フランチャイズ店舗を開業できなかった加盟希望者からの支払拒絶に対し、加盟金等の請求が認められた事例
1 依頼者の概要
業種 エステティックサロン
地区 福岡市
従業員数 10名
2 事案
エステサロンを運営する会社が、ショッピングモール内に新たな店舗を出店する予定の方との間で、フランチャイズ契約を締結しました。
契約では、会社が店舗での商号や運営ノウハウの使用を認め、加盟者が加盟金200万円(税別)を支払うことなどを定めていました。
また、開業前にスタッフが研修を受け、その費用や研修に伴う実費を加盟者が負担することになっていました。
しかし、加盟者は開業資金の融資を受けられず、予定していた店舗を開業できませんでした。加盟金や研修費用なども支払われなかったため、会社は、加盟金216万円、スタッフ研修費用21万6000円、スタッフの給与・制服代等の立替金などを請求しました。
これに対し加盟者は、「融資を受けて出店することができなかった以上、契約は無効である」「会社の説明や対応に問題があり、契約を解除した」などと主張しました。さらに、開業に向けて購入した美容機器の代金約306万円についても、会社に返還を求めました。
開業に至らなかった場合でも加盟金の支払義務が残るのか。研修費用や立替金はどこまで請求できるのか。契約締結前の説明や開業準備中の対応が、契約の効力にどう影響するのか。これらが争われた事件です。
3 経過
会社と加盟者は、出店に向けて店舗の構想、美容機器、資金調達、スタッフの採用などについて協議を重ねていました。加盟者は会社から美容機器を購入し、出店予定のショッピングモールに対しても、フランチャイズ契約の締結を前提とする書類を提出していました。
会社は、加盟者から融資に必要な資料などについて相談を受け、開業準備に協力しました。また、店舗スタッフとして採用予定の2名に対し、機器の取扱いや施術方法などの研修を行い、給与、交通費、制服代をいったん支払いました。
その後、両者はフランチャイズ契約書に署名しました。しかし、加盟者は開業資金の融資を受けられず、加盟金等も支払いませんでした。会社が代理人弁護士を通じて支払を求めたところ、加盟者は契約の効力を争い、紛争は訴訟に発展しました。
第一審は、会社の請求のうち、加盟金220万円、スタッフ研修費用22万円、立替金21万円と、これらに対する遅延損害金の支払を認めました。一方、保証金100万円や航空券代などの請求は認めず、加盟者による美容機器代金の返還請求も退けました。
加盟者は、会社への支払を命じた部分の取消しを求めて控訴しました。会社も、認められなかった請求について附帯控訴しました。高等裁判所で、双方の主張が改めて審理されました。
加盟者は控訴審で、融資や店舗の賃貸借契約が実現しなければフランチャイズ契約は効力を生じないはずだった、融資を受けられると思って契約したのだから錯誤がある、加盟金は提供される価値に比べて高額である、といった主張をしました。
会社側は、開業資金の調達は加盟者自身が担うものであり、融資の実行を契約の条件とはしていないことを指摘しました。その上で、出店に向けて行った協議や協力、スタッフ研修の実施状況などを示し、契約に基づく支払を求めました。
4 解決
高等裁判所は、加盟者の控訴と会社の附帯控訴をいずれも棄却し、第一審の判断を維持しました。その結果、会社の請求は、加盟金220万円、スタッフ研修費用22万円、立替金21万円の合計263万円と遅延損害金の限度で認められました。
裁判所はまず、融資を受けることやショッピングモールとの賃貸借契約を締結することが、フランチャイズ契約の効力発生の条件になっていたとは認めませんでした。加盟者が資金を調達できず開業に至らなかったという結果だけで、契約が無効になるわけではないと判断したものです。融資に関する見込み違いを理由とする錯誤の主張も採用されませんでした。
加盟金について、加盟者は、商標登録がないことや別途ロイヤリティを支払う契約であることなどを挙げ、対価に見合わないと主張しました。
しかし裁判所は、会社が出店の構想や融資資料について相談に応じ、事業の引継ぎや求人にも協力していた事情などを検討しました。そして、加盟金が公序良俗に反するほど著しく対価性を欠くとは認められないと判断しました。
もっとも、裁判所は会社側の説明を全面的に是認したわけではありません。会社代表者が過去の利益について加盟者に伝えた内容には、正確性を欠く点があると指摘しました。ただし、説明が行われた時期や加盟者が出店を決めた経緯、今回は開業後の売上不振ではなく、そもそも開業に至らなかった事案であることなどを踏まえ、契約を解除できるほどの義務違反には当たらないと判断しました。
スタッフ研修費用については、会社が採用予定の2名に実際に研修を行い、加盟者も研修を受けさせることを少なくとも黙示に承諾していたとして、22万円の請求が認められました。給与、交通費、制服代についても、契約内容と採用・研修の経緯から、立替払の合意が認められる範囲として21万円の請求が認められました。
一方、会社の請求がすべて認められたわけではありません。保証金100万円については、将来の債務を担保するという性質を踏まえ、既に契約関係の清算段階にあり、新たな債務が発生する状態にもないことなどから、その時点で支払を求めることは信義則上許されないと判断されました。また、出張時の航空券代は、加盟者が負担するとの合意を示す十分な証拠がなく、請求は認められませんでした。
5 担当弁護士のコメント
この事例で大きな争点となったのは、店舗を開業できなかったという結果を、締結済みの契約と支払義務にどう結び付けるかという点でした。
裁判所は、融資が実行されなかった事実だけで判断するのではなく、契約書の定め、資金調達を誰が担う予定だったか、契約締結までに両者がどのような行動を取ったかを検討しています。
フランチャイズ契約では、出店場所の確保や融資が開業の前提になることがあります。 しかし、それらが契約の効力が生じるための条件なのか、加盟者が自らの責任で実現すべき開業準備なのかは、別の問題です。本件では、融資や賃貸借契約の成立を停止条件とする合意は認められず、加盟金の支払義務が残ると判断されました。
契約段階で融資の結果を待つのであれば、契約をいつ成立させるのか、融資が得られなかった場合に加盟金や準備費用をどう扱うのかを、書面で明確にしておくことが重要です。
また、契約書に支払義務を定めていても、費用の種類ごとに請求の根拠と証拠を確認する必要があります。
本件では、実施済みの研修やスタッフに支払った費用は認められましたが、保証金と航空券代は認められませんでした。特に、会社が費用を支出したというだけでは、相手方がその費用を負担する合意まで証明できるとは限りません。誰の依頼で、何のために支出し、最終的に誰が負担するのかを、その都度記録しておくことが役立ちます。
事業の収益見込みを説明する際にも注意が必要です。この判決では、会社側の利益に関する説明の正確性に問題があると指摘されました。今回は契約解除を認める結論には至りませんでしたが、説明の内容や加盟判断への影響によっては、異なる評価につながる可能性があります。出店希望者に実績を示す場合は、売上と利益の違い、対象期間、経費の範囲を明らかにし、資料に基づいて説明することが大切です。
本件は、会社が主要な加盟金請求を維持できた一方、請求項目ごとに異なる判断が示された事例です。開業前に計画が頓挫する可能性も踏まえ、契約の成立時期、融資が得られなかった場合の扱い、研修・採用・立替費用の負担を具体的に定めておくことが、紛争の予防につながります。

Last Updated on 11月 5, 2026 by kigyo-kumatalaw
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