工事請負契約書に記載すべき内容とは?作成のポイントや雛形利用の注意点について弁護士が解説

1工事請負契約の基礎知識

(1)工事請負契約書とは

工事請負契約書とは、建設工事などの請負業務に関する契約内容を文書化したものであり、発注者と請負者(施工業者)双方の権利義務を明確にする重要な書面です。

(2)契約書を作成する目的

契約書を作成する目的は、契約内容の明確化、履行の確保、紛争の予防・解決、そして法的保護の役割にあります。

(a)契約内容の明確化

契約書には、工事の範囲、工期、報酬、支払い条件、仕様、品質基準などが具体的に定められます。これにより、双方の認識のずれを防ぎ、円滑な契約履行を促します。

(b)契約の履行を確保

契約書には、履行遅滞や不完全履行が生じた場合の措置、損害賠償や違約金の規定を盛り込みます。

特に、工事の遅延や瑕疵(欠陥)対応については、事前に取り決めることでトラブルの防止につながります。

(c)紛争の予防・解決

紛争が発生した際に契約書が証拠となり、解決の指針となります。

調停や裁判においても、契約内容が明確であるほど迅速な解決が可能です。

(d)契約書は法的保護の役割

民法や建設業法などの関連法令を踏まえ、適正な内容を定めることで、無効や無効とされるリスクを回避できます。

(3)工事請負契約と請負契約の違い

「請負契約」は、民法第632条に規定された契約類型であり、請負人が一定の仕事を完成させ、注文者がその成果に対して報酬を支払う契約を指します。

一方、「工事請負契約」は、請負契約の一種であり、特に建設工事や土木工事などの施工を目的とするものです。

両者の違いは、主に契約の対象と法的規制にあります。

一般的な請負契約には、ソフトウェア開発、出版物の執筆、デザイン業務なども含まれますが、工事請負契約は建築・土木工事など物理的な施工を対象とする点で異なります。

また、工事請負契約には、建設業法や公共工事入札契約適正化法などの特別法が適用される場合があります。特に、一定規模以上の建設工事を請け負うには、建設業法に基づく許可が必要となり、契約の適正化が求められます。

さらに、工事請負契約は工期が長期間に及ぶことが多く、資材の調達や施工の進捗管理などが契約内容に含まれます。そのため、瑕疵担保責任や履行遅滞に関する規定が厳格に求められる点も特徴的です。

このように、請負契約と工事請負契約は契約類型としては共通する部分があるものの、工事請負契約は建設工事特有の規制や実務上の特徴を有する契約であるという点が大きな違いとなります。

2工事請負契約に記載すべき必須項目

工事請負契約書には、契約の履行を円滑に進め、トラブルを防止するために、以下の必須項目を明確に記載する必要があります。

(1)契約当事者の情報

契約の当事者である発注者(施主)と請負者(施工業者)の氏名(名称)、住所、代表者名を記載します。

(2)工事の内容・範囲

具体的な工事の名称、施工場所、工事の範囲、仕様、使用する材料や設備などを詳細に定めます。これにより、認識のずれを防ぎます。

(3)工期(着工日・完成日)

工事の開始日と完了日を明記し、必要に応じて中間工程の期限を設けます。また、工期の延長が必要となる場合の条件も規定します。

(4)請負代金と支払条件

契約金額(消費税を含むかどうか)を明確にし、支払方法(分割・一括)、支払時期(着工時・中間・完成時)を定めます。

(5)変更・追加工事の取り扱い

追加工事や仕様変更が生じた場合の手続きや費用負担についてのルールを明記します。

(6)瑕疵担保責任

工事の瑕疵(欠陥)が発覚した際の補修義務や保証期間を定めます。建設業法では住宅瑕疵担保責任に関する規定もあるため、適用範囲を確認します。

(7)遅延・契約解除

工事の遅延が発生した場合の違約金や、契約解除の条件を規定し、万一のトラブルに備えます。

(8)紛争解決方法

係争が生じた際の協議の方法や、裁判・仲裁の管轄を明記します。

これらの項目を適切に記載することで、契約履行の確実性を高め、不要な紛争を回避することができます。

3工事請負契約書に記載しておくと安心な任意項目

工事請負契約書には、必須項目のほかに、契約の円滑な履行や紛争防止の観点から記載しておくと安心な任意項目があります。

これらを適切に盛り込むことで、契約当事者双方のリスクを軽減し、トラブルの未然防止につながります。

(1)工事の安全管理に関する事項

労働安全衛生法に基づく安全管理体制の確立や、事故発生時の責任分担を定めることで、労災トラブルを防止できます。また、第三者への損害賠償責任についても明確にしておくと安心です。

(2)資材・設備の調達責任

工事に必要な資材や設備を誰が調達するのかを明記し、資材不足による遅延を防ぎます。特に、発注者支給の資材がある場合は、品質や搬入時期の取り決めをしておくとよいでしょう。

(3)近隣住民への対応

騒音・振動・粉じんなどの問題が発生する可能性がある場合、近隣住民への事前説明やクレーム対応の責任範囲を明記しておくと、トラブルを回避しやすくなります。

(4)不可抗力による工期遅延の取り扱い

天災や戦争、法改正など、不可抗力による工期遅延の責任免除規定を定めておくと、双方の負担が不公平にならずに済みます。

(5)保証期間とアフターサービス

瑕疵担保責任とは別に、一定期間の無償点検やアフターサービスの範囲を明記しておくと、信頼関係の構築につながります。

(6)秘密保持義務

工事に関する設計図面や技術情報、発注者の事業計画などの秘密情報を第三者に漏洩しない義務を定めることで、機密保持が強化されます。

(7)反社会的勢力の排除条項

契約当事者が暴力団等の反社会的勢力と関係がないことを確約し、違反が判明した場合の契約解除条件を定めることで、企業リスクを軽減できます。

これらの項目を契約書に盛り込むことで、より実務に即したトラブル防止策を講じることができ、工事の円滑な進行が期待できます。

4工事請負契約書の雛形利用の注意点

工事請負契約書の雛形は、契約の基本的な枠組みを整えるうえで有用ですが、安易に使用すると当事者間の意図と合致しない契約内容となり、後のトラブルの原因となることがあります。

雛形を利用する際には、以下の点に注意が必要です。

(1)契約内容が工事の実態に適合しているか確認する

雛形は一般的な内容を網羅したものが多く、具体的な工事の内容や特性に適していない場合があります。工期、工事範囲、仕様、報酬条件などを実態に即して修正することが重要です。

(2)関連法規との適合性を確認する

建設業法、民法、労働基準法などの法改正に伴い、雛形の内容が最新の法令に準拠しているかを確認する必要があります。特に、2020年の民法改正による契約不適合責任の変更点を反映しているか注意が必要です。

(3)リスク分担のバランスを考慮する

雛形の多くは発注者有利または請負者有利な内容になっていることがあり、公平性を確保しないと契約交渉が難航することがあります。

瑕疵担保責任、遅延損害金、不可抗力による免責条項などについて、双方の立場から慎重に検討するべきです。

(4)具体的なトラブル時の対応を明記する

雛形には一般的な紛争解決条項が含まれていますが、実際の取引関係に応じた協議の手順や、裁判・仲裁の管轄を明確にすることで、トラブル発生時の対応をスムーズにできます。

このように、雛形を活用する場合でも、工事の具体的な状況に応じた修正を加え、慎重に内容を精査することが重要です。

5工事請負契約書作成のポイント

請負工事契約書を作成する際は、契約の明確化とトラブルの未然防止を目的として、以下のポイントに注意することが重要です。

(1)契約内容を具体的に記載する

工事の範囲、仕様、使用する材料、施工方法を詳細に定め、認識の違いによる紛争を防ぎます。特に、図面や仕様書を添付することで、より明確な契約内容となります。

(2)工期と遅延対応を明確にする

着工日と完成日を明記し、天災や資材不足などの不可抗力による遅延時の対応を規定します。また、工期遅延時の違約金についても、合理的な範囲で設定することが望ましいです。

(3)請負代金と支払条件を明確化する

契約金額の総額、支払い方法(分割・一括)、支払時期(着工時、中間、完成時)を具体的に定めます。追加工事が発生した場合の精算方法も規定しておくと安心です。

(4)瑕疵担保責任を適切に定める

工事完成後の瑕疵(欠陥)について、補修の範囲、保証期間、責任の所在を明確にし、無用な紛争を避ける工夫が必要です。住宅工事では、住宅瑕疵担保履行法に基づく保証の適用も検討します。

(5)契約解除の条件を設定する

施工不良や履行不能、債務不履行が生じた場合の契約解除の条件を定め、損害賠償の取り決めも行います。特に、破産や経営破綻時の解除条項も加えると安全です。

(6)紛争解決方法を明記する

トラブル発生時の協議の手順、裁判所の管轄を事前に定めておくことで、紛争時の負担を軽減できます。仲裁や調停の利用も選択肢に入れると良いでしょう。

これらのポイントを押さえて契約書を作成することで、請負工事におけるリスクを軽減し、円滑な工事の進行を実現できます。

6よくあるトラブルと対処法

工事請負契約では、契約内容の不明確さや認識の相違が原因でトラブルが発生することがあります。以下、よくあるトラブルとその対処法を解説します。

(1)工事内容の認識違い

【事例】施工範囲や仕様が不明確で、「発注者の想定と異なる仕上がりになった」「追加工事の有無で揉める」などのトラブルが生じることがあります。

【対処法】工事範囲や仕様を詳細に契約書に記載し、設計図や仕様書を添付することで、認識の相違を防ぎます。

また、変更や追加工事が発生した場合の手続きを契約書に明記しておくことが重要です。

(2)工期の遅延

【事例】天候不良や資材不足、施工不良によるやり直しなどで工期が遅れるケースが発生します。

【対処法】契約書に工期の延長が認められる条件を定めるとともに、遅延時の違約金や対応方法を規定しておくと、トラブルを回避しやすくなります。

(3)請負代金の未払い・支払い遅延

【事例】工事完了後に発注者が代金を支払わない、または支払いが遅れるケースがあります。

【対処法】契約書に支払期限や分割払いの条件を明記し、支払いが遅れた場合の遅延損害金を設定することで未払いリスクを軽減できます。

また、前払い金や中間金の支払いを契約に盛り込むのも有効です。

(4)瑕疵(欠陥)に関する責任問題

【事例】工事完了後に不具合が見つかり、補修をめぐってトラブルになることがあります。

【対処法】契約書に瑕疵担保責任(契約不適合責任)の期間と範囲を定め、補修の方法や費用負担のルールを明確にしておくことが重要です。

(5)契約解除の条件に関する争い

【事例】途中で契約を解除したいが、条件が明確でないため、損害賠償をめぐって争いになることがあります。

【対処法】契約解除の条件と違約金の有無を明確にし、双方が納得できる内容にしておくことで、不要な紛争を避けられます。

これらのトラブルを防ぐため、契約書を慎重に作成し、必要に応じて専門家の助言を受けることが重要です。

7弁護士に作成を依頼するメリット

工事請負契約書は、工事の内容やリスクに応じて適切に作成する必要があります。

雛形をそのまま使用すると、トラブル発生時に不利な契約内容になっていることがあり、慎重な対応が求められます。弁護士に相談することで、以下のメリットが得られます。

(1)契約内容の適正化とリスク回避

弁護士は法的知識をもとに、発注者・請負者のどちらにとっても公平かつ適正な契約内容を作成します。工期遅延、代金未払い、瑕疵(欠陥)対応などのリスクを事前に想定し、適切な条項を盛り込むことで、トラブルを未然に防ぐことができます。

(2)最新の法令に対応

工事請負契約には、民法(契約不適合責任)、建設業法、労働基準法、住宅瑕疵担保履行法などの関連法令が関係します。弁護士に相談すれば、最新の法改正を反映した適法な契約書を作成でき、違法な条項が含まれるリスクを回避できます。

(3)契約内容のカスタマイズが可能

一般的な雛形では、各工事の特性や取引関係を十分に反映できない場合があります。弁護士に相談することで、発注者・請負者の立場や事業内容に応じたオーダーメイドの契約書を作成でき、実態に即した契約を締結できます。

(4)万が一の紛争時にも有利な対応が可能

トラブルが発生した際、契約書の内容が不明確だと、発注者・請負者のどちらにとっても不利になる可能性があります。弁護士が作成した契約書であれば、紛争発生時に法的根拠を持って対応でき、裁判や仲裁の際にも有利に交渉を進めることができます。

(5)契約交渉のサポート

契約締結時に、相手方との交渉が必要な場合、弁護士が代理人として交渉を行うことも可能です。特に、大規模工事や複雑な契約内容の場合、専門的な知見を持つ弁護士が交渉をサポートすることで、より有利な条件で契約を締結できます。

このように、弁護士に相談することで、契約の適正化、リスク回避、トラブル対応力の向上が図れ、より安全な工事請負契約の締結が可能となります。

Last Updated on 4月 11, 2025 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

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