ですので、自社だけではなかなか難しい面があると思われます。
会社の状況や希望を伺い、最適な内部通報制度の構築をご提案することが可能です。
(2)内部通報窓口の依頼
内部通報窓口を社外の顧問弁護士ではない法律事務所に委託することで、経営陣から独立し、秘密保持が徹底された通報ルートを確保することができます。
このような社外窓口は、通報者に安心感を与えるため、通報しやすく、通報に際しての相談に対しても対応可能な最適な内部通報窓口といえます。
内部通報窓口の設置についてのご依頼を承っています。
(3)通報内容に関する検討、調査
内部通報がなされた場合、通報内容を十分検討し、調査が必要なものとそうでないものにわける必要があります。
また、調査が必要な場合は早期に適切な調査を行うことは、会社の信頼を回復するための措置を迅速にとることができます。
通報内容に関する検討、調査も承っております。
(4)内部通報制度に関する社内研修
内部通報制度を実効的なものにするためには、内部通報制度の周知に取り組み、制度の意義について社内の理解を深める努力をすることが必要です。
当事務所では、弁護士が社内研修の講師として、内部通報制度の意義や制度内容を説明し、制度の周知をサポートする取り組みも行っています。

Last Updated on 6月 26, 2025 by kigyo-kumatalaw
この記事の執筆者:熊田佳弘 私たちを取り巻く環境は日々変化を続けており、様々な法的リスクがあります。トラブルの主な原因となる人と人の関係は多種多様で、どれ一つ同じものはなく、同じ解決はできません。当事務所では、まず、依頼者の皆様を温かくお迎えして、客観的事実や心情をお聞きし、紛争の本質を理解するのが最適な解決につながると考えています。どんなに困難な事件でも必ず解決して明るい未来を築くことができると確信し、依頼者の皆様に最大の利益を獲得して頂くことを目標としています。企業がかかえる問題から、個人に関する問題まで、広く対応しています。早い段階で弁護士に相談することはとても重要なことだと考えています。お気軽にご相談にお越しください。 |