【解決事例】 預け金・内装工事代金請求

1 依頼者の概要

  業種 内装業

  地区 福岡市

  従業員数 5名

2  事案

 マンションの一室の改修工事を請け負った内装工事会社が、上位の下請会社の代表者に預けた200万円の返還と、未払いの工事代金約73万円の支払いを求めた事例です。

 改修工事は、元請会社、一次下請会社、当事務所の依頼者である二次下請会社、三次下請業者という体制で行われていました。工事中、マンションのエレベーター付近の壁などに傷が見つかり、一次下請会社の代表者は、依頼者の代表者に対して「管理組合から500万円の賠償請求を受けるかもしれない」「300万円で解決する。100万円は自分が負担するので、200万円を負担してほしい」と伝えました。依頼者の代表者は、翌日、この代表者に現金200万円を渡しました。

 その後、依頼者は、管理組合への対応や200万円の使い道について疑問を抱きました。また、一次下請会社から支払われていない工事代金もありました。そこで、依頼者は、交付した200万円の返還等を代表者と一次下請会社に求めるとともに、一次下請会社に対して未払いの工事代金を請求しました。

 争点となったのは、200万円を渡した経緯とその法的な性質です。依頼者側は、代表者から虚偽の説明を受けて金銭を交付したと主張するとともに、仮に詐欺が認められなくても、管理組合との紛争解決を任せるために預けた金銭である以上、使わなかった分は返還すべきだと主張しました。

 これに対し、相手方は、マンションの共用部分に実際に傷があり、依頼者側の下請業者がその原因となったとして、200万円の交付に違法性はないと反論しました。さらに、依頼者が傷の補修に対応しなかったため、一次下請会社は別の工事を受注・施工できなくなったとして、約275万円の損害賠償請求権による相殺も主張しました。

3 経過

 依頼者から相談を受けた当事務所は、まず、相手方に通知書を送り、200万円と未払いの工事代金の支払いを求めました。

 しかし、任意の返還には至らず、訴訟を提起しました。

 訴訟では、エレベーター付近の傷が工事によって生じたのかという点に加え、管理組合がどのような対応を求めていたのか、実際の補修内容と費用はいくらだったのかが重要になりました。そこで、管理組合に対して弁護士会を通じた照会を行い、傷の発見後の調査や補修に関する回答を得ました。

 裁判所は、提出された写真や関係者の行動、管理組合からの回答、後に行われた補修工事などを踏まえ、依頼者側の下請業者による工事に伴ってエレベーター付近の壁などが傷つき、一次下請会社が補修に対応したと認定しました。そのため、「事故がなかったことを前提に200万円をだまし取った」という依頼者側の主張は採用されませんでした。500万円の賠償請求の可能性という説明はやや大げさだとしながらも、当時は正確な見積額が分からず、代表者に詐欺の意図があったとまでは認められないと判断したのです。

 一方で裁判所は、200万円の交付には別の法的意味があると判断しました。代表者は、自分も100万円を負担して事故を解決すると申し入れ、依頼者はその対応を任せて200万円を渡しています。裁判所は、この経緯から、双方が補修費用を分担し、代表者側が事故の解決を図るという準委任契約が成立したと認定しました。その結果、代表者には、預かった200万円から依頼者が負担すべき実際の費用を差し引き、残額を返還する義務があると判断しました。

 返還額を決める上では、補修費用を裏付ける資料が焦点になりました。裁判所は相手方に対し、200万円の使い道の説明と支払いを示す証拠の提出を求めましたが、相手方はこれを提出しませんでした。代表者は、補修の下請業者に現金を支払ったと述べたものの、領収書は現在ないと説明し、裁判所はその供述をそのまま採用しませんでした。

 他方、補修工事自体は行われていました。そこで裁判所は、証拠として提出された41万2,500円の見積額を上限に補修費用を認定し、当初の合意に沿って、その3分の2に当たる27万5,000円を依頼者の負担分としました。

 未払いの工事代金について、一次下請会社は代金額と支払義務自体を認めていました。ただし、依頼者が補修に対応しなかったことにより、別工事の売上げを失ったとして相殺を主張していました。裁判所は、事故対応を代表者側に任せた経緯から、依頼者が自ら補修しなかったことは不法行為に当たらないと判断しました。また、別工事を実際に受注していたか、それを事故対応のために断念したかについても、十分な証拠はないとして、相殺を認めませんでした。

4 解決

 裁判所は、一次下請会社の代表者に対し、預り金200万円から依頼者負担分25万円を差し引いた175万円と、これに対する遅延損害金の支払いを命じました。

また、一次下請会社に対しては、未払いの工事代金75万円の全額と、これに対する遅延損害金の支払いを命じました。認められた元金の合計は、250万円です。相手方による相殺の主張は退けられました。

 なお、判決は、代表者に詐欺による損害賠償責任を認めたものではありません。200万円については、事故対応のために預けた金銭の残額を返還すべきだという理由で、請求の大部分が認められました。

5 担当弁護士のコメント

 建設工事では、現場で事故や損傷が見つかると、責任の所在や修理費が確定する前に、上位の発注者や下請会社との間で費用負担の話が進むことがあります。

 本件でも、依頼者は高額な賠償請求を受ける可能性を告げられ、急いで現金200万円を渡していました。

 訴訟では、当初の説明が詐欺に当たるかだけでなく、何のために金銭を渡し、相手方にどのような対応を任せたのかが重要になりました。裁判所は、傷の発生と補修の必要性を認めつつ、預かった200万円を全額保有できるわけではないと判断しました。実際の補修費用を裏付ける資料が提出されなかったことも、返還額の判断に関わりました。

 また、相手方は、依頼者が事故に対応しなかったため別工事の売上げを失ったと主張しました。しかし、事故対応は相手方に任せていたことに加え、別工事を断念した経緯や損害を示す証拠も十分ではなく、未払い代金との相殺は認められませんでした。

 事故対応のために金銭を預ける際は、その目的、費用の負担割合、精算方法を記録に残しておくことが大切です。本件は、当初に想定した法的構成が認められなくても、金銭を交付した経緯と実際の使途を丁寧に検討することで、返還請求が認められた事例です。

Last Updated on 11月 5, 2026 by kigyo-kumatalaw

この記事の執筆者:熊田佳弘

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